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17話 決死の救出劇

 悠人は、猿渡が会社を裏切った真の理由を知り、怒りを覚えるとともに彼を救い出す決意を固めた。莉子もまた、卑劣な組織のやり方に憤り、救出作戦への協力を申し出た。


「悠人さん、私にもできることがあります。彼らが次にどう動くか、一緒に考えましょう」


 悠人は猿渡の妹、美緒さんの情報を、わずかな記憶と莉子の協力で照合した。


 猿渡は妹の治療費のために、一時的に多額の借金をしていたらしい。猿渡の名義で組まれたローンは、柏木が関わっていたダミーの金融機関を通じて組まれており、その取り立て先が、聞き込み調査や監視カメラの映像等を頼りに、都心から外れた古い病院跡地にあるという情報を突き止めた。


「奴らは、美緒さんの治療が継続できなくなるよう、巧妙に仕組んだんだ。そして、治療の代替と称して、人質として廃病院に軟禁しているはずだ」


 悠人と莉子は、廃病院が組織の隠し拠点であると予想した。


「前回、莉子さんが拉致された時と同じように、人質を組織の活動拠点に置くのが奴らの手口です。前回、悠人さんが単身で乗り込んだことが、奴らを油断させているはず」


 莉子はそう分析したが、悠人は今回は単身で向かうことを躊躇しなかった。


「奴らは彼女を逃がすわけにはいかない。一度失敗したからには、セキュリティは前回よりも遥かに厳重なはずだ。だからこそ、俺一人で動き、混乱に乗じて莉子さんが美緒さんを連れ出す」


 莉子は顔を青くしたが、悠人の固い決意に頷いた。悠人は廃ビルでの経験を活かし、再び護身術に特化した隠密行動用の装備を身につけた。


 夜が更けたころ、悠人は廃病院に潜入した。


 予想通り、病院の出入り口は黒服の男たちによって固められていた。おそらくここがアジト、もとい監禁場所のようだった。悠人は建物の構造を素早く分析し、裏口の通気口を破って内部に侵入した。


 内部は薄暗く、薬品と埃の匂いがした。悠人は音を立てないように進み、美緒さんが監禁されている場所を探る。やがて悠人は、最上階の一つの個室に辿り着いた。


 廊下には、警備の男たちが巡回していた。悠人は、過去の人生で培った冷静な判断力と、体術の知識を駆使して、数人の男たちを無力化することに成功した。


 そして、個室のドアをこじ開けると、そこには怯える美緒さんが、点滴につながれたままベッドに横たわっていた。


「猿渡の妹さんですね。大丈夫です、私が猿渡の同僚の佐藤です。今から助け出します」


 その時、冷たい声が部屋に響いた。


「随分と派手な救出劇だな、佐藤悠人君」


 部屋の隅の暗闇から、一人の男が現れた。その男は、黒いスーツを完璧に着こなし、その顔には一切の感情がない、冷酷な眼差しがあった。彼こそが、組織の幹部であり、柏木の上位に位置する人物、鮫島だった。


「お前たちが、猿渡さんを脅したのか」


 悠人は美緒さんを庇いながら、鋭く睨みつけた。


 鮫島は口角をわずかに上げた。


「脅しではない。取り引きだ。猿渡君は妹の命を救うために、我々に協力した。彼は卑怯者ではない。だが、君は余計なことをしてくれた。柏木は潰され、我々は数億円の損害を被った」


「犯罪行為の報いだろう」


「世の中は、君のような正義感で動いているわけではない、佐藤君。特に君は、未来を知っているような動きをする。それが、我々の計画の最大の障害だ」


 鮫島の言葉に、悠人は心臓が凍るのを感じた。奴らは、未来の知識の存在に、気づき始めている。


「なぜ、君は我々の計画を先回りして阻止できる? その秘密を話せば、この女の命は助けてやる」


 悠人はここで秘密を渡せば、莉子にも危険が及ぶことを知っていた。


「秘密などない。お前たちの雑な仕事が、俺にはバレバレだっただけだ」


 悠人は決死の嘘をついた。その瞬間、彼は美緒さんを守るために覚悟を決めた。


 その時、廃病院の外部で、けたたましい火災報知器の警報が鳴り響いた。


 鮫島が驚き、一瞬、悠人から視線を外した。


「何事だ!?」


 その隙を逃さず、悠人は隠し持っていたスタンガンを取り出し、鮫島の腹部に思い切り当てた。鮫島は、よろめいただけで倒れなかったが、その一瞬の隙が悠人には十分だった。


 悠人は美緒さんを抱き上げ、部屋を飛び出した。来た道を戻り建物の外に出ると、懐中電灯を持った莉子が待機していた。


 莉子は、悠人が鮫島と対峙した時間を稼ぐため、あらかじめ病院の配電盤に細工をし、警報器を鳴らしたのだ。


「悠人さん!」


「莉子さん、頼む!」


 莉子は事前に連絡を取っていた医療知識のある親戚に、専用の医療搬送車両を廃病院から少し離れた場所に待機させていた。美緒さんを車に乗せ、莉子も車に乗り込むと、悠人は鮫島に最後の言葉を投げかけた。


「お前たちの悪事は、必ず俺が止める。覚悟しておけ!」


 鮫島は立ち上がり、怒りの表情で悠人を見送った。


「佐藤悠人……面白い。だが、もう逃がさない。君の最も大切なものを狙ってやる」


 悠人は莉子の運転する車の中で、隣で震える美緒さんを見つめた。組織のボスとの接触、そして、美緒さんの救出。彼の二度目の人生は、もう後戻りできない、組織との全面戦争へと突入していた。

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