42話 思わぬ再会
アイリスが放つレイピアの一閃が、オークの首筋を捉え、斬り裂いた。
急所を突かれたオークは、オヴォォォ、と断末魔を上げ、力尽きて倒れる。
「ふぅ、これで十頭ですね」
レイピアに付いた血を払って鞘に納めたアイリスは、慣れた手付きでオークにナイフを突き入れて魔石や牙などを剥ぎ取っていく。
最初こそ、アイリスのオークに対する警戒心は (違う意味で)過剰だったが、段々と普通の魔物を相手にするのと大差ない程度に落ち着いた。
内訳として、俺が六頭、アイリスが四頭をそれぞれ討伐した。
「お疲れさん。それじゃ、拠点に戻って一休みしたら帰るか」
「はい」
これにてオークの間引き依頼は完了。あとはネオライトに戻って達成報告をするだけだ。
旧鉱山を出て、岩陰の拠点に入り、少し休憩したらすぐにネオライトへの帰路を辿る。
その道中。
「そう言えばアイリス、オークのことは読み物とかで知ったのか?」
アイリスがオークに対して過度に警戒していた理由――「オークは野蛮で好戦的、女性を捕えて孕ませる」と言う誤解――をどうやって知ったのかを訊ねる。
「そうです。物語に登場するオークは基本的に悪役で、欲望に忠実な魔物として描かれますから、てっきり本物もそうなのかと。……逆に、リオさんが仰ったような、「理知的な魔物」であるオークが何故そんな風に扱われるようになったのかも気になりますが」
「言われてみれば確かにそうだな……」
オークが悪役として創作物に登場することは知っていたが、実存のそれとは異なり、欲望に忠実、非常に醜悪な存在として改変されているのは何故なのか?
人間とは相容れない存在――魔物だからと言うのは分かるが。
「……何と言うか、『悪そうな面構えをしてるから』、か?」
「あー……それは、ありそうですね?」
アイリスも納得したように頷いている。
悪役は基本的に、いかにも"悪そう“な顔で描かれることが多いので、オークの顔付きも多分そんな風に見られているからだろう。まぁ実際のオークも、あまり理知的な顔をしているとは言えないが。
拠点を出発して一時間弱、ネオライトと旧鉱山との中間地点辺り。
この往復の道中で、歩くペースを落とさない程度に周囲の植生物などを見ていたが、枯れていたり、明らかに状態の悪いものが散見していた。
ここら一帯全てではなく、目立つほどのことでは無いが、意識して見れば目に見えて分かるほどには。
ネオライト周辺の風土が急激に悪化している、と言うのは本当のことらしい。
「風土の悪化、ですか?」
同じことを考えていたのか、それとも俺の視線を見て気付いたか、アイリスは懸念した。
「あぁ。どれくらい環境が悪化しているのか、周辺の植生物を観察してみたが、明らかに状態の悪いものが多いな」
例えば薬草などは色が悪くなっていたり、木の実なども腐っていたり、草食の動物や魔物の死骸がやけに見られるのも、悪くなったものを食べて病死したのだろう。
死骸が病原菌の温床になり、死骸を食べた他の動物や魔物が病原菌を運び、さらに広範囲に植生物や動物に悪影響をもたらす……嫌な連鎖だ。
「原因は一体何なのでしょうか……そう言った悪性物質を撒き散らす魔物がいる、とか?」
「そんなに危険な魔物がネオライト周辺にいるなら、すぐにでもギルドから討伐依頼が出るだろう。……そうでないとするなら、原因はまた別にありそうだが」
そも俺達は一介の冒険者であって、学者では無い。
なんとなくの憶測は出来ても、確証を得ることは難しいだろう。
まぁそこら辺も含めて、あまり意味は無いかもしれないが一応ギルドには報告しておこう。
と思っていたら。
街道から外れた森の近くに、二人分の姿が見えた。
一人は肩を貸し、もう一人は支えてもらっており、覚束無い足取りだ。
武装しているところ、冒険者か?
「リオさん、あそこに冒険者が二人います。怪我をしているようですし、助けましょう」
アイリスも気付いたようだ。
「そうだな。……けど、一応警戒は怠るなよ。怪我をしているフリをして、こっちを油断させてから襲ってくるケースもあるからな」
彼女は育ちの良さ故なのか、お人好しが過ぎるところもあるから、無防備に騙されないように釘を刺しておく。
「分かりました」
返事を確認してから、早足で冒険者二人組の元へ駆け寄り、後ろから声をかける。
「そこの二人、大丈夫か?」
一人は軽装の男、もう一人はローブを纏った女。
俺の声に、二人とも振り向き――その顔に見覚えがあった、と言うか、最近見なくなった顔だった。
「リオ……!?」
「嘘、リオなの?」
その二人も、俺の顔を見てぎょっとする。
「スコット!?それにヒルダも……!」
そう。
その二人は、冒険者パーティ【紺碧の刃剣】のメンバー、スコットとヒルダだった。
「リオさんのお知り合いですか?」
俺、スコット、ヒルダの様子を見て、アイリスがそう訊ねてきた。
「……前に、俺は王都で冒険者パーティを追放されたって話したよな。その、パーティだ」
「えっ」
それを聞いて、アイリスは一瞬顔を険しくし――すぐに困惑した。
アイリスからすれば、『俺を追い出すような連中』として悪印象を持っていたのだろうが、しかし怪我をして思うように動けない相手に詰め寄るわけにもいかず……と言う感じか。
思うところあるのは俺も同じだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「一体何があった?それに、ルインはどうした?」
二人しかおらず、リーダーのルインはどこなのか。
スコットとヒルダは互いに顔を見合せ、互いに小声で話し合い――やがてヒルダが俺と目を合わせて口を開いた。
「リオ、恥を承知でお願いするわ……ルインを、助けて」




