40話 ネオライトの朝
長居したくないとは言っても、専属冒険者として最低限の冒険者稼業はしなくてはならない。
割に合わない価格の朝食を終えた後、俺とアイリス、リーゼさんはネオライトの冒険者ギルドの出張機関へ、エトナは馬車に戻って商隊関連の書類仕事、シャオメイはアンドリューさんに用があるらしく、エトナについていくように馬車へ向かっていった。
……そう言えばアンドリューさん、昨夜は昔の古い知り合いの所に飲みに行くと言っていたな。二日酔いになってなければいいんだが。
夜になってから賑わう分、朝はむしろ閑静なネオライトの街並みを歩き、ギルドの出張機関を兼ねた酒場へ到着する。
カイツールの酒場は時間帯を問わずいつも賑わっていたが、ネオライトの朝の酒場は静かなものだった。
それと言うのも冒険者の人数も少なく、席についている冒険者もほんの数人、騒いだりせずにこぢんまりと飲食をしている程度のものだ。
「ここのギルドの酒場は、静かなのですね」
カイツールの賑わいと比較してか、アイリスはそう呟いた。
「歓楽街の酒場だからね。夜が忙しい分、朝はみんな遅起きなんだよ」
リーゼさんがそう補足してくれる。
朝早くから起きて動いているのは宿屋とギルド職員の他には、俺達のような早起き派の冒険者ぐらいだろうな。
「俺は以前に一度来たことがあるから、もう登録は済んでいる。所属登録が必要なのはアイリスと……リーゼさんもですか?」
俺が最後にネオライトのギルドに来たのは数年前だが、既に登録済みなので、ギルドカードを提示して情報を更新してもらうだけで済む。
「んー、どうだったかな?ギルドカードの情報更新も何十年も前にやったきりだし、さすがに再登録が必要かも」
どうやらリーゼさんの場合は、長らくギルドマスターだったために、最後にギルドカードを情報を更新したのはかなり前のことらしく、恐らく情報が古すぎるので、確認だけしてハイ終わりではなく、一手間かける必要があるらしい。
まぁそこは仕方ないと言うことで、ひとまずは受付カウンターへ向かう。
「冒険者ギルド・ネオライト支部へようこそ。ご用件をどうぞ」
まずは俺から、情報の更新。
次にアイリス、所属登録。
最後にリーゼさん、情報の更新と言うか再登録。
「は、白銀級ですか!?」
すると受付嬢は、確認したリーゼさんの階級を見て驚く。
「そうだよ、冒険者活動も久しぶりなんだけどね」
苦笑しながら頷くリーゼさん。
冒険者の多くは白銀級には届かないが、一定数いると言えばいるものだ。
――そう言えば冒険者かけだしの頃、白銀級の戦技教官のお世話になったこともあったな。
俺みたいなスラム出身の意地汚いガキにも、親身になって冒険者の基本を叩き込んでくれた、優しいんだけどめっちゃ声がデカいあの教官、元気にしてるかな。
確認と登録及び再登録を終えた後。
俺とアイリスは、ネオライト近辺の狩り場――"旧鉱山“に棲息する小型の『オーク』の間引き依頼を受け、すぐに出立した。
リーゼさんは白銀級の持つ権限を行使して、ネオライトのギルドマスターと対談をするらしく、受付嬢にカウンターの奥へ案内されていった。
すぐに済むような短い対談では無さそうなので、俺とアイリスは一足先に旧鉱山へ赴いた。
事前に受付嬢から聞いた情報だと、旧鉱山はその名の通り、昔は資源採掘のために利用されていたが、掘り進めたそこが魔物の棲息地になってしまったため閉山、今は必要に応じて冒険者が立ち入るだけの場所になったそうだ。
鉱脈自体はまだ生きているらしく、ネオライトのギルドでは鉱山資源の採掘も依頼に含まれているのを確認している。
ネオライトから徒歩で二時間弱ほどの距離に、旧鉱山の麓が見えた。
鉱山と言うだけあって、麓の入り口は落盤を防ぐために補強工事が行われており、その岩陰に拠点が作られている。
「オークの間引きを始める前に、拠点で休憩するか」
「はい」
二時間弱とは言え結構な距離をノンストップで歩いて来たので、ここらで足を休め、ついでに腹ごしらえも済ませておくのだ。
拠点のテントに手荷物を下ろし、簡易ベッドに腰かけて、冒険者用の携帯食料の封を開けて噛りつく。
日持ちするように加工されたパンのようなもので、これひとつでそこそこ腹が膨れ、栄養も補給出来る優れものだが……いかんせんパサつくので喉の水分を奪われ、しかもまずい。
近くに草食の動物や魔物がいれば狩って肉を剥ぎ取り、その場で肉を焼いて食べると言うことも可能だが、場所や生態系によって出来る時と出来ない時がある。
無い物ねだりはせず、携帯食料を腹に押し込むように飲料水と一緒に飲み込んでいると、アイリスは咀嚼しながら携帯食料を見つめていた。
「どうした、アイリス。ハズレでも引いたか?」
「いえ、そうではなくて……私、すっかり冒険者になったなぁと思いまして」
数週間前の生活がまるで昔のようです、と言うアイリス。
まぁ確かに貴族令嬢がこんなもの食べる理由も必要も無いな、もっと旨いものを食べているだろうし。
普段の食事の形が変わり、それに慣れてきていることを自覚したんだろうな。
「いいじゃないか、世の実情を身をもって知ることが出来て」
「そうですね……」
そう言ってアイリスは携帯食料を口にして、まずそうに目をしかめるのだった。




