51話 シャオメイプチピンチ!
「手伝っテもらってスミマセン、お二人トモ」
「気にするな。こう言う力仕事は、素直に男手に頼った方がいい」
恐縮するシャオメイを尻目に、俺は大きな鍋やら竈の土台やら、重いものをあちこちへ設置していく。
「リオさんの仰る通りです。人手が欲しい時は、素直に頼ってくださいね」
アイリスは食器や調理器具などの比較的軽いものを、シャオメイと分担して運んでは所定の位置に置いていく。
確かに大変だが、これからの食事が期待できると思うと、この程度なんのそのだ。
まだとりあえず必要なものを置いているだけなので、あちこちに物がとっ散らかった状態だが、この辺りは少しずつ片付いていくはずだ。
腰を痛めないように、抱えている大きめの木箱をシートの上に降ろす。
「よっ、と。シャオメイ、この木箱はここでいいか?」
これはここで良かったかをシャオメイに訊くと、
「あ、ゴメンナサイ、それハそこじゃナクて、……きゃっ!?」
俺の声に反応したシャオメイだが、足元に散らかった物を踏んでしまい、前のめりに転び――
「ぁっぶなっ!」
そうになる前に咄嗟に飛び出してシャオメイを支えようとしたが、俺の体勢も不安定だったせいで、シャオメイを抱えるように一緒に倒れてしまった。
「っと、大丈夫かシャオメイ?」
「ふぁ、ファい、大丈夫デ……っ!?」
今この瞬間状況。
シャオメイが俺を押し倒している上に、彼女の整髪剤の匂いとか、その、"ご立派なもの“が思い切り俺に押し付けられているので、色々と良くない……
「ごごっ、ゴメンナサイリオサンッ!す、すぐニどきま……ァッ」
俺から離れようとするシャオメイだが、何故か固まってしまった。ついでに何故か顔が真っ赤に?
ってか今なんか、プツッって音が聞こえたような……
「あ、アノ、その、アウぅ……っ」
「ど、どうした、落ち着けシャオメイ」
一体何が起きたのか、動こうとするが動けないシャオメイ。早く離れてくれないと、俺も色々と自制が効かなくなりそうなんだが……
「……お二人とも、いつまでそうしているのですか?」
シャオメイの後ろから、アイリスからものすごいジト目と低い声が。まずいまずいまずい。
「あ、アイリス!なんだかシャオメイの様子がおかしいんだ!」
「チョ、やっ、リオサンッ、動イちゃ、あっ、やぁンッ……」
シャオメイからやけに艶かしい声が……じゃないっ。
「あっ、シャオメイさんまさか!?」
すると何か思い当たる節があったのか、アイリスのジト目が見開いた。
「リオさんっ、目を閉じて絶対に動かないでください!良いと言うまで目も開けないで!」
「お、おぉ!」
なんだか知らんが了解した!
目を閉じて、死んだフリをするように身体の動きを停止させる。
「大丈夫です、シャオメイさん。慌てず落ち着いてください」
「は、ハイィ……」
ゆっくりとシャオメイの身体が俺から離れ、離れる瞬間に弾力のあるそれが"ぷにゅん“と戻ったような感触が……
アイリスの言う通り、その場で暫しの間死んだフリを続けること、三分ほど。
「リオさん、もう大丈夫です」
「よ、よし」
アイリスからの"よし“が告げられたので、目を開けて起き上がると、アイリスとシャオメイが二人ともいる。
「シャオメイ、大丈夫か?」
「は、ハイ、ナンとか……」
俺が死んだフリをしていた間、シャオメイに何が起きていたのかは気になるが、アイリスの剣幕から、触れてはならないことなのだろう。
それにしても、リーゼさんほどではないが、シャオメイもけっこう"ある“方なんだな……
そんなハプニングが起きつつも、日が傾き始める前にはどうにかシャオメイの炊事場の準備が整った。
足元周りの片付けは最優先で行ったので、"さっきみたいなこと“はそうそう起きないはずだ、多分。
「お二人トモ、ありがとうゴザいマシた。私一人じゃ、今日中ニ終わりまセンでしタ」
ぺこりと律儀に頭を下げるシャオメイ。
「頭下げなくていい。こう言うのは、お互い様だからな」
「そうですね、お互い様ですから」
むしろ、片付けが早く済めば、それだけこれからの夕食にも期待できると言うものだ。
「おーぅ、そっちも片付いたみたいだな」
「三人とも、お疲れ様」
すると、様子を見に来たのだろうアンドリューさんと、ギルドマスターと対談していたはずのリーゼさんがやって来た。
「リーゼさんもお疲れ様です。ギルドマスターと随分長く話し込んでいたようですけど、何を話していたんですか?」
俺とアイリスが帰還してきた時はまだ執務室にいたようなので、昼過ぎ近くまで話し込んでいたのだろう。
「んー、この辺り一帯の風土悪化の原因は何か、とか、ネオライトの経済が停滞気味なのは何故か、とか、……あとは秘密♪」
「秘密ですか」
まぁその、男女におけるアレやコレやと言うような色気のある話では無さそうだが。
するとリーゼさんは、アンドリューさんに向き直ると。
「……それでアンドリューさん、例の件なのですけど」
「うむ、領主が来るのは恐らくは明日の昼過ぎ頃になるだろう。手配は既にゴンザレスに頼んでいる。あとはお嬢さんの一存だけだ」
アンドリューさんが言う"お嬢さん“とは、アイリスのことだ。アイリスに何か頼み事をするのだろうか。ついでに、ゴンザレスと言うのは、昨夜に言っていた昔の知り合いか。
アイリスも同じことを考えていたようで、「私に何か?」と小首を傾げている。
アンドリューさんとリーゼさんとの間で二、三言葉が交わされてから。
「アイリスさん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」
「市民を苦しめる悪徳領主を殺っちゃうお仕事があるんだけど、受けてみる気はない?」




