52話 領主暗殺作戦会議
俺、アイリス、リーゼさん、アンドリューさんの四人は、ネオライトのギルドの執務室に来ていた。
執務室で待っていたのは、ワーカーと言うギルドマスターと、ゴンザレスと言う厳ついオネエさん。
先程にリーゼさんがアイリスに「市民を苦しめる悪徳領主を殺っちゃうお仕事があるんだけど、受けてみる気はない?」と言っていたが、果たして何が始まるのやら。
ワーカーマスターが咳払いをひとつ挟んでから。
「ではこれより、グリード領主暗殺の作戦会議を開始する。なお、本会議の内容に関しては他言無用としてもらいたい」
出だしから物騒すぎる作戦会議だなおい!?
ギルドマスター自らの口から領主の暗殺作戦の音頭を取るとか、マジかよ。
そりゃこの執務室なら、他の耳は無いだろうけど。
ちなみに、事前にリーゼさんとアンドリューさんから聞かされていることがある。
それは、ネオライトの領主が急病で亡くなり、その後釜で着任したグリードと言う領主の圧政のせいで、市民は法外な増税を課せられているらしい。
騎士団がグリードを取り締まろうにも、グリードの周囲には腕っ節の強い手下や傭兵が囲っており、迂闊に手出し出来ないと言う。
しかもそれだけでなく、ゴンザレスさんの証言から、街の若い女性を屋敷に連れ込んでは帰さないときた。
ようは武威を笠に着て市民を搾取して女性を侍らせているってことか、なんだただのクソ野郎じゃないか。
「あの、その前に私からひとつよろしいでしょうか?」
話の前にアイリスが挙手した。
「そのグリード領主は、本当に暗殺する以外の手段はないのでしょうか?正しく罪状を突き付けて、王都の騎士団や軍で包囲し、投降を促せば……」
「それが出来るならとっくにしてるよ、アイリスさん」
それが出来ないからこうして暗殺計画を立てているの、と遮るリーゼさん。
俺は政治やら何やらには疎いから、具体的にどうだとは言えないが……領地の内外共に相当強い権力と影響力が無ければ、こんな圧政を敷くことなど出来ないだろう。
とは言え、アイリスも冒険者とは言え、人殺しは恐らく初めてだ。だから暗殺以外に手段は無いのかと言ったのだろうが。
「守るべき市民を守りもせず、生活を奪い、オンナのコを食い物にするだけの領主なんて人間じゃないわぁ、魔物と同じよぉ」
ゴンザレスさんも強い口調でリーゼさんに同調する。筋肉すげぇな。
「俺も同じ意見です。そんな悪党を真っ当に裁けないなら、殺すしかない」
以前にエトナを拉致した冒険者三人組もそうだったが、裁きを受けられるならその方がいいに決まっている。
が、それを強権で躱して有耶無耶にしてしまうような奴なら話は別だ、俺が騎士団の立場にだったとしても同じことを言うだろう。
アンドリューさんも声にこそしないが、考えていることは同じはずだ。
この場の全員の意見が同じであることに、アイリスは渋々ながら頷く。
「……そうするしかない、と言うのは理解出来ました。ですが、私が単身で屋敷に乗り込んだところで、衛兵に止められてしまうだけでは?」
確かにアイリス一人で屋敷に乗り込もうとしても、衛兵に捕まるのがオチだろう。
それなら俺が行く方がまだ可能性はあるが、強い弱いの話では無いんだろうな。
「お嬢さん、さっきの話を思い出してみろ。グリード領主は、若い女性を屋敷に連れ込んで帰さないような奴だぞ?」
アンドリューさんがヒント……と言うかほぼ答えを提示した。
するとアイリスも的を得たように――目を細めて声を濁した。
「つまり……い、色仕掛け、ですか?」
「いやいや、そこまですることはない。ようは、とりあえず奴の懐に入ってしまえばこっちのものってわけだ」
色仕掛けと言ってしまえばその通りではあるか。
ゴンザレスさんの情報によると、明日の昼過ぎ頃にグリードが視察と称した搾取、あるいは弾圧のために街へ降りてくるらしい。
そこへ、アイリスと言う美少女お嬢様の姿を見つけさせ、彼女の美貌に食い付いたら『ご挨拶』と言う建前で屋敷に連れて行ってもらう。
ちなみにこの時アイリスは、ゴンザレスさんが手配したドレスを着ることになっている。
グリードの周囲には手下や傭兵で囲っているようだが、"深窓の御令嬢“と言う風で大人しくしておけば、いずれどこかで一人になる隙を見せるだろう。
そこをサクッと殺ってしまえと言うわけだ。
後はアイリスがグリードの遺体の第一発見者として騒ぎ立てて、騎士団の介入を正当なものにする。
手下や傭兵達も、上司やクライアントが殺されたともなれば、見切りをつけてさっさと離れるだろうし、それとは別に忠誠を誓っている者達も、領主が死んでいる以上、その威を借りることはできない。
例えアイリスがグリード暗殺を疑われたとしても、現場検証を行う騎士団がこちら側に付いている以上、暗殺者がアイリスであると言う証拠をもみ消して、「証拠は見つかりませんでした」と虚偽の結果報告をすれば、何の後腐れもなく事が済む。
その後でグリードが暗殺されたと言う事実も揉み消して、"病死"したと言うことにしてしまっても、ネオライトの市民は誰もそれを疑わないだろう。むしろ横暴な新領主が消えて清々するとさえ言うだろうな。
アイリスの負担や自己判断要素が大きいが、グリードを始末するに当たって一番安全で手っ取り早いだろう。
「――と、言うことだね。最悪でも足が付かないように、ギルドからも働きかけてくれるから、後は現地でアイリスさんが上手く立ち回るだけ。どうかな?」
紛うことなきマッチポンプだが、この作戦の最初の発案者はリーゼさんなので、むしろ納得がいった。




