47話 またな
暫しの沈黙の後、ルインは口を開いた。
「なぁ、リオ……オレ達は、オレは、どこから間違ったんだ………?」
「……知るか」
どこから間違ったなんて、そんなこと俺に訊くなよ。
もしもあの日、俺が【紺碧の刃剣】から追放されずにそのまま所属し続けていたら、なんてそんな"たられば“なんか、知ったことじゃない。
「ヒルダ、スコット……教えてくれ、オレの、何がいけなかったんだ……?」
「「……」」
ヒルダもスコットも、問いに答えられない。
二人も、一度は俺のパーティ追放を止めようとして、ルインがそれを無視した結果がこれだ。
「誰でもいい……教えてくれ……オレは、一体どこで、何を間違ったんだ……!?」
その問いに答える者はいない……と、思ったら。
「少し、いいですか?」
ふと、アイリスが挙手した。
「なんだ、アイリス?」
「先程から、リオさんとルインさんの会話を聞いていて思うことがあります」
彼女の視線が、ルインに向けられる。
「ルインさん、あなたはさっきリオさんに助けられてから、一度も礼を言ってませんよね?」
「……………は?」
そう言われて、ルインは間抜けな顔をした。
確かに、ブレイドビートルを討伐してからのルインの会話を思い返してみたが、「ありがとう」や「助かった」と言った言葉は聞いていない。
「それ、今関係あることか?」
その通りではあるが、俺とルイン達三人の問題なのだから、それは無関係だと思うが。
「あります」
即答しながらアイリスは、毅然とした態度でルインに向き直った。
「私はルインさんのことをよく知りません。リオさんから「昔からの大事な仲間だった」と聞いただけです。だから、どこで何を間違ったのか、と言うあなたの質問に対する答えは持っていません」
ですが、と区切ってから。
「誰かに支えてもらったり、助けてもらったりした時に、「ありがとう」の一言も言えないのなら、その答えは絶対に見つかりません」
「なっ……!?」
ルインが求めていたものと真逆の答えどころか、「絶対に見つからない」とさえ断言した。
「おまっ、お前に何が分かる!?オレがどれだけ悩んで、苦しんで、それで、」
「悩んで?逃げていたの間違いでしょう?」
スッ、と目を細めて声のトーンを落とすアイリスに、ルインは言葉に詰まった。
相手の心意を探るようなそれは、冒険者としての威圧感とは違う。
俺にはその正体を言葉に出来ないが……公爵令嬢と言う立場と責任を背負っていた者の"重み“なのかもしれない。
「リオさんのことを思っていたから、敢えてパーティから追放した。それは分かります」
そこからアイリスはさらに畳み掛ける。
「パーティから追放したから、もうリオさんは赤の他人ですか?」
「ち、ちが、」
「ではリオさんにお礼を言わないのは何故ですか?」
「そ、それは、」
「自分の過ちを認めたくなかったからですか?」
「やめろ……」
「リオさんは、思うところがありながらもルインさんを助けようと言いました。それは、リオさんの中にまだあなたに対する"感謝“があったからです」
「やめろ!」
「リオさんはただ、当たり前のことをしただけです。それに引き換えあなたは何ですか?」
「やめろって言ってんだろ!」
「都合の悪いことから目を背け続けていたから、何もかも上手くいかないのではありませんか?」
「アイリス、もういい」
アイリスの正論も、ルインの喚きも、もう聞くに堪えない。
俺の遮りに、全員の視線が集まる。
「ルイン。別に俺はお前に感謝されたくて助けたんじゃない。俺が、助けたいから助けた。ただそれだけだ」
けどな、と立ち上がって。
「さっきアイリスが言ってくれたが、思うところはあるんだ。だから、その"清算“をさせろ」
「せ、清算……?金を出せって言うのか?」
「違う。そんな損得勘定でやり取り出来るようなもんじゃない」
歩み寄り、今度は俺が左手でルインの胸ぐらを掴み、強引に立ち上がらせる。
「歯 ぁ 食 い 縛 っ と け」
「は?」
右手を見せて、拳を握り、腰に引いて。
それを見てようやく理解したルインの顔を見据えて、
――力の限りでルインの左頬に拳骨をぶち込んだ。
「んぐっ、ぎっ……!」
俺に殴り飛ばされ、背中から地面に倒れるルイン。
ちゃんと歯を食い縛ってくれたようで何より。歯を失って生活に支障が出ても知らないんでな。
「――じゃぁな、ルイン。ヒルダとスコットも、元気でやれよ」
行こう、とアイリスを呼ぶ。
アイリスはすぐに立ち上がり、三人にぺこりと一礼したのを確かめてから、一緒に踵を返した。
「またな」
背中越しにそう告げて、ネオライトへの帰路を歩み直した。
またな。
そう言って去っていったリオと、アイリスの背中を見送る三人。
ルインは上体を起こして、その後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。
「………………ははっ、なんだそりゃ」
何故か、ルインは笑った。嘲りの無い、清々しい笑みで。
「またな、ってなんだよ。そこは、もう二度と顔を見せるなって言うんじゃないのかよ……」
いつかまた会うことを考えていなければ、そんな言葉は出てこない。
そのリオの心の有り様に、呆れたように笑ったのだ。
「負けた。負けたよ、リオ」
ルインはもう一度地面に背中を預けて大の字になって転がった。
冒険者の格ではなく、人としての器で、負けた――負けを認める気になったのだ。
「なぁ、スコット、ヒルダ」
大の字のまま、二人を呼んだ。
「おぅ」
「なに?」
二人も、ルインと目を合わせる。
「一から出直しだ。多分、冒険者になりたての頃みたいになる。それでも、オレと一緒に戦ってくれるか?」
「嫌だって言っても聞かねぇだろ?」
「えぇ、そうね。スコットの言う通りだわ」
スコットもヒルダも、小さく笑う。
それを見て、ルインは「ははっ」ともう一度笑ってから、
「ありがとな。――リオ」




