海
真夏のぎらぎらとした日差しの中、僕は海に出てきていた。これといった理由などないが、なんとなく誰にも邪魔されない場所に来たかったからだ。人と話すことは嫌いではないのだけどいつも気疲れしてしまうのだ。きっと普通の人とは違う感性を持った特殊な人間なんだと思えばいいかもしれないがそんなことはない。ただ「陰キャ」や「コミュ障」という簡単なレッテルで片付けられてしまうのが怖いだけなんだ。
こんなくだらない言い訳を考えながら数時間、一人で海を眺め、座っていた。するとどこからともなく声が降ってきて、「明、こんなとこで何してんだよ?」と僕の静寂に土足で踏み込んできた隆の姿が見えた。「別にいいだろ。ただ座って休憩してんだよ。」といったのに、隆は「ふーん、暇なのか。なら船出そうぜ。」なんて言ってくる。僕の休憩を邪魔する以外の選択肢はこいつにはないらしい。しかたなく僕はいつもの釣り具と船を出すために二人の秘密基地に向けて歩き出す。
「なんだ、乗り気じゃんか」とにやにや話しかける隆に適当な相づちを返しておいた。不思議なもので人と話すだけ気疲れする癖になぜか無作法な隆には気疲れというものを感じない。これがいわゆる親友というやつかもしれないと思ったが、妙なむずがゆさを感じて早歩きで秘密基地に向かった。きっと礼儀がなさ過ぎて、こちらが気疲れしていては馬鹿馬鹿しいからだろう。
いざ海に出たはいいもの小魚でさえ一匹もかからない。それもそのはずで僕らの釣り具は漂流してきた枝と釣りひもをつなぎ、先に錆びきった今にも崩れそうな釣り針をつけただけのなんとも貧弱な釣り竿だ。こんな馬鹿みたいな仕掛けにひっかかるほど魚も馬鹿じゃないんだろう。それに魚が釣れてもらっても困る。なにせ僕らの船はこれまた漂流してきたぼろぼろの小舟に海水が入らないようにでたらめな修繕を施しただけのぼろ船だ。釣れて魚が船で暴れようもんなら大惨事だ。結局いつも釣りは少し時間が経てばすぐにやめて、あとは狭い船で寝転がってくだらない話をする。
「海てなんかすごい安心感だよな。なんか守られてる感じがするっていうか」
隆が不意にそんなことを言い出した。いつもならクラスの女の子がかわいいだの給食がうまかっただの、どうでもいいことばっかなのになと思いながらも「まあ確かに?」とあいまいに返すと「なんでだと思う?」と返ってくる。いつもと違ってなんだか考えさせるような問いに面倒だが少し考えてからこう答えた。「広いから優しく感じるんじゃないか?だって心が広い=優しいだろ?人は「広い」と「優しい」に似たような共通認識を持ってるんじゃないか?」と返すと「半分正解だけどちょっと違うな。じゃあ、明は今が真冬でもおんなじこと言えんのかよ。」と返ってきた。隆にしてはまともな内容で驚いた。
「海て広いだけじゃなくて暖かいじゃん。この暖かさと広さがちょうどよく混ざって優しさを感じるんだよ。」
今度は思っているより浅い答えが返ってきて拍子抜けした。ただ自分なりに考えても海の恵みだの暖かい海風だのありきたりな答えしか浮かばずこれ以上考えるのはやめにした。すると、隆は話をおもむろに再開したかと思うと、
「人って必ずこうゆう存在が絶対必要なんだよ。ただ優しいんじゃなくてこうゆう自分を守ってくれる存在。人てあんまこうゆうの求めてない雰囲気出すけど絶対必要だと思う。それが誰かにとっては親だったり、恋人、親友だったりするんだろうな。それが明にとっては海なのかもな。」
と真面目な答えがとんできた。自分が海に行く理由なんて特に考えてもみなかった。ただ落ち着くなとしか思っていなかった。でも隆の言ってることがものすごく核心を突いているように思えた。ふと思い返すと、少しずつ年齢が上がるにつれて守られて当たり前だった自分がその対象から外れていく感覚を中学に入ったあたりから感じていた。大人になっていくことはそういう過程を経ていくものなんだと半ば諦めていた。それを求めてしまえば自分が子どもに後戻りしてしまうようで怖くて誰と話しても気疲れしていたんじゃないだろうか。なんだ、自分より子どもだと思ってた隆は自分より大人じゃないかと思うと少し恥ずかしいような気がした。
「隆にとってのそういう存在て何なんだよ。」
とぶっきらぼうに聞き返してみた。
「さあな、なんなんだろうな。」
と笑っていた。これが親友なのかもしれないなと思った。あのときのむずがゆさはもうどこにもなかった。僕らはまた明日もこの海でくだらない話をしているんだろうなと思った。
思春期の中学生を主人公にした短編となっております。10代というのは多感な時期で自分の周りにいる存在に気づかいしなければならないと理解し始める年ごろです。そんな少年がどのように自分を理解し、信頼できる人間関係を気づいていくのかということを作品にしてみました。現代社会において人間関係は多様性を極め複雑となってきたことにより、自分にとって本当に信頼できる人間を探すことが逆に難しくなったようにも思えます。この作品は10代の少年を題材にしていますが、10代だけでなくその他多くの世代の人間関係に悩む人たちに届けばいいなと思っています。
また、作品を書くのは初挑戦であり、まだまだ知識や技術が足りなくつまらないように感じる方が多くいらっしゃるかと思います。ぜひレビューのほどよろしくお願いします。




