39話 増税と物価高
徹夜が数日続いたのもあって、一度寝始めたら朝までぐっすりだった。
「んぅ……よく寝た、ぁ」
勢いよく状態を起こして背伸びと欠伸をセットで行い、ベッドから降りてカーテンを開けると、燦々と朝日が差し込んでくる。
今日はいい天気になりそうだ。
さてさっさと着替えるかと寝間着を脱ごうとしたら、コンコンとドアがノックされた。アイリスが起こしに来たか?
「リオさん、おはようございます。起きていますか?」
やはりアイリスだった。
「はいはい、起きてるよっと」
とりあえず起きているところを見せようとドアを開けると、
「きゃっ!?」
何故か俺の顔を見るなり、アイリスは驚いて後退り、目を逸らした。
「ん?おはようアイリス?」
「お、おはようございます……」
「俺、そんなにひどい顔してるか?」
ぐっすり眠れたから寝不足で窶れてる、なんてことはないと思うんだが。
「いえ、その、そうではなく……」
よく見たらアイリスの頬が赤い、と言うかなんか恥ずかしがっている?
「ちゃ、ちゃんと着替えてからっ、出てきてください……っ」
確かに今の俺は上の寝間着を脱いではいるが、見えちゃまずい部分が見えているわけでもないし、そんなに恥ずかしがることか?
「あぁ、悪い」
冒険者の中には半裸みたいな装備の奴もいるし、そう言うのはもう見慣れていると思ったんだが、アイリスの場合はそうでないらしい。
「と、とにかくっ、起こしましたからね。早く食堂に来てください」
ぱっと踵を返して去っていくアイリス。
……そう言えば、彼女が起こしに来てくれる時はいつも着替え終わる頃だったな。
次からはちゃんと着替えてから出てくるとしよう。
(アイリスに文句を言われたくないので)ちゃんと身形を整えてから部屋を出て、もう他のみんなが集まっているらしい一階の食堂へ。
「お、おはようございます、リオさん」
「おはようございます」
「リオくん、おはよう」
「おはようゴザいます」
アイリス、エトナ、リーゼさん、シャオメイの順に挨拶してくれる。
「みんなおはよう、アイリスはついさっきぶりだな」
……今思ったら、今のアンドリューさんの商隊って、意外と女所帯?
それがダメとかじゃないし、アンドリューさんならむしろ「綺麗所が増えてウチも華やかになるな、ハッハハッ!」と喜ぶだろう。
俺の分をキープしていてくれただろう座席に座る。
さて何を食べようか、と思ってメニュー表を手にとって目に通すが……メニューのいくつかは斜線が引かれており、価格も改定されたような跡が見える。
何より、
「……全体的に高くないか?」
こう言う歓楽街の宿だから、と言うのは分かるが、にしたって高い。
ぼったくりとまでは言わないが、カイツールの宿屋食堂と比べても明らかに一周り高価格なのだ。
「それねリオくん、ご主人にそれとなく聞いてみたんだけど……」
リーゼさんがこの宿屋のご主人にそれとなく事情を訊いてみたところ、ここ最近からこの地の風土が悪化、それに伴って農作物の育ちが悪くなり、しかもこの街の新領主が一方的な増税を言い渡したせいで、絶賛物価高騰の真っ最中らしい。
加えてシャオメイからも。
「昨夜、食材を見に市場を見テ回っていたんデスけど、生鮮食品モ少なく、あまり質がイイとは言えナイ物ばかりでシタ」
どうして日が暮れてから外にいたのかと思ったら、市場を物色しに行っていたのか。それで運悪く酔っ払ったおっさんに絡まれたと。
農作物だけでなく、肉や魚の質量も悪くなっているのか。
話を聞く分には、今のネオライトは増税と物価高騰のダブルパンチで色々と最悪な状態のようだ。
「物価高の方は、まぁ分かりますが……新領主の一方的な増税は?」
食材は自然ありきのものだから、風土の悪化に左右されてしまう。それはわかる。
だが、新領主の一方的な増税と言うのは、真っ当な理由が無ければ納得しかねるものがあるだろう。
「前領主が急病で亡くなられて、その後釜として着任した、近日中に急に増税を言い渡したらしいの。具体的な理由や使い道は明らかにしないままにね」
おいおい、そんなのどう考えても私利私欲だろうが。
「そんな有り様なら、王都の騎士団が黙ってないと思うんですが……」
俺がそう言いかけると、エトナが目を向けてきた。
「黙認せざるを得ない理由があるのか、あるいは鼻薬を嗅がされているのでしょう」
どちらにせよ最悪ですが、と不快げな顔をするエトナ。
つまり、騎士団やギルドの監査を寄せ付けない何かしらの強権力が働いていると言うことか。
強権が支配する治安の悪い街……正直、長居はしたくないが、アンドリューさんもここでやることはあるだろうし……
「……結局、一介の冒険者に何が出来るんだって話になるか」
何とかしてやりたい気持ちはある。
けれど相手は魔物じゃなくて人間、それも強大な権力を持った存在だ。
仮に俺が義憤に駆られて新領主に喧嘩を売ったら、商隊ごと皆殺しにされるのがオチだろう。
それに俺達はこの街にとってはよそ者だ、市民を味方につけて大規模なデモを起こすようなことも出来ない。
「……」
アイリスも俺と同じことを思っているのか、その顔に義憤が滲み出ている。




