65話 みんなが笑顔になれる居場所
「世話になった孤児院のためにか……なのに闇ギルドの連中に金を騙し盗られて、そのせいで騎士団からも追われて、しかもグリードのような奴に目を付けられて……何故だ!こんなにも健気で優しい女の子が、大人の身勝手な都合のために使い潰されていいはずがないッ!!」
案の定、アンドリューさんは鼻声になりつつ涙を堪えていた。
アイリスはグリードの代わりに、シャルルが世話になった孤児院への寄付を請け負って、もちろんそれを反故にするつもりはない。
それとは別として、シャルルを商隊専属の冒険者にならないかと誘った。
シャルルと行動を共にする方が、孤児院へ寄付したと言うことを伝えやすいし、約束は確かに守ったと言うことも同様にだ。
加えてシャルルは、闇ギルドに騙されてのこととは言え、騎士団に追われるようによその町から逃げ出して来たのだ。
恐らくネオライトにも、そう長くは滞在しないつもりだったのだろう。
だったら、大陸各地を歩いて回っているこの商隊に抱き込んでしまおうと、アイリスは考えたようだ。
で、その場でアンドリューさんとの面接を受けてもらったら……この通りだ。
「良かろう、採用ッ!」
「い、いきなり採用!?あたしまだ、自分のこれまでの経緯しか話してないんですけど……」
当然、シャルルとしては困惑するばかりだ。
アイリスの推挙があるとはいえ、(悪い言い方になってしまうが)シャルルは犯罪者として見なされているのだ。
そんな自分を受け入れていいものかと思うのも、無理からぬことだ。
契約書の内容――俺とアイリスと同じもの――も確認してもらったが、「えぇ……ほんとにこの内容で大丈夫?あたし、騙されてないよね……?」と目を擦りながら何度も内容を読み通している。
「まぁ、疑うのも無理はないな。俺もそうだったし」
「大丈夫ですよ、シャルルさん。私もリオさんも同じ契約内容ですから」
今のところ、この契約内容が反故にされたことはない。内容と合わない部分があったとしても、それはきっとやむを得ないことで、アンドリューさんの方から説明がされるだろう。
「えっと……じゃぁ」
シャルルは契約書にサインを書き込んだ。
「うむ、確認した!これからよろしく頼むぞ、シャルル!」
アンドリューさんはガッチリとシャルルの手と握手する。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
終始アンドリューさんのテンションに圧倒されるような形だったものの、これにてシャルルの商隊入りが決定した。
エトナに鑑定してもらった魔瘴液の空瓶を手に、ワーカーマスターと騎士団は一礼してから騎士団の詰所へ戻っていった。
これから、市民から搾取した税金や、横領によって得た資産、闇ギルドとの取引証明書などの差し押さえのために、屋敷の捜索に掛かるだろう。
保護された女性達は落ち着いた頃を見計らって街に帰されるようだ。
同じく保護された屋敷の使用人達は、グリードによって酷使されていたので、肉体・精神の両方で療養が必要らしく、しばらくは騎士団の詰所に滞在しつつ、きちんとした食事と睡眠を与えられた上で、カウンセリングを受けることになるそうだ。
逮捕されたグリードの手下達はと言うと、領主の威を借りて街で随分と好き放題していたらしいので、しっかりと罪を認めて裁かれてもらおう。
商隊の一員となったシャルルは、アイリス(ドレスから着替えた)とリーゼさん、エトナ、シャオメイに混ざって、各々の自己紹介をし合っている。
その姦しいとも言えるやり取りを遠巻きに見ていると。
「どうしたリオ、お前さんも混ざらんのか?」
アンドリューさんに声をかけられた。
「アンドリューさん。……いや、何と言うか」
今、心に思っていたことを口にする。
「俺は昔の冒険者仲間達からパーティを追い出されて、アイリスは婚約破棄された上に国外追放されて、エトナはリーゼさんにクビ……クビ?にされて、そのリーゼさんは自分で自分をギルドから追放して、シャオメイは実家を追い出されて、シャルルは騎士団に追われて流れ着いて。こうして見ると俺達って、『爪弾きにされてきた』って似通った部分があるなって思ったんです」
「あぁ、確かにな」
理由事情は様々だが、『元いた場所から追い出される形で商隊に拾ってもらった』と言う点では共通している。
「それで、これからの俺が"やりたいこと“が、ちょっとずつまとまって来たんです」
「やりたいことか。それはなんだ?」
「俺は元々、王都を離れて旅をして、旅の中で永住地を探そうと思っていたんです。でも、それは今すぐじゃなくて、冒険者を引退してからでも遅くはない」
それで、と一言間を置いてから。
「作りたいって思ったんです。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
すごく曖昧で、ふわっとした目標だ。
でも、この光景を見ていてそう思ったんだ。
「居場所、か。お前さんにとってのオレの商隊は、そう言う場所なんだな」
「はい。アンドリューさんを利用するみたいな形になりますけど」
俺の理想とか、目標のための、"寄る辺“。
するとアンドリューさんはいつもと同じように「ハッハハッ!」と豪快に笑った。
「いいじゃないか。オレもお前さん達を利用させてもらっているんだ、お互いがお互いを利用して上手くいって、最後には笑顔になれるのなら、オレは一向に構わんぞ」
笑顔、か。
今、アイリス達が楽しそうにお喋りしているこの光景が、まさにそれだ。
ポン、とアンドリューさんの手が俺の肩に置かれる。
「これからも頼むぞ、リオ。オレとお前さん、そしてみんなの笑顔のためにな」
笑顔のために、なんて。その言い方はずるいぜ、アンドリューさん。
俺の答えはもちろん――
「はい!」
その一択だ!




