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1 巻き込まれ召喚

 ゆらりと目の前が不自然に歪んだ。

 眩暈と勘違いして思わず額の辺りに手を当てる。なんだか息苦しく感じたのは無意識に息を止めていたからだろうか。そんな事を考えながら(さとる)はふぅと息をついた。その瞬間……


「おぉぉぉぉ! 召喚は成功だ! 新しい大聖女様となられるお方だ!」


 耳に飛び込んできた声は大きく、それに続いて「わぁ!」と歓声が上がった。

 召喚? 大聖女? まるでよくあるライトノベルの中で使われているような単語に聡はシパシパとまばたきをしてからそっと顔を上げた。


「——————!」


 声が出なかった。一体何が起きているんだろう。

見た事のない広い部屋。神官のような服装の男と、魔法使いのローブのみたいなものを来た男、さらにはどう見ても騎士だろうという恰好をした男達もいる。ファンタジー映画の撮影現場だと言われれば信じてしまったに違いない。

 でも、自分は会社帰りだった筈だ。今日も残業だった。もう少しで駅に着く筈だった。

 春に大学を出て就職をしてからずっと残業だ。定時に帰るなんて夢のまた夢だった。名の売れた会社だったし、興味のある職種だったから採用された時には喜んだ。でも現実は厳しい。

 それでも一応土日の休みは確保されているのだからブラックというわけでもないのだろう。

 入社一年目なんてどこでも雑用係のようなものだ。そんな風に思いながら信号を渡ろうとした。それなのにどうしてこんな見知らぬ部屋でしゃがみこんでいるんだろう。


「私が、大聖女?」


 混乱している聡の耳に次に飛び込んできたのは若い女の声だった。


「はい。詳しい事は改めましてご説明いたします。まずは陛下へのご挨拶を……」


 神官のような服を着ている、白い髭をたくわえた壮年の男はそう言いながら女性の後方にいる聡を見て信じられないというように目を見開いた。そうしてようやく周りにいた人間達も聡の存在に気が付く。


「どういう事だ?」

「なぜ召喚陣の中に聖女様以外の者が……」


 戸惑いと不信感、そんな感情が混じりあった声がザワザワと広がっていくのを感じながら、聡はこれをどう受け止めればいいのかを必死に考える。


「…………貴方は……なぜここに……」


 神官らしい男はかすれた声でそう言った。だがそれは聡が一番聞きたかった事だ。

 なぜ自分がここにいるのか。というか、ここはどこなのか。そしてこの大きな部屋の床に描かれている模様はなんなのか。

 胸の中にジワジワと嫌な予感が広がっていく。まさかという気持ちと、もしかしてという気持ちが交互に押し寄せて再び息苦しさを感じながら、聡はゆっくりと口を開いた。


「あの、ここはどこなんでしょうか。どうしてここにいるのか聞きたいのは俺の方なんですけど」


 ゆっくりと立ち上がってそう言うと、問いかけた神官だけでなく、周囲にいた男達も不審者を見るような警戒した視線を聡に向けてきた。その威圧感にヒクリと顔が引きつった途端、再び女性の声が聞こえてきた。


「あ、あの、もしかして貴方も召喚されたんですか?」

 声の主はどう見ても日本の女子高生だった。

「召喚?」

「ええ。この方が聖女召喚に成功したって。私、異世界モノのラノベをよく読んでいたんですけど、まさか自分がこんな風になるなんて思ってもみなくてビックリしたんです」


 「ふふふ」とどこか嬉しそうに笑う少女に聡は頭が痛くなってきた。聡だって異世界モノの小説やアニメを見た事くらいはある。だが、この緊張感のなさというか、むしろすごく嬉しそうに見えるのだがそれでいいんだろうか。


「聖女様、不審な者と無暗に話されてはなりません。さぁどうぞこちらへ」

「あ、はい。でもあの方も同じ場所から来たんだと思います。だって私一緒に信号を渡っていたような気がするんだもん」


 信号……そういえば渡っていた横断歩道の少し前に塾帰りのような高校生がいた気がする。


「…………巻き込まれたのか」


 思わずそう声を漏らした聡に十六、七に見える少女は気の毒そうな顔をした。


「そうみたいですね。すみません」

「いや、別に君に謝られても……」

「うん。でもおにーさん疲れていたみたいだったから悪かったな~って。あの、あの人も一緒に行ったらだめですか?」

「なりません。まずは陛下に」


 そう言っておそらくはこの召喚を取り仕切っていたのだろう神官は忌々し気に聡を振り返りつつ彼女を促した。


「…………あの俺はどうすればいいんですか?」

「……陛下に確認をしてきます。こちらでお待ちを」


 にべもない冷たい返事に、聡は「俺は被害者だ」と呟きながら溜息をついた。

 今日は久しぶりに九時前に上がれたのだ。だからコンビニではなくてスーパーにも寄ろうと思っていた。だが信じられないような現実は、強面の騎士達が不要なモノを消し去ろうとするように聡に近づいてくる。

 ああ、本当にツイていない。そう思いながら聡は二度目の溜息を押し殺しつつそっと口を開いた。


「あの……」

「なんだ」


 返ってきた短い言葉。


「…………座って待っていてもいいですか?」

「……好きにしろ」

 この場を取り仕切っていた壮年の神官とやり取りをしていたのに、聡は今更ながら言葉は通じるんだなと思った。



久しぶりの新作です。

お相手様(攻様)が出てくるのはもう少し後ですが、お付き合いいただけると嬉しいです♪

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― 新着の感想 ―
!横断歩道で『聖女召喚』に巻き込まれた『聡』さんが哀れ!!せっかくの早帰りだったのに(笑) 気がつけば‥見知らぬ場所に、もしや?と、アレやコレやを想像しすぎ‥とか、不安だよ〜(泣)お疲れモードガンガン…
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