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厄介な攻略対象はお呼びじゃないんです!

作者: あるる

思いついた勢いのまま書きました!

 自分が転生者だと気付いたのは魔法学院でヒロインを見付けた時だった。

 この学園に来てから、様々な場所に見覚えがあるとは思っていたので、納得しかない。


 ここ、「運命の魔法は貴方と花開く」の世界はタイトル通り魔法がある。

 そして舞台となっているこの魔法学院は何処の国にも属さない、大陸の中心にある学園都市国家だ。

 一定以上の魔力のある人は試験を受けて、合格するとこの学園に入学でき、3年間寄宿生活しながら様々な事を学べる。この学園の教育は大陸随一なので、卒業生の将来は約束されている。

 また魔力がある人は基本四大元素である風火水土か光闇のどれかになるのだけど、主人公は無属性で始まる。

 攻略対象は各属性ごとに居て、誰か一人と親しくなるとその属性になり、みんなと一定以上仲良くなると全属性、全員との親密度が低いと無属性のまま危険だからと魔力を封印される。

 悪役令嬢とかは無いので、そこは安心だしちゃんと学生として勉強しないといけないゲームだったので、そういう意味でも安心だ。

 ただし、攻略対象だけでなく、各国の貴族や王族も居るのでそこは、本当に要注意だから気をつけないと。


 それにしても、ヒロイン可愛いわぁ。ふわふわのピンクブロンドにオレンジサファイアのようなキラキラした濃い橙の瞳。

 とはいえ、向こうも転生者だったら怖いから距離を取りつつ様子見をしよう。誰狙いかも気になるしね。


 私自身はお助けキャラでもなくただのモブのようだ。私も一応貴族ではあるが、男爵家の娘なので平民と正直変わらない。

 属性は光で回復は余り得意ではないけど、除菌とか浄化は得意だから私は領地の土壌改良や防御の為に魔法薬や魔道具の勉強を専攻している。

 そして、ヒロインが魔法薬を爆発させているのをちょいちょい見かける。


「きゃあ!」


 可愛い悲鳴と共にぼふっとまた爆発した音が聞こえ、振り返るとやはりヒロインだった。

 周りももう慣れたもので、あちゃあ、としか思わないが今日は珍しく攻略対象がいない。他に誰も動かなそうなので、仕方ないから行くか、関わる気は余り無かったんだけどなぁ(涙。


「大丈夫?怪我はない?」

「は、はい!ごめんなさい…」

「仕方ないわ、貴方魔力制御苦手なんでしょ?

 まずは片付けましょう。あなたは先に手を洗ってきてね、私はここを無害化するから」

「はいっ!」


 光の魔法を零れた薬液が付着しているあたりに使い、無害化を行う。その後はヒロインと片付けをして、改めて魔法薬の実験の再開の準備をしている所に攻略対象が来た。

 どうやらこいつサボってたようだ。まあ、きっと裏のお仕事なんだろう。


「ごめん!ルイーゼちゃん!」

「アランさん…」

「パートナーが来たようだから、後は大丈夫かしら?」

「はい、ありがとうございました!」


 私も自分の席に戻り作り終えてある魔法薬のレポートの続きを書く事に集中する。

 アランとルイーゼは見ないようにする。


 無事授業が終わり、私もレポートを提出してホッと一息つく。ヒロインたちは連れ立ってもう行ったのを確認してやっと気が抜けた。


「はあ、緊張した。関わる気あんま無かったしなぁ、特にアランは怖いから…」

「ええ〜!それは心外だなあ?オレ、女の子には優しいと思うんだけど?」

「っ!!」


 壁を背にしていた私の死角、曲がり角の所からひょっこりと顔を出しているアラン。

 このアラン・ガーランド、一見派手な見た目にチャラい女たらしだが、本来は暗殺者な上にヤンデレではなく、病んでるというか厄介。色々厄介。

 選択肢を間違えるとすぐ殺されると言うヤバさ。前世では推しだったけど!!!

 自分の命をチップにして選択肢なんて選びたくないんだよ!!


 とは言え、この状況は良くない。脂汗が出る。


「ご、ごめんなさい!!悪気は無かったんだけど、失礼でしたよね」

「うん、ちょっと傷付いちゃったな。ねえ、なんでオレが怖いの?」

「え、ええと…… 言わないとダメ?」

「うん♪」


 あー、目がガチだわ。これ言わない限り逃げられない。


「その目です。誰と居る時も、笑ってても目が笑ってないし、今は聞き出すまで逃がさないって言ってます」

「!!それは、…気を付けなきゃいけないねえ。

 うん、いい事を教えて貰ったよ、ありがとう」

「いいえ、失礼な事を言って申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を下げてから私は去ろうとしたら、またしてもアランに腕を掴まれた。


「まだ、なにか?」

「うん。いい事を教えて貰ったから何かお礼したいな」

「えっ、いえいえ!そもそも私が失礼な事を言ったのが悪いので!!」


 ヤバいヤバい!早く逃げなきゃ!!

 顔絶対に引き攣ってるけど知らん!!!!逃亡しなきゃ!!


「ふぅん?」

「あ、あの、離して…」

「うーん。やだ」

「いや、やだって子供じゃないんだし、もう良いでしょ?!」

「それが素かぁ〜。リリアナ・ローズウッド男爵令嬢」


 アランの目が狩人が獲物を見付けたように細まる。警戒どころではなく、即逃亡しても無理かも。


「わ、私のようなしがない男爵家の者も把握しているの?」

「オレ、平民だもん。お貴族サマに失礼があったらいけないでしょ?」

「我が家は貴族と言っても底辺なので、お気になさらず。

 あの、本当にもう行きたいんですが?」

「うん、いいよ。また、夜、カフェでね?」

「えっ!!」


 呼び止める間もなく、アランは行ってしまった。

 これは行くべきか、部屋に引きこもるべきか。どちらの方が彼の気を引かないか。


「逃げたら、追いかけられるよね?行ったら行ったで、何を聞かれるんだろう・・・。

 ってやば!!授業!!!」


 チャイムがもう鳴る直前だと気付き慌てて走る私は、アランがまだ観察している事に気付かなかった。


「………」


 無言で顔は笑みを浮かべたままアランはリリアナの背中を見つめていたが、その内心は読めない。


 その夜、結局私はカフェテリアに居た。この寄宿舎のご飯は美味しいし、正直嫌な事は早く終わらせたい。

 私が食べていると案の定アランが来た。


「やあ、昼間ぶり〜」

「こんばんは」


 当たり前のように隣に座る。

 おい、なんで隣りなんだよ?!普通お話するなら正面でしょ?


「あ、あの…」

「うん?どうかした?」

「分かってやってるんでしょう?距離が近いです…」

「うん、ワザとだよ。内緒話しやすいでしょ?」


 そう言ってウインクするアランの破壊力は抜群すぎる!!イケメンが過ぎる!!!

 可愛い&カッコイイ!!絶対私今顔が赤いけど、赤くなるのを止められる訳もなく、撃沈した。


 終始アランに翻弄されながら他愛のない話をしながら食事をする。

 知識としては知っていたけど、アランは本当に話が上手くてジョークを混ぜながら楽しく会話が進む。

 私たちは食事を終え、バルコニーに出ていた。



「ねえ、そう言えばいつからオレの目が笑ってないのに気付いたの?」


 内心来たー!と思いつつ、ここは正直に話そうって決めてた。

 嘘はアランにきっと見抜かれる。


「割と早々にかな?アランは色んな女の子たちと居るけど、そんなに楽しくも無さそうだなって思ったのが最初だよ」

「そっかー。でも、オレ、リリアナちゃんと話した記憶ないんだけど?」

「うん、ないと思うよ。同じクラスだから、授業関係で一言二言位じゃないかな?」

「ふぅん、それなのにそんなにオレの事、見ていてくれたんだ?」

「なっ!!」


 そこで猫のような目になるな!!色気出すなし!!!

 動揺しまくっている私を無視して私の髪をひと房取ってキスをするアランに、心拍数はあがりっぱなしだよ!!


「ねえ、そんなにオレの事が気になるの?」

「ち、ちがっ!!あ、アランはカッコイイから、目立つから、目に入るのよ…」

「そう?オレ、リリアナちゃんの好み?」

「くぅっ…!!この確信犯!!

 か、格好いいと、思っているわ。これで満足?!」


 推しに推していることを暴かれるなんて、なにこの羞恥プレイ!!

 もう、アランの顔見れないと顔を背けると、背後から思いの外がっしりとした腕が抱きしめてくる。

 アランに抱きしめられている?!はっ?!なにこの状態??


「ねえ、リリアナちゃん?」

「ふぁいっ」

「まだ、()()()、あるよね?」


 あ、しまった。

 そうだよ、この人相手に油断なんてしちゃいけないのに、知らんぷりするにも固まってしまった!!

 どう、逃げよう…。


「お、女の子に、秘密は常にあるわよ!

 というか、離して!!」

「ダーメ。逃げちゃうでしょ?それにリリアナちゃん、柔らかいし、いい匂いするから離したくないな〜」

「え、ちょ、セクハラ!!!」

「あっはは!そうだなあ〜  秘密を1つ話してくれたら、いいよ?」


 嘘だな。内容次第では泳がせてくれるんだろうけど、無罪放免は中々されないだろう。


「うーーー。ルイーゼさん、よ。

 貴方と居るから、少し、羨ましかったのよ、本当は」

「えっ、でもオレの事こわいって」

「そうよ、目が笑ってなくて怖いけど、カッコイイもの。そりゃ、羨ましいでしょ?」

「へぇ、それは嬉しいな」

「もう!話したんだから話してよ!!」

「無理」

「はぁ?!」

「こんな可愛い事言うリリアナ、離せないでしょ〜」


 軽いパニックになりつつ暴れても、細身なのに力のあるアランに抱きしめられている私はもがくだけで逃げ出せない。

 しかも今、私の名前、呼び捨てにしたよね?!

 ダメだってーーー!!!これ以上フラグいらんから!!

 なんで猛スピードで好感度上がってるの?!


「ううーーーっっ」

「はは、リリアナちゃんを堪能したし、今日は逃がしてあげるよ?」

「今日は?」

「うん。だってお前、まだ裏があるだろ?」

「な、ないって!!」

「じゃあ、オレが納得するまで。よ・ろ・し・く・ね〜」


 言うなり、さっさと消えてしまうアランに私はぷるぷると怒りに震えるしか出来なかった。


「なぁんでーーーー!!!」


 本当に、何でこうなった?!

 誰か教えて!!!




 翌朝から、アランは私にベッタリになった。


「おはよ」

「お、おはようございます」

「リリアナ、固いなぁ。もっとフランクに行こう?」

「いえ、私にも体面が…」

「学園内なのに?」

「それでも、です!!」

「仕方ないなあ。ではお嬢様、このオレにエスコートする栄誉を」

「ううっ。ほんとどんな態度も様になるのズルいわ」


 そんな会話をしつつ、私たちは授業に向かった。

 ほんと、本性さえ無ければ、イケメンだし素直に推せるんだけどなぁ。



 アランが私にベッタリになって2週間、呼び名もいつの間にか「リリ」になり周りには公認のカップル扱いになっていた。

 そして私自身もアランが隣にいる事に慣れ始めてしまっていた。とはいえ、アランは無属性のヒロインであるルイーゼの面倒を見るのは学園からの依頼のため、いつも一緒にいる訳ではない。代わりに今まであまり話すことのなかったクラスメイトからアランについて聞かれることが増えた。


 確かに、アランはチャラいけど格好いいから。分からなくはないけど、アランファンに目の敵にされているのが辛い。

 人といる事に疲れて、裏庭の人の少ないベンチに座ると思わずため息が出てしまう。


「はあ・・・やっぱり、距離置くしかないのかなぁ」


 敢えて声に出したのは、自分に言い聞かせるため。なのに、いつの間にか来ていたアランがベンチの背後から抱きしめてきた。


「アラン?ビックリしたわ」

「…リリ。リリはまだオレの事を好きになってくれない?」


 そんなことを言うアランに思わずクスリと笑ってしまう。


「まさか、とっくに好きよ?」

「えっ、本当に?なら、なんでオレと距離を置くんだ?」

「だって、アランのファンは怖いし。貴方は私に興味はあるけど、好意はないもの。

 私ばかり気持ちが募ってしまうのは、辛いわ」

「…お前は、どこまで知っている」


 瞬時に低く、冷たくなるアランの声に私は振り返り、アランの顔に手を当てる。本当にこの人は厄介だわ。


「素が出てるわ、アラン」

「お前は気にしないし、話さないだろ?」

「ええ、もちろん。でも、ここは学園内だもの、常に学園の監視があるわ」

「学園長たちの監視は、オレの結界で阻まれている」

「流石ね。でも、結界を張っていることはいいの?」


 アランはにやりと嗤うと、私のシャツに手を伸ばしてきた。


「ちょ、ちょっと!」

「こうして、乱してやれば()()をしていたか分かるだろ?」

「デリカシーがないわ!最低!!」

「その最低に惚れているのは?」

「私よ!悪かったわね!」


 ククッと笑っているアランがカッコイイと思ってしまうんだから、自分が度し難い。ずっと、ずっと前世から好きだった推しが、目の前にいるんだもの。気にならないはずも、好きにならないはずもなかった。


 アランの髪に触れていると、すっとアランが顔を寄せてきてキスをする。軽い、唇が触れるだけの、ついばむようなキスを何度かして離れていく。

 はしたなくも「もっと」と思う気持ちと、寂しく思う気持ちは言葉には出さないけど、アランを見つめる。アランも揺れる目で私を見ながらベンチの背を乗り越えると、私を抱き寄せてまたキスをしてくれる。

 今度は激しく、荒々しく、ディープに私はアランのキスに翻弄されてしまって、もう何も考えられない。


「リリ、リリアナ」

「アラン?」

「そんな目をしていると、ここで抱くぞ」

「ダメよ…これでも、一応、男爵家の娘なのよ」

「お前が誘うのが悪い」

「あ、やあ… アランっ」


 はだけた首に、胸元にキスしてくるアラン。下着はもう見られているだろうと思うとただただ恥ずかしく、アランを止めようと抵抗するが力で適うわけもなく!!

 困っていると、意地悪く胸元でアランが笑う。


「冗談だよ」

「酷い冗談だわ!」

「オレに抱かれるのは嫌か?」

「そうじゃない事を分かってて意地悪を言わないでくれる?」


 ひとしきりじゃれあい、笑いあい、アランに抱きしめられたまま、また軽くキスをされる。最近気付いたけど、アランはきっとキス魔だ。暗殺者なのにキス魔で大丈夫なのか?と思わなくはない。


「なあ」

「うん」

「本当に、お前はどこまで知っているんだ?

 普段は普通に貴族の女なのに、どこか冷めていて、こんなにオレを受け入れている癖にどこか諦めた目をしている。お前はオレがお前を殺すと言っても驚かないだろ?」

「そうね、仕方ないなって思うかな。別に死にたくはないのよ?」

「そうだろうな、想像がつく。それなのに、何故オレと居るんだ?」

「貴方が逃がしてくれないし、惚れた弱みね。ずっと、ずっと好きだったんだもの」

「熱烈だな」

「ふふ、そうでしょう?本当は、隠し通すつもりだったのよ…。

 でも、バレちゃったんだもの。暴かれてしまった気持ちはもう隠せないわ。

 アラン、好きよ。だから、私を消す時は痛くしないでね?」

「リリアナ」



 困惑して、苦しそうに顔をしかめるアランさえも愛しくて、頭をなでて眉間にキスをすると、困ったように眉を下がって大型犬のようになるのも好きだ。


「ねえ、アラン。来月末、長期休み前の学園パーティーがあるでしょう?」

「ああ」

「私をパートナーにしてくれる?」

「それは問題ない、というよりお前以外の誰もエスコートする気はない」

「ふふ、ありがとう。パーティーの最後のダンスが終わったら、一緒にここに来ましょう?

 そこで内緒話をするわ」

「リリ?」

「だからね、それまではいつも通り、他人からは甘く恋人を甘やかす貴方の振りをしててね?」

「ふう・・・ 仕方ないな、オレのお嬢様は」


「でしょう?」と笑いながら、私たちは服を整えて寄宿舎の寮へと一緒に戻る。周りにはきっといつも通りイチャイチャしているバカップルにしか見えないだろう。

 実際私はこのじゃれあいを楽しんでいるし、アランの目も冷たくなく、甘い。時折熱が籠るのも、きっと気のせいではないと思いたい。この時間は期間限定なのは分かっているから、今だけは楽しく過ごしたい。



 それから、週末はアランと一緒にドレスとスーツを一緒に選んだり、学園都市にあるカフェでデートしたりして、パーティー直前の週末にアランに抱かれた。

 この世界もラブホみたいな場所はあるんだって、初めて知りました。はい。

 アランもきっと分かっているから、アランから誘ってくれて、私は受け入れた。もう、思い残すことはない。


 パーティー当日、寮の玄関でドレスアップした私を迎えに来てくれたアランは本当に眩しいくらいに格好いい。

 長い髪を無造作に結い、いつも怪しく光る赤い瞳は笑顔で隠し、スマートに着こなした黒いシックなスーツは均整の取れたプロポーションをこれでもかと見せつけてくる。


「リリアナ。いつも可愛いけど、今日は本当に綺麗だね」

「ありがとう。アランが素敵だから、少し頑張ってみたわ」

「嬉しいけど、そんな可愛いことを言われると攫って隠したくなるよ?」

「ダーメ、もう。アランとのダンス、楽しみにしているのよ?」


 そんなバカップルな会話をしつつも、アランは生まれも育ち貴族かのようにそつなくエスコートしてくれる。



 パーティーは問題なく進み、ヒロインのルイーゼはどうやら水属性の王子と親しくなったようだったが、アランは私の隣にずっといた。ダンスは2回踊り、本物の王子にも負けないきらびやかさと色気に女生徒の黄色い歓声をBGMに私に注がれる視線はどこまでも甘やかで幸せだ。

 ひとしきり踊り、ふと会場を見るとアラン以外の攻略対象たちはルイーゼを囲んでいたので、気になってアランを見上げるが気にしている様子はない。


「リリ?」

「うん、行かなくていいのかなぁ…って思って」

「別にオレがいなくても問題ないだろ?それにオレはリリを独占していたんだけどな」

「ふふ、嬉しい。でも、呼んでるから行って来て?」

「……何処にも行くなよ?」

「ええ、あそこのソファで大人しく待っている」

「すぐ戻る」


 私にだけ見せる嫌そうな顔は即座に笑顔で隠しギリギリまで私の手を取りながらも、ルイーゼたちの元へと向かったアランを見送り、私は宣言したソファへ飲み物を持って向かった。

 そこから記憶がなかった。



「リリ!リリアナ!!」

「あ、らん・・・」


 初めて見る焦った顔、そしてアランの背後に広がる夜空と見慣れた裏庭の景色、そして鉄錆のような匂い。ああ、私は危険だとアランの組織が排除しようとしたのかと理解した。


「アラン、私は大丈夫よ」

「大丈夫じゃない!何を飲まされたか分からないんだ!!」

「アラン… 貴方は怪我は?」

「リリ!オレは無傷だ。オレの事より、本当にリリが何を飲まされたのかは分からないけど、何らかの毒なのは間違いないんだ…」

「そう。光魔法でも浄化の治癒もできないものなのでしょうね」


 あまり困った様子のない私にアランはいぶかし気な顔になっている。ちょっと、怒っているわね、この顔は。


「お前は!死ぬんだぞ!!分かってるのか?!」

「ええ、誰よりも。この試練を乗り越えられるかどうか、それで私の寿命は変わるわ」

「試練?」

「うん。アラン、私を少しでも好きって信じてもいい?」

「何をこんな時に!」

「こんな時だからだわ。アラン、誓約(コントラクト)をしましょう?」

「コントラクト…」


 その言葉にようやくアランの意識が私へと戻った。

 嗚呼、このスタールビーのような濃いピンク、赤い瞳が素敵だと思いながら、アランにキスをする。


「貴方を縛る契約を私との誓約で上書きするの」

「はっ?!」

「貴方を勝手に自由にする私を許さないでね?」

「おい、待て!リリアナ!!」


 アランの止める声を無視して、ずっと準備していた魔道具に魔力を注いでアランのためだけに組んだ魔法を展開する。

 これは魔法的な契約で結ばれ、自由のないアランの暗殺集団との契約を破棄し、私をキーにして寿命以外での殺害を無効化させる誓約の魔法。私が死んでしまえば、アランは不死身にはなれないが、そもそも彼は強いので大抵の人には負けない。


「あっ……くぅ」


 アランの中で書き換えられる魔法に苦しむ姿に申し訳なくなるが、これを完成させなければ彼は一生奴隷のように扱き使われる。そんなの、許せない。


「っっ!」


 光が収まり、私の魔法は無事成功したようだ。良かった。


「リリ!!」


 崩れ落ちる私を抱きとめてくれるアランの苦い顔が、昔見たスチルのままで、手を伸ばすと私の手を取ってくれる。


「なんで!!お前知っていたんだったら、なんで!」

「言ったでしょう?ずっと、ずっと大好きだったの。

 貴方が自由に、時に嫌味っぽく、意地悪に…でも好きに生きて欲しかった」


 アランが悔しそうに、歯噛みしているのは申し訳ないけど、私にはこの手しか思いつかなかった。


「お前は?!お前はどうなる!」

「ごめんね」

「ふざけんなっ!こんな我儘は許さない!」


 ごめんね、って言いたいけど、声が出ない。こんな即効性の毒だったのは想定外だったなぁ、でもアランを自由にできたならいいかな。

 親不孝ではあるけど、領地で改善に使えそうなものはもう送ってあるから、それで許してね。




 その日、男爵令嬢であるリリアナ・ローズウッドは18歳でこの世をさった。一般的にはリリアナ嬢は事故で亡くなった事になっているが、リリアナの両親である男爵夫妻あ彼女がとある事件に巻き込まれて亡くなった事は伝えられた。

 リリアナ嬢が残した魔法薬は土壌に有効な細菌と有害な細菌を識別して浄化を行い、土壌改善を行う画期的なのでこの後様々な地域で有効活用された。





 数年後、リリアナに無理矢理誓約を結ばされ、様々な(しがらみ)から解放されたアラン・ガーロンドは砂漠の国で昔の同級生と会っていた。


「よう、王子サマからの依頼とはなぁ」

「貴様なら信頼できるからな」

「さあて、ね?あのポヤヤンな妃、食っちまうぞ?」

「ハッ!できるものならやってみろ、ルイーゼも強くなったぞ。大体貴様はリリアナ嬢以外興味がないだろうに」

「うるせえよ」

「ハハ。貴様は今の方がいいな。それで、リリアナ嬢は?」

「……」

「そうか、すまん」

「リリ、来い」


 アランの言葉で小さな魔方陣が浮かび、リリアナが落とされる。


「きゃあ!…いったぁ~」

「相変わらずドジだな」

「アランのせいでしょう!!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐ小柄な女性は間違いなく、リリアナだが髪は無造作に編んで冒険者のようないで立ちをしていた。


「リ、リリアナ嬢、なのか?」

「えっ…!!! 大変失礼しました、王子殿下!!

 このような格好のため正式なご挨拶はできませんが、リリアナ・ガーロンドでございます」

「ガーロンド?」

「そ、オレの奥さん」

「アラン!!」

「いいだろ。こいつ元同級なのをいい事に無茶な依頼しやがるんだから」

「もう!!」


 賑やかな元同級生夫妻は、なんだかんだ幸せそうで、依頼人である砂漠の国の王子は微笑ましく見ていた。リリアナが倒れた後のアランの様子は見てられないくらいに荒れ、普段人を喰ったように飄々としている奴が必死の形相でリリアナを抱きかかえて学園長室へと駆け込んだ。


 既に心臓が止まりかけていたリリアナは学園長の魔法でギリギリ生命維持を行い、アランはその間に属していた暗殺集団を壊滅させ、毒のレシピを入手した。その時に初めて王子や他2人だけ内密にアランの立場を聞いたが、アランの実力は半端じゃなかった。

 王子としては、こいつのストッパーとして魔法での契約は必須だな、と思ったがリリアナが現れた事により状況は変わった。リリアナの毒は解除されたがダメージが癒せず、アランは最終手段としてリリアナと寿命を共有することで命を繋ぎとめた。

 それでも、リリアナは目を中々覚ますことなく、王子もアランも学園卒業を迎え、きっとその後にリリアナは目覚めたのだろう。


 思いつめ、荒んだ顔をしていた男が、昔と変わらぬ飄々とした表情で妻となったリリアナ嬢とじゃれている姿は感慨深いものがあった。が、少々飽きたし、五月蠅い。


「アラン、お前たちが元気そうで何よりだ」

「ふん。リリ帰るぞ」

「ちょっと!それでは失礼します!」


 どこまでも賑やかに2人は去って行った。

読んでいただきありがとうございます。

病んでるのも、厄介なのも、重いのもきっとどっちもどっち


連載版を公開しました!

色々短編では短縮した内容を追加しました。

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― 新着の感想 ―
リリアナご愁傷様しか出ない。 アランが居なければリリアナも死にかけてないし、ヤンデレ怖すぎです。
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