31 星空の下の話②
「実際何人もの騎士や役人が命を落とした。私は呪いを抱えたまま別室に運ばれて、コンコルディア家の魔導師達が私と共に呪いを押しとどめた。前にも伝えたが、一番大きな呪いは命を奪うものだったのだろう。時戻しも命を吸い取るようなものだったのかもしれない。いずれにせよ解呪は出来ず、呪いの進行を防ぐのが精いっぱいだった。この姿でどうにか生き残ったけれど、かけられた呪いは私の中に留まった」
「…………依り代になった魔術師は?」
「私が呪いを全て引き受けたからね。そのまま死んでしまったよ」
「…………っ……」
「ああ、そんな顔をしないでくれ。リュカ。私は呪いを受けたのが陛下でなくて良かったと心から思っているんだ。そして諦めずに解呪の方法を探している。巻き戻されて止められた時を動かしたいと思っている。そうでないと永遠に三歳児のままこき使われそうだからね」
そう言って笑うフィリウスに、リュカ瞳が熱くなっていくのを感じていた.
「リュカ?」
たとえ三歳児の姿になったとしても、こうしてフィリウスが生きていてくれて良かった。
けれどどうしてフィリウスがそんな呪いをかけられなければならなかったのかとも思ってしまったのだ。自分だったらとても良かったなんて思えない。国王を守れて良かったと思えるフィリウスの強さが眩しくて、けれど切なくて、どうしたらいいのか分からなくなる。
「すまん。怖がらせてしまったか」
「いいえ。話をしてくれてありがとう。フィルが、生きていてくれて良かった。そして俺も、解呪の方法が見つかるように祈っているよ」
赤くなってしまった目元をごしごしとこすりながらそう言うと、フィリウスは少しだけ驚いたような顔をして、それから「こすると傷がつく」とそっとリュカの手を止めた。
「実は召喚した聖女アヤカが大聖女様となったら、召喚国は神聖国に招かれ、一つだけ願いを聞いていただく事が出来る。勿論叶うかどうかは分からない。けれど大聖女様に解呪を願い出るチャンスを得られる。それは私の希望だ」
「…………はい」
「本来であれば、こんな呪いを受けた男が婚姻を結ぶなどあってはならない。だから国が決めた事とはいえリュカには申し訳ないとも思った。それでも私は貴方が使徒で良かったと思っている。あの姿の私にきちんと向き合ってくれた貴方が婚約者になってくれて良かった。改めて感謝する。そして、貴方を大切にしたいと思っている」
「フィル」
「先程言ったように、どのようになるのか分からないけれど、それでも希望を捨てずにいたい」
「そうですね。ふふふ、今日、フィルに会えて良かった。呪いの話もちゃんと聞く事が出来て良かった。フィルが呪いに負けず生きていてくれた事が嬉しい。俺もフィルが婚約者になってくれて良かった」
「…………そうか」
「はい」
夜目にもフィリウスの顔が少しだけ赤くなっているのが分かって、リュカは先程感じた胸の痛みが解けていくような気がした。
「そろそろ戻ろう。風邪をひく」
そう言うとフィリウスは腰板に座っていたリュカの身体をヒョイと抱き上げた。
「フィル⁉」
「裸足で歩かせる事は出来ない。それに、こんな風に出来る機会は少ないからな。それにしてもどうやって庭に下りたんだ?」
「…………あ、えっと……風魔法でベランダから……」
「……危ない真似はしないように。それにしても私の婚約者は結構お転婆だったのだな」
そう言って笑ったフィリウスはリュカを『お姫様抱っこ』をしたままガゼボを出て、そのまま庭を歩いていく。恥ずかしかったけれど、どうせ誰も見ていないと割り切ってリュカは抱きかかえられたまま星空とフィリウスと見つめた。
「ねぇ、フィル。星が綺麗だね」
「ああ、そうだな」
「俺ね、新月もいいなって思ったよ」
「そうか」
いつもよりも低い声が短い答えを返すのを聞きながら、リュカはフィリウスの希望が叶えばいいなと思った。そしてそう思いながらも、もしもそれが叶ったら、あの小さなフィリウスが消えてしまうかもしれない事を淋しく思ったのだった。
あ、ちょっと短くなっちゃった。すみません。