63話 ★結果的に作戦成功
「はぁっ、はぁっ、はぁ……なんとか、なったか……」
ロングソードをその場に放って、座り込む。
「リオさんっ」
ぜーはーと呼吸を落ち着かせていると、ドレスのアイリスが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?どこか怪我とかは……」
やったと喜ぶ前に人の心配をしてくれる辺り、本当に優しい娘だなぁ。
「大丈夫だ、さすがに疲れたけどな……」
前にヴェイルワイバーンを撃退した時以上に疲れた……こんな怪物の相手なんか二度とごめんだな……
しかしそれよりも、アイリスに訊きたいことがある。
「アイリス、さっき光属性の魔術を使ってなかったか?」
グリードの動きを止めた、あの最後の一押しのことだ。
「私の【ホワイトナイト】のスキルです。カイツールからネオライトに来るまでの数日間で、何度かリーゼさんに教えを請っていましたから。武器が無かったので、少しでも助けになるかと思って、やってみました」
上手く出来てよかったです、と頷くアイリス。
「お疲れ様、リオくん」
続いてリーゼさんも寄ってきた。
「リーゼさん、"ナイト“系のスキルって確か、剣技のスキルだったはずじゃ?」
光属性の剣技に関するスキルなのは知っているが、攻撃魔術も使えたのかとリーゼさんに訊いてみると。
「メインは剣技だけど、努力次第で魔術もそれなりに使えるようになるよ。さすがに、"ウィザード“や"メイジ“のような魔術の専門職には及ばないけどね」
「なるほど、魔術も使える魔法剣士ってわけですか」
ルインの【魔法剣士】スキルは様々な属性の魔法剣を使えるが、アイリスの場合は光属性メインとは言え魔術もそこそこ使えると。
すると、途中から一緒に戦ってくれた冒険者――シャルルが、リーゼさんの一歩後ろから見ているので、そっちにも手を振る。
「そっちの君も、大丈夫か?」
「あ、うん。あたしは平気だっての」
って言うか、とシャルルはグリードが消滅した跡を見やる。
「領主様、ほんとにやっちゃったね……ねぇアイリス、これってどうなっちゃうっての?」
シャルルの様子を見る限り、アイリスがグリードを暗殺するための刺客であることは知っている……と言うかアイリスの方からそれを明かして、内通してもらっていた、ってところか。
「……どう、なるのでしょうか?」
当初の作戦通りなら、アイリスがグリードを殺害したら、騒ぎ立てて騎士団を現場に介入させ、真相を揉み消した上でグリードの死因を"急病“としてでっち上げる、と言うものだったが……まさかグリードが魔力の暴走によって怪物化するとは思わなかった。
結果論として、グリードの殺害には成功したが、ここまで大事になってしまった以上は、もう"病死“では片付けられないな。
あとはワーカーマスターと騎士団の判断次第になるんだろうが……まぁ、正当防衛になっているから、俺達が殺人犯として逮捕されることは無いはずだ。この後で建前だけ、事情聴取のために詰所まで同行することにはなるだろうけど。
すると、つかつかとブーツの音がいくつも近付いてくる。
「君達、無事か!」
グリードがぶち破った壁から、ワーカーマスターと騎士団の皆さんがぞろぞろやって来た。
それを見て、すぐにリーゼさんが動き、ワーカーマスターに近付いて耳打ちする。「グリードの抹殺に成功した」と、こちら側に付いているとは言え、騎士団の手前でそれを公言するわけにはいかないからだろう。
「うむ、そうか」
リーゼさんが耳打ちを終えたのを確認してから、ワーカーマスターは頷き、後ろで控えている騎士団長に向き直る。
「では騎士団長殿、後は頼む」
「承知しました、ギルドマスター」
互いに頷き合ってから、騎士団長は俺達四人を見る。
「すまないが、君達には一度騎士団の詰所まで来てもらう。あとの現場は、我々に任せてくれ」
当初の作戦とはかなり違うことになったものの、騎士団の介入と言うところまでは、どうにか帳尻合わせが出来たか。
後始末は騎士団に任せて、俺達は騎士団に丁重に護送されながら、半壊した領主の屋敷を後にしていく。
騎士団の詰所に連れてこられた俺、アイリス、リーゼさん、シャルルの四人。
用意してくれた暖かい飲み物を啜り、落ち着いたところで、ゆるりとした事情聴取が行われた。
アイリスがグリード暗殺の刺客であることは、既に騎士団の皆さんも承知しており、それも黙認済みだ。
アイリスとシャルルが言うには、アイリスが毒塗りナイフを突き刺した後、グリードは懐から薬品の入った瓶を口に放り込み、それを飲んでからすぐに異変――魔力が暴走し、あのような怪物になったと言う。
二人の証言を聞いて、現場にそう言った危険な薬品が残っていないかを確認するべきだと、伝令役が足早に詰所から出ていくのを見送って。
もう二、三ほど質問を受け答えしたところで事情聴取は終了。
あとは現場の騎士団からの報告 (内容の虚偽を含む)を待つだけだ。
すると、シャルルは少し申し訳なさそうな顔をしてアイリスに向き直った。
「あの、さ、アイリス。さっき言ってた、孤児院の寄付のことなんだけど……」
「はい、これからすぐには無理ですが、事態が落ち着いたら必ずお支払しますので」
孤児院の寄付?
「二人とも、何の話だ?」
何かと訊いてみれば、シャルルは世話になった孤児院のために冒険者になり、少しずつ寄付金を送っているのだそうだ。
孤児院への寄付をしてもらうことを条件に、屋敷で幽閉されるような生活をしていたらしく、孤児院への寄付を履行してくれる様子も無かったので、アイリスが自ら寄付金を払うと言い出し、それを呑ませてシャルルに協力してもらったと言うことらしい。
本当にどこまでも金満と言うか、金に溺れたクズ野郎だったんだな、グリード。




