13話 愛の救出劇
悠人は自宅で、莉子に贈るはずの誕生日プレゼントのラッピングをしていた。彼女の誕生日まであと一週間。この二度目の人生で初めての、幸せな記念日になるはずだった。
午後8時を過ぎても莉子から「帰る」という連絡がない。残業だろうか、と悠人がスマホを確認しようとした、その時。
電話が鳴った。画面に表示されたのは、莉子の職場の同僚の番号だった。
「もしもし、どうされましたか?」
「あ、佐藤さんですか!?大変です、結城さんが……」
同僚の声は、震えと恐怖で上擦っていた。
「結城さんが、黒いスーツの男たちに連れ去られました!エレベーターの前で、いきなり羽交い締めにして……!私たちが止めようとしたら、『口出しするな』って脅されて……!」
悠人の全身から血の気が引いた。数時間前の、巨大な影の予感。それが、最悪の形で現実になってしまった。
「男たちは何か言っていましたか? どこへ連れて行った!?」
「それが、『佐藤悠人に近づきすぎた報い』とか、『話を聞かせてもらう』とか……。ごめんなさい、私、怖くて、すぐに逃げてしまって……」
電話が切れた後も、悠人は耳鳴りが止まらなかった。
(くそっ……!柏木が潰されたことで、奴らの本丸が動き出したんだ。莉子さんは、俺のせいで……!)
悠人は激しい後悔と怒りに襲われた。彼の成功の裏には、未来の知識への依存と、美咲との清算が招いたより巨大な敵の存在を無視していたという傲慢さがあった。
悠人は即座に警察への通報を試みたが、すぐに躊躇した。
(警察に言っても、相手は組織だろう。柏木の件を洗っているうちに、莉子さんがどうなるか分からない。それに、俺がなぜその組織の存在を知っているのか、問い詰められたらタイムリープの秘密が露呈してしまう)
彼は、頼りになるはずの未来の知識を、もう一度確認しようと頭を巡らせた。
「あの組織の拠点はどこだ? 誰がリーダーで、逮捕される時期は?」
だが、いくら深く記憶を掘り起こしても、何も出てこない。柏木が逮捕された後の、闇社会の動向については、タイムリープ前の人生でも、彼自身が関わることがなかったため全く情報がなかったのだ。
最大の武器は、完全に無力化されていた。
悠人は、絶望に打ちのめされそうになった。しかし、彼には守るべき存在がいる。
「未来の知識が使えなくても、俺には莉子さんへの愛がある。そして、この人生で培った力がある」
悠人の頭の中で、エンジニアとしての論理的思考と、リスク管理のプロとしての冷静な分析力が回り始めた。
悠人はまず、美咲を振った後に培った自己投資の全てを動員した。
まずは情報網。会社の昇進で得た地位と人脈を使い、裏社会に繋がる情報を扱う調査会社に、柏木が関わっていた組織の情報を高額な報酬で依頼した。
次に資金力。昇給と投資で得た資金を使い、彼が以前から通っていたジムの元トレーナーに連絡を取り、護身術と戦闘のプロを紹介してもらった。
翌朝早く、悠人は情報を得た。柏木と組織が取引していた違法な資金洗浄の拠点が、都心から離れた廃ビルであることを突き止めたのだ。
悠人は、情報提供者から借りた機材と、護身術のプロが用意した装備を身につけ、廃ビルへ向かった。彼の頭の中には、莉子と交わした『一緒に幸せになる』という誓いだけがあった。
廃ビルの前に着いた悠人は、躊躇なくドアを蹴破った。
「莉子さんを返せ!」
声は建物の中に響き渡った。
中には、莉子を囲む数人の黒服の男たちがいた。莉子は、恐怖に顔を歪ませながらも、毅然とした表情で椅子に座らされていた。
莉子は悠人の姿を見て、涙を流した。
「悠人さん……来ちゃだめ!」
「莉子さんには指一本触れさせない」
悠人は、目の前の男たちに立ち向かった。未来の知識はない。あるのは、莉子を守りたいという純粋な怒りと、数ヶ月間のトレーニングで得た、引き締まった体と技術だけだ。
肉弾戦が始まった。男たちはプロだったが、悠人もまた、死を経験し、一度全てを捨てて強くなった男だ。彼は、恐怖を乗り越え冷静に敵の動きを見極め、護身術で学んだ技術を駆使した。
一人、また一人と男たちを打ち倒していく。
そして、ついに悠人は、莉子の目の前にたどり着いた。彼は、莉子を縛っていた縄を力ずくで引きちぎった。
「ごめん、遅くなった。もう大丈夫だ。一緒に帰ろう」
莉子は悠人の胸に顔を埋め、泣き崩れた。




