45話 ハズレスキルじゃない?
ブレイドビートルの絶命を確認してから、俺はロングソードを鞘に納めて、アイリスとルインの元へ歩み寄る。
ルイン。
あの日、ハズレスキルを理由に俺を【紺碧の刃剣】から追放して以来、久しぶりに見た顔だ。
「……久しぶりだな、ルイン。と言っても一ヶ月弱くらいだけどな」
けれどルインは、信じられないものでも見たような顔をしている。
「リオ……本当にリオ、なのか?」
「当たり前だ、化けて出てきたレイスじゃないぞ」
スラム時代、物心ついた時からの腐れ縁の顔を忘れたとか言うなよ。
「いや、そんな……有り得ない。なんでお前が、ブレイドビートルを、あんな一方的に……?」
ふむ、どうやら黒鉄級の俺が、銀級レベルのブレイドビートルを一人で倒せるはずがないと思っているらしい。
「今それを話しても、お前は納得しないだろ」
【タイム連打】のおかげだと言っても、こいつのことだから納得しないだろう。
「そんなことより、ブレイドビートルの魔石だけでも剥ぎ取っておけよ。他の素材は俺達ももらうが、魔石だけはお前が持ち帰らないとならないからな」
アイリスを呼んで、彼女にも剥ぎ取りをさせる。
魔石はルインに譲り、それ以外の脚や甲殻、鋏の一部を剥ぎ取ってから、近くで身を休めていたスコットとヒルダとも合流し、魔物が比較的出にくい、街道の端で腰を下ろす。
「さて……何から話したもんかな」
俺、アイリス、ルイン、スコット、ヒルダの五人。
誰から何を話すべきかと考えたところで、まずはヒルダが挙手した。
「リオ、あなたは【紺碧の刃剣】を抜けてからは一体どうしていたの?王都では見かけなくなっていたようだけど……」
まずはそこからだな。
【紺碧の刃剣】を追放させられてから、今日に至るまでを大まかに話す。
今は同じ商隊専属の冒険者である、アイリスのことも簡単に紹介して。
「じゃぁ今度は、俺をパーティから追い出してから、そっちはどうしていたんだ?」
今度はこっちが、ルイン達は今日までどうしていたのかを訊ねる。
するとルインは気まずそうな、ばつの悪そうな顔をしながら、ポツポツと話し始めた。
………………
…………
……
「……以上だ」
「マジか」
俺が抜けてから踏んだり蹴ったりじゃないか。
そんなこんなで、一発逆転を狙ってブレイドビートルに挑んで返り討ちにされかけた、と。
「マジ。リオが抜けてから、依頼は失敗ばっかで、ここ一週間は貧乏生活だったよ」
スコットは溜め息混じりに頷いた。
「俺達が落ちぶれてる間に、お前は良いこと尽くめの毎日を送っていたってわけか……」
良いこと尽くめってわけじゃないんだが、まぁ間違ってはないか。
「あの、次は私から」
アイリスが小さく挙手した。
「以前、リオさんは大型飛竜……ヴェイルワイバーン、でしたっけ。それを一人で撃退出来るほどの実力があります」
「「「ヴェイルワイバーンを一人で撃退!?」」」
アイリスとしては事実を口にしただけなんだろうが、三人とも驚愕した。気持ちは分かるけどな。
「それだけの実力があるのに、どうしてリオさんをパーティから追い出したりしたのですか?」
お話には聞いていましたが、腑に落ちないものがあります、と言うアイリスだが、腑に落ちないような顔をしているのはむしろルインの方だった。
「ど、どう言うことだよリオ……さっきのブレイドビートルの時もそうだったが、お前そんなに強かったのか……?」
ようやくその理由を話す時が来た。
「【タイム連打】スキルのおかげだよ」
「は?【タイム連打】って……それ、ハズレスキルなんじゃ……?」
「俺は冒険者になってから今日まで、ずっと【タイム連打】を駆使して戦ってきたんだよ」
改めて【タイム連打】スキルについて説明する。もちろん、それを認識出来るのは俺だけであることも再三再四に渡って説明して。
「な、なんだよそれ……相手の動きを見切って、全部後出しで対処出来るってことなのか……?そんなの反則じゃねぇか!?」
「魔物相手に反則もクソもあるか。それに、俺は何度もそれを説明したのに、ずっと「ハズレスキルだ」って無下にしていたのはお前だからな?」
それを横から聞いていたヒルダは「あぁ、やっぱりハズレスキルなんかじゃ無かったのね」と的を得たように頷いた。
「ずっと疑問に思っていたのよ。リオの【タイム連打】は、本当にハズレスキルなのかどうかって」
さらにはスコットも。
「だな、これで全部納得したし、リオをパーティから追い出さなきゃならねぇ理由も無くなった」
……どう言うことだ?
二人の言葉のニュアンスはまるで、『俺を追放することに懐疑的だった』みたいじゃないか。
「ルイン。ハズレスキルを理由に、俺をパーティから追い出そうと思った、その本音はなんだ?」
ルインに向き直ると、動揺して目を逸らした。
「っ、そ、それは……」
立ち上がって、ルインの胸ぐらを掴んで強引に立たせる。
「目を逸らすな。こっちを見ろ。思ってること全部吐け。話はそれからだ」
そうじゃなきゃ俺もアイリスも納得しないぞと睨み付ける。場合によってはこの状態からぶん殴る準備もしている。
ややあって。
「………………分かった。とりあえず離してくれ」
ようやく話す気になったらしいので、胸ぐらから手を離し、元の位置に座り直す。
「その、な……」




