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17 婚約式 ②

「フィリウス・エヴァン・コンコルディア様、リュカ・ワシュトゥール・レティティアン様 ご入場です」


 控えていたドアの向こうから聞こえてきた名前にリュカは思わず苦笑した。事前に聞いていたとはいえ、もう元の名前の痕跡がほぼない。

 そう。聖女召喚の儀は完璧で、使徒などという者は存在していない。けれど聖女と同じ世界からやってきた者を蔑ろにしてはいけないらしく、リュカは以前フィリウスが言っていたように王太后様の傍系の出という事になっている。お陰で書かなくてはならない文字数が大幅に増えたのである。


「いこう」

「はい」


 短い言葉を交わしてリュカはフィリウスと並んで歩き出した。

 途端にワァッと歓声があがり、眩しい光が飛び込んでくる。

 リュカはフィリウスの瞳に近い藍色を基調とした、中世ヨーロッパと近代ヨーロッパが混じっているようなスーツ? を着ていた。

 しかも中のシャツは角度によって銀色にも見えるものでフリルが満載の上、襟元にさらにフリルを足されて少し息苦しい。デザイン画の時に「こんなにフリルはいらないかなぁ」と言ったら即座に却下された衣装だ。きちんとした場所にはきちんとした衣装が必要なのだそうだ。

 一方のフィリウスはリュカと同じような銀色にも見える白の上下に黒のジレ。これはどうやらリュカの色らしい。そしてコンコルディア家の青と呼ばれる青いマントを銀色の飾り紐でとめている。


「だいじょうぶら。ゆっくりありゅこう。ああ、そうら。りゅか、てをちゅなごう」


 そう言って伸ばされた小さな手を、リュカは自分でも気が付かないうちに震えていた手で握りしめた。

 煌びやかなホールには本当に五十人なのか? という人数がいた。おそらく高位の貴族達なので、お付きの者がいるのだろう。

 向けられる視線はまるで値踏みをされているようで。この世界に来た時と同じようないたたまれなさを感じていると、繋いでいる手をギュッと握り返されてハッとする。


「えがおら、りゅか。したをむかじゅに、こうかくをあげて……しょうら。それれいい。にわをしゃんぽちたときみたいなのがいい。ちょうどこのあいだのあおいはなみたいらな」


 そう言われると昨晩は敷かれていなかった青いカーペットがネモフィレオの花のように見えてくるから不思議だ。胸元のフリルのせいだけではない息苦しさが薄れて、リュカはその先に用意されているフィリウスに合わせたのだろう低めの壇の上に彼と一緒に並んだ。

 中央には美しいテーブルと二脚の椅子が置かれている。そこで婚約証に名前を書けばいいのだ。その後は「にっこり」と「ありがとうございます」で乗り切る。そう思っているとマリヌスがもう一度フィリウスとリュカを紹介し、拍手の中二人で頭を下げてから机の方に移動した。

 タイミングを合わせて椅子を引かれ、腰を下ろすと証書とペンが運ばれてくる。

 最初にフィリウスがペンに手を添えて自動書記を使って記名する。その後はリュカの番だ。

 一つ深呼吸するとフィリウスが小さく笑って、大丈夫だというようにコクリと頷いた。

 そう。名前は何度も何度も練習をした。

 全く知らない家名も付くからサーヴァント達にも「大丈夫ですよ。自信を持ってください」と言われるほど練習をした。それでもやっぱりペンを持つ手は震えるし、心臓もドクドクと早くてうるさい。

 昨夜、ホールを見ながらフィリウスが言ったのだ。もしも手が震えて書けなくなったら自動書記の魔法をかけてやると。

「でもじどうしょきらと、りゅかのきもちをむちちているようなきがしゅるから、その……がんばってくりぇ」と眉根を寄せた三歳児の顔は本当に本当に可愛らしかった。

 そんな事を思い出していたらドキドキもおさまってきて、フィリウスの署名の下にペンを走らせ始めた。


(なんか、ほんとに婚約するんだなぁ……)


 こちらに来てひと月足らず。見た目が三歳で、中身が三十二歳という同性と縁を結ぶようになるなんて、思ってもみなかった。しかもそれが嫌だと思っていない自分にも驚きだ。


「うむ」


 書き終えたのを見て嬉しそうに頷いたフィリウスに、リュカは噴き出しそうになってしまった。


「では、こちらで皆様の立ち合いの元、二人の婚約が成立いたしました」


 立ち上がって再び頭を下げて、ここからは「にっこり」と「ありがとうございます」だ。


「ありがとう。これでりゅかは、せいちきにわたちのこんやちゃら。さぁ、ちゅぎはあいしゃつだな。えしゃくだけでじゅうぶんらから、むりはちないでほちい」

「はい、ありがとうございます、フィル」

「うむ」


 短い答えと一緒に差し出された手を握って、二人は来賓達の方に向かって歩き出した。


婚約式まだ続きます。


「うむ」


なんか好きで言わせたくなるwww

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