1話 突然の接触
朝の教室、窓際の席で、叶聖はスマホでゲームの攻略法を見ていた。朝のホームルームが始まる間は大体スマホを触っている。
隣の席の女子、宮原美咲は、ギャルで派手な雰囲気でクラスでも目立つ存在だ。白い肌に明るくて巻いた髪、短めのスカートと緩いネクタイ、キラキラのネイル。そして巨乳だ。
叶聖とは正反対で、普段まったく話す機会がない。
[ね一、佐伯くん!」
突然、彼女の声が響いた。叶聖はビクッと肩を震わせ、スマホを落としそうになる。胸を見ていたのがばれたのかもしれない
振り返ると、美咲のキラキラした笑顔がそこにあった。派手なリップと長いまつ毛に、叶聖の心臓はドクンと跳ねた。
「え、な、なに..?」
声が裏返り、顔が熱くなる。美咲はそんな叶聖を見て二ヤッと笑い、机に肘をつきながら言った。
「佐伯くん、モバ充持ってるっしょ?ちょっと貸してくんない?」
「モ、モバ充..?」
叶聖の頭は一瞬フリーズ。モバイルバッテリーのことだ。
通学中や休み時間にスマホをよく触るから、カバンに常備している必需品。
でも、なぜ美咲が自分に?
「う、うん、あるけど..なんで俺に?」
「うちら隣の席じゃんー?そこにいたから持ってるかなーって声をかけたんだよね」
美咲はケラケラ笑いながら、スマホを振ってみせた。ネイルがキラキラ光り、叶聖はさらに動揺。クラスの視線がチラチラ集まるのを感じ、耳まで真っ赤になった。
「わ、わかった!貸す、貸すから..ちょっと !」
慌ててカバンを漁り、モバイルバッテリーを取り出す。コードも渡そうとすると、
美咲が
「あ、コードは持ってるから大丈夫!サンキュ!」
とウインクした。
マジ助かるわ一!スマホ、充電やばくてさ!
美咲はモバ充を受け取り、さっそくスマホに繋げ始めた。
叶聖は彼女の派手な動きをチラチラ見ながら、頭の
中でぐるぐる考えていた。
なんで俺に話しかけてきたんだ? いつもならギャル友達に借りるだろ..?
美咲は派手な見た目で友達も多く、いつも賑やかなグループにいる。わざわざアニメオタクの自分に話しかける理由が、叶聖にはさっぱりわからなかった
「ね、佐伯くんってさ、いつもスマホでアニメとかゲームしてんの?」
美咲がニヤニヤと言った。
叶聖は「えっ」と声を上げた。
「い、いや、別に..ちょっと見るくらいで」
ふーん、でもさ、佐伯くんのそういうオタクな感じ
なんか面白いよ。」
「は、はぁ!?」
予想外の言葉に、叶聖の声は完全に裏返った。美咲はそんな反応を見て爆笑し、
「やば、佐伯くん、顔真っ赤!ちょ一かわいいんだけ
ど!」
「か、かわ..!?や、やめろって !」
美咲の大声が教室に響さ、叶聖は両手で顔を覆って机に突っ伏した。心臓がバクバクし、
「かわいい」の言葉でぐちゃぐちゃだ。
(なんなんだ、このギャル.!)
その後も美咲は何かと絡んできて、叶聖のオタクな日常は揺らぎ始める。モバ充を貸したこの日が、彼の高校生活を変えるきっかけになるとは、まだ知る由もなかった。