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紅運転身!凶気を祓う少女戦士、ルーミャルビー誕生!

 少し前に変身ヒロインの二次創作を書いていた者です。この度、同好の士である友人達と各々でオリジナルの変身ヒロイン作品を作ろうという話になり、このルーミャルビーを考えました。この作品の方向性は決めてはいるものの、本編としてどこまで続くか現状考えられていません。単発の話としても読めるように書くつもりですので、どうか楽しんで頂ければ幸いです。

 翻ったカーテンが日光を薄暗い部屋に招き入れていた。夜のうちに清浄した空気は机に置きっぱなしになっていた冊子をめくる。


「……んんっ、ぅみゃ……」


 当の部屋の主はいまだに夢の中にいた。パジャマがめくれて出ていたお腹を風が撫でるとくすぐったそうに呻くばかりだった。


◇◇◇◇


「ふぁぁ……。おはようママ」


「おはようじゃないわよぉ。リッちゃん、待たせてるんだから」


「全然お気になさらず。おかげでママさんの美味しい料理頂けるので。あ、るみゃおはよう」


 自室から降りて向かったリビングには母親と幼馴染の律子がいつもと同じく朝食を摂っていた。


「リッちゃん……私より朝ごはんの方が大事なの……?」


「いやいやこれは選択の順序でそうなっただけで。てか、早くご飯食べないと遅れちゃうよ?」


「そうだった!いただきまーす!」


 友情が食欲に負けたと落胆しつつも、瑠美もまたテーブルに着くのだった。


◇◇◇◇


「お父さん、行ってきます。うん、大丈夫だよ。車には気をつけるから」


 朝ごはんを食べ終えた瑠美は仏壇に手を合わせる。遺影には幼少の頃に亡くなった父が写っている。生前は何度かバイクに乗せてもらい、少し離れたパーキングエリアでソフトクリームを一緒に食べる事が楽しみだった。それが瑠美が小学校に上がる時期に喪われたのだ。雨が降った夜の単独事故。周りに他の跡がなく、車両の交通の履歴もなかった事から、不注意に起因したただの事故として処理された。それを聞いた当時の瑠美はひどく怒っていたと母から事あるごとに聞かされていた。安全運転を何より心がけていた父に限ってよそ見をしているはずがない。瑠美はそう言って譲らなかったのだ。


 事情を理解している律子は神妙な面持ちで瑠美と父親のやりとりを見守っていた。


「……よし、リッちゃんお待たせ」


「うぅん大丈夫。さ、行こっか」


 毎朝の習慣を終えると、瑠美のまとう雰囲気はいつも通りに戻っていた。


◇◇◇◇


「はぁぁ……」


 目の前に黒猫が横切った、朝のニュースでやっていた星座占いは満点の一位だったにも関わらずだ。朝の空気が日差しの温度に染まり出した頃、瑠美は小さい口から陰鬱なため息を漏らす。


「ん?どしたのるみゃ」


 隣を歩く律子は瑠美のらしくないため息が気にかかり、調子を伺う。


「だって……黒猫ちゃん見ちゃったんだもん……」


 鈴のように軽やかな声色は分かりやすく沈んでいた。


「黒猫?あぁ、よく言うよねぇ。通りすがると不幸になるとかなんとか」


「うん……猫ちゃんはかわいいんだけどね……」


「難儀だねぇ。てか、るみゃは本当占い好きよね」


「え?うんっ!だってさぁ良い結果が出ると嬉しいでしょ?それに」


「それに?」


「本当にそうなれたら良いなって頑張れるからっ」


「なるほどねぇ。でも、黒猫が来るのはどうしようもなくない?」


「……ふみゅうぅ……」


「あ、気が抜けた」


 日差しが強くなっても他愛のない会話のおかげで気にならない。不運に思えた出来事も大切な友達によって心が好転していくように感じたのだ。


「……」


 学校へ楽しげに歩く道中、電柱に隠れて黒猫がふたりを見ているようだった。


◇◇◇◇


「……」


 瑠美は教室でポケーっとしていた。勉強が嫌いでも分からないわけでもない。ただ、青空の向こうに隠れた黒い大海原に想いを馳せていたのだ。


(昨日の夜は綺麗だったなぁ……)


 雲がない夜の時間が空くと決まって星を眺めていた。苗字に因んでという事ではないが、祖父もそして父も天体観測が好きだった。


(……あれ、また黒猫……。こっちを見てる……?)


 不意に落とした視線が影を捉える。こらして見た先には今朝と同じく黒猫が校庭にいた。それだけでなく、向こうもこちらを見ているように思えた。偶然とはいえ、いつまでも見ていられるものではない。瑠美はそれを口実としてひっそりクラスの一員に戻るのだった。


◇◇◇◇


「つっかれたぁ〜!」


「おつかれ、リッちゃん」


 チャイムの音を背に瑠美達は学校を後にしていた。


「どこか寄ってく?」


「うーん、甘いもの食べたいけどお肉ついちゃうし……」


「なぁに言ってんの、るみゃはもう少し食べた方がいいよ。あんだけ動けるんだからもったいないよ」


「ひゃんっ!?いきなり触らないでよぉ!それに私は交代で出るから動けてるだけで……」


 不意のわき腹の揉みしだきに瑠美はうわずった悲鳴を上げる。決まった部活動には参加してはいないが確かに脚は速く、運動部から大会があればヘルプを頼まれる事も少なくなかった。


「るみゃの応援しに行った時、よその子達が呼んでるの聞いた事あるよ?神出鬼没に得点をかっさらう、東高のキャッツアイってさ」


「うわ、それ本当なんだ……。恥ずかしいからイヤだなぁ……」


 同年代に比べて幼く見えるいでたちと実力から隠れファンがいるのはなんとなく聞いてはいたが、知らぬ間にその段階を越えようとしていたのに気づいた瑠美は薄っすら寒いものを感じていた。


◇◇◇◇


「あっ、ここの公園、昔はよく行ってたよねぇ」


「そうだね。確かリッちゃんと初めて会ったのってここだったよね」


 二人が通りがかったのは川縁の平地にある公園だ。


「そうそう。懐かしいなぁ……あの日は雨でさ、大きい段ボールの中でるみゃが震えてて、それをアタシが拾ったんだよねぇ」


「また適当言ってる!!雨降ってたのは本当だけど、ずぶ濡れで震えてたのはリッちゃんの方でしょ?」


「あははー……そうでしたっけ?」


「それで傘一本しか無かったし、家が近くじゃなかったからウチに来たんだよ?」


「いやー……拾われたネコはアタシだったか……」


「なにも上手くないよねそれ……」


「うぐっ!?るみゃって声は甘いのにツッコミはビターだよねぇ……」


 瑠美はこの何気ない瞬間が好きだ。好きな人と楽しく喋っていられる、時間を共有できる事に幸せを噛み締めているのだった。


「あれ?誰か遊んでる」


「珍しいねぇ。しかもあの制服、ここらじゃ見ないよね」


 この地域の子どもが少なくなり、公園に人がいる事が珍しくなった。そんな事情を知っているからこそ、ブランコを漕いでいる少女に目が留まったのだ。

  

「こんにちはー。この辺りの子……じゃないですよね?」


 興味本位でも聞くのは失礼だったか。瑠美は気が引けたものの、律子の後を追い河川敷の公園へ降りて行った。


 ブランコに乗っていたのは黒いセーラー服の少女。髪も同じ真っ黒で腰にかかるほどに長い。胸元のリボンがやけに赤く見え、それが印象を強くさせていた。


「……」


 声に気づいた少女はブランコを降り、無言で律子達の方へ歩み寄る。


「あなた……イィ色してるわねぇ……」


「あっ、え?」


  前を歩く律子をすり抜け、少女は瑠美に顔を近づける。


「うん、イィ色してる……あなたの魂……!すぅごくキレイな漆黒……!」


「な、なによ……、るみゃから離れなさいよ!」


 律子がキツい語気で注意するが、離れようとはしない。


「ッ!?……あ、あぁ……!」


 瑠美を映す少女の瞳孔が大きく開いた。人の持つ目ではない。知っているものにあるとすれば猫の目だ。


「ちょ、ちょっと瑠美に何する気よっ!?」


 律子は少女からただならぬ雰囲気を感じ、瑠美から引き離そうと間に入る。だが、それをなんとも思っていないように少女は横目に睨む。


「あなたもそれなりだけど、この子ほどじゃないわ」


「うわっ!?く、くぅぅ……っ」


「リッちゃん!?」


 少女が手のひらを向けると律子は突然真横に吹き飛び、地面をすべり転がる。


「あらあら不運ねぇ」


「あなたがした事でしょう!?なんでこんな……」


 瑠美が声を荒らげるが、小さい身体の中から投げつけた言葉は黒いセーラー服の少女には響かない。


「違うわ。あなたが不運を招いたからよ。私はその不運が澱む凶気を集めるために生まれたの」


「凶気?それっていったい……?」


「それはぁ、あなたがよく分かっているはずよ?」


「そんなの……」


「知らないって?あの子が傷ついたのはあなたの凶気のせい。あなたがいるからまわりの人達が不幸になるのよ」


「っ!」


 その言葉に脳裏を過ったのは父の顔。もしかしたら自分がいなければ父は別の人生を歩み、いまも生きていたかもしれない。そして、母も父とまだまだ過ごしたかったに違いない。震える瞳が吹き飛ばされた律子を捉える。この場においても、大切な友達が傷ついてしまった。


「ようやく分かってくれた?でもね、その凶気は才能なのよ。そしてそれを活かす術を私は知ってる」


「私の……凶気……」


 自らを清廉な人間だとは思っていない。ただこの言葉を聞き、少しでも内にある凶気が顔を出してくるのではないかと考えてしまう。


「楽になるわよぉ?あなたから解き放たれた凶気は意志を持ち人を襲い、また新たな不幸を生む。でも、それはあなたのせいじゃない。いずれその人に訪れるはずだった不運が早く来るだけのこと……」


「……る……みゃ……」


「っ!リッちゃん!?」


 綱渡りの足取りが奈落の方に向きかけた時だった。人智を超えた力で傷つけられた律子のか細い声が瑠美の支え留める。


「あらぁ、寝てれば苦しくないのにバカねぇ」


「こ、こんな奴の話なんか…聞くな……っ!るみゃが人を不幸にしてるだって……?あたしは、るみゃに出会えたのすごく幸運だって思ってる……!るみゃの事を知らないくせに……でたらめ言うな……!」


「……!」


 普段なら気恥ずかしくて聞けない本音。それは律子の偽りのない言葉だとすぐに分かった。


「そう。それじゃあ、あなたに最大の不幸を与えてあげる。この子の凶気で死ねるなんてぇ、最ッ高に不幸でしょ!?」


「ガッ!?ぐ、ぐぅ……あぁぁぁっ!?」


「る、瑠美!!」


 黒いセーラー服の少女が指を鳴らした途端、瑠美が自分の身体を抱きしめながら悶える。やがて全身から暗い闇のモヤがあふれ出てきた。


「思ってたとおりすごい凶気の量ねぇ。これから生まれたコならさらに多くの不幸を生み出せるわぁ!!」


 狂喜に満ちた笑いと苦痛に苛まれる悲鳴が重なる。さっきまで晴れていた空が曇天に変わり、世界の終わりが近づいてきたと思わせる。


「さぁ、解き放ちなさい!!凶気をッ!!」


「キャアァァッ!!」


「瑠美ーー!!」


 より強く凶気が飛び出し、凶々しいもやがまわりを染めていく。人の目には何も映らない真黒の世界。それを目にした瑠美の意識もまた黒く塗りつぶされていった。

 

◇◇◇◇


『──わたし……』


 辺りが暗く陰鬱な雰囲気が漂う場所で瑠美は目を覚ました。


『なんて……かなしい場所なの……?……さ、さむい……』


 目を凝らしてもあるのは無の空間。平衡感覚すらままならないここは瑠美の熱を奪っていく。


「リッちゃんはどうしたんだろう?あの時私は河原にいてそれで……」


 記憶の糸を手繰り寄せるがある箇所で断ち切れていた。


『……だめ……身体が動かない……どんどん…凍って…いくみたい……』


 虚無を歩く脚が止まり膝が地面に着く。そのまま前のめりで倒れた瑠美の口の動きは緩慢になっていく。


(……あの子の言うとおり……なのかな……。私が生まれてこなければ……こんな……こと……に……は……)


 セーラー服の少女が発した言葉が頭の中から消えない。父親だけでなく、知らないうちに誰かを不幸にしてしまっていたのではないか。それを知らないまま自分だけ幸せに生きている。そう思うだけで瑠美の中の生命の温度が下がっていく。


「ご……めん……ね……」


(リッちゃん……お母さん……お父さん……)


 もはや動く力の残されていない身体であっても、絞りとるように涙の一滴が真っ黒な地面に溢れる。


◇◇◇◇


「な、なんなのよあれ……!」


 暴風吹き荒び、律子は飛ばないように必死に踏ん張りつつも、目の前に現れた物体に戸惑いを隠せずに叫ぶ。黒い結晶は曇天の中でも自らの実線を色濃く浮き上がらせていた。


「あれはいわば繭よ」


「繭……?」


「あの子は手遅れよ。こうなった以上、マガイモノとして生まれ変わって新たな不幸を作り続けるしかない……!」


「そ、そんな……」


 少女の言葉は律子にさらなる戦慄を与える。見ているだけで悍ましさに身慄いが止まらないアレの中に入り、ただの人間である瑠美が耐えられるわけがない。希望は一切失われ、救いようのない絶望が始まるのだ。


「っ!るみゃぁぁっ!!頑張れぇぇっ!!」


「……なにそれ……」


 もはや趨勢が決まった段階であるにも関わらず、律子は瑠美が囚われた黒い結晶体に叫ぶ。セーラー服の少女は片眉を歪め怪訝そうにしていた。


「なにって、応援してるのよ」


「つくづく愚かねぇ。そんな声はあの中には届かない」

 

「本当にあの子の事分かってないね。瑠美はね、頑張り屋さんなんだ!ただ不運を嘆いてるだけのコじゃないんだよ!!」


 親友を信じる声はさらに大きくなる。律子はそばで瑠美がめげずに明るく頑張っていた事を知っている。


「スゥ……、瑠美ぃぃぃぃっ!!負けるなぁぁぁぁっ!!」


「ッ!?なによこのバカにデカい声は……っ!」


 律子は精一杯、身体の中のすべてを吐き出すように瑠美の名を叫んだ。その声は傍で勝ち誇るセーラー服の少女の耳をつんざき、顔を歪ませる。


◇◇◇◇


「え……?これって……」


 瑠美が横たわる黒の地表が眩く光を放つ。その中には今まで生きてきた記憶の断片が映し出されている。その中には父親の姿もあり、小さい瑠美と一緒に笑う光景があった。


〈瑠美ぃぃぃぃっ!!負けるなぁぁぁぁっ!!〉


「!リッちゃん……!」


 姿を消した律子の声が耳に入り、身体を起こして周りを見渡す。そこには前傾気味の姿勢で声を張り上げる親友とそれを苦々しく見つめる少女の姿があった。


「そうだ、私諦めちゃってた……。いまが不運だって、頑張れば変えていけるって分かってたのに……!!」


 身体の芯から熱があふれてくる。寒々とした闇に負けない、優しくも強い紅い光が瑠美の全身から滲み出してくる。


「紅い光……?これに触ればいいの……?」


 自身の変化に戸惑う瑠美だが、それは初めから知っていたように頭の中で感じ取れた。


「私は幸運……紅運を掴む!そして、この力でみんなを幸せにするんだ!!」


 小さい手を握りしめ、拳を天に突き上げる。


「紅運転身っ!!」


◇◇◇◇


「ぜぇ……はぁ……っ」


「よ、ようやく諦めたかしらぁ……?」


 外の律子は喉が擦り切れ、肺も空気を多く取り込みにくくなっていた。


「さあ、そろそろ頃合いよぉ。目覚めなさい!マガイモノ!!」


「瑠美……」


 時が満ちたとばかりにセーラー服の少女が叫ぶ。もはや抗う手立てはないのか、律子はついに膝を地面についてしまう。


「ッ!?な、なにこの光はぁ!キャアァァァッ!!」


 結晶は瞬く間に変化を遂げた。黒い表面は紅に染まり、放つ光が暗雲を突き、散り散りにしていく。地面に向かっていった光はセーラー服の少女を弾き飛ばしてしまう。


「この光……温かい……。身体の痛みがなくなっていく……?」


 紅い光に照らされた律子は多幸感に包まれていた。全身に生まれた擦り傷も痛みも消えてなくなっていた。



「そ、そんな事……ありえないッ!!凶気に染まったモノが転化するなんてぇ!!」


「あ、あれって……るみゃ、なの……?」


 結晶が砕け散り、中から人影が現れる。紅いショートカットに猫のような耳、紅を基調としたコスチュームは試合で着るユニフォームのようで、腕には長く白い垂れ袖が配されている。手と足には赤いグローブとブーツが着装し、ハーフパンツの背後から尻尾が生えていた。


「紅運勇姫、ルーミャルビー!!あなたの不運もこれまでにゃっ!!」


 開けた目は猫の瞳孔のそれだ。そして、小さい口が開くと高らかに名乗りを上げた。


「ルーミャ…ルビー……」


「紅運……勇姫ですってぇ?なんとも憎たらしい名前だこと……!」


 降り立ったルーミャは凛とした視線をセーラー服の少女に向ける。身体つきが変わり、歳も上がっているように見えたが律子にはそれが瑠美に間違いないと確信させた。


「仕方ないわね……放置したら厄介な事になりそうだし……今ここで消し去ってあげるッ!願いも救いも黒く塗り潰せ……!イミテーション・ダークネスッ!!」


 セーラー服の少女が手をかざした先にあったのは、遊具として置かれていた鎖で吊るしているブランコだ。凶光はブランコを巨大に、そして恐ろしい怪物へと変えてしまう。


「ば……化け物……!?」


 立て続けに信じられないものを見た律子だが、いま目の当たりにしている存在はその最たる物だ。


「……リッちゃん、出来るだけ遠くまで離れて欲しいにゃ」


「やっぱりるみゃなんだね……」


「うんっ、そうにゃ!!」


  目の前にいる少女は瑠美とはまったくの別人にしか見えない。だが、言葉の端々から感じる雰囲気は親しい幼馴染のそれだ。


「え……と、まずは避難するね!」


「ありがとうにゃ!あ、あとリッちゃん……」


「……なぁに?」


「あのブランコを元に戻したら、また一緒に乗ろうにゃん!!」


「……うんっ!」


 約束をちぎり二人は反対の方へ駆けていく。


(るみゃ……無事に帰ってきて……!)


 変身しルーミャルビーとなった瑠美はあの化け物に勝てるはずだ。それでも、戦うとなればただではすまない。せめて生きて帰ってきて欲しいと願いながらルーミャの元から離れていく。



「あなた……どうやって凶気を跳ね退けて、いえ、反転させたのかしら」


「反転?なんのことにゃ。私はただ、暗い心から戻らなきゃって思っただけにゃ!!」


(この子、力の仕組みが分かっていないの?だったら好都合だわ)


「……ふふっ。よぉく分かったわ。だったらまた絶望に叩きこんであげる!もう二度と這い上がれないようにね!!いきなさいマガイモノッ!!」


 少女の号令に従い、ブランコマガイモノが動き出す。支柱を動かし歩く様は襲い来る獰猛な獣に見える。


「くぅぅ……っ、たぁっ!!」


 しかし、ルーミャはすでにマガイモノの懐に潜り込んでいた。変身で強化された筋肉をバネに使い、低い位置にあったブランコの座板に飛び蹴りを浴びせる。

 

「ふふ、ばかねぇ」


「にゃっ!?ぐっ、ゔ にゃぁぁっ!!」


 先制打を加えたルーミャを嘲る少女。それを解せないルーミャは頭の上に疑問符を浮かべるが、後頭部への衝撃で吹き飛ぶ。


「ゆり返す物を攻撃して得意げになっちゃって。マガイモノ、もっといたぶってやりなさい!!」


「うぅ……っ。……にゃにゃっ!?くっ、うっ、にゃあぁぁっ!!」


 土手にぶつかり止まったルーミャは頭を振って揺れる意識を取り戻す。だが、ハッキリした視界に巨大な座板が迫り、必死に避ける。


「ハハハッ!どうしたの?逃げてばかりじゃ勝てないわよぉ!!」


「にゃっ、にゃっ!……はっ、うにゃあァァッ!!が、はぁ……っ」


(しまった……!)


 振り回される板槌を目で追いすんでの所で回避する。その猛攻に気を取られ、もう一つの木板が迫っている事に気づいていなかった。そして、それが目線に触れた時には胴体を真横に打ち抜いていた。今度は地面に転がり、川に入る前に止まる。煌びやかな赤と白の装束は湿った土が所々汚していた。


「これで分かったかしらぁ?絶望には、凶気には抗えない。どんなに頑張ってもねぇ!」


「くぅっ、あ、あぁぁっ!!」


 少女は倒れるルーミャに近づき、頭を踏み躙る。脚の細さからは想像つかない圧力にルーミャは悲鳴を上げるしか出来ない。


「謝ったら許してあげるけど?そして、再び凶気に身を委ねて私の言うままに不幸をばら撒くのよ!」


「うぁぁ……っ!……いや、にゃ……!」


「……なんですって?」


「リッちゃんと、約束したんだにゃ……またブランコで一緒に遊ぼうって……」


「どこまでバカなのかしらぁ?でももういいわ。あなたは生かすけど心を壊してあげる、凶気の闇に沈めてねぇ。そうしたらイヤでも言う事聞くでしょぉ!?」


「にゃあっ!!く、うぅ……!」


 ただ痛みに耐えるルーミャに呆れた少女は腹を蹴り上げる。身体はまた泥をまとい、手足をわずかに動かすしか出来ない。そんな紅運遊姫にマガイモノのトドメである板槌が迫る。


「ルーミャーーー!!立ち上がれーーー!!」

 

「ぐぅっ!?ま、またあの子……!?」


 すでに退避しているはずの親友の声が河川敷に轟く。黒セーラー服の少女は苦々しげに声の方を睨む。


「……リッ……ちゃん……?」


 痛みにブレる意識にゆっくりと入ってくる律子の声。心では諦めかけていたルーミャの中に熱が生まれていた。


(そうだ……。諦めそうになった時はリッちゃんが助けてくれたんだ……!私も……リッちゃんを守るために頑張りたい……!)


 部活動の試合でも、勉強がうまくいかなかった時でも、律子がそばにいて力を分けてもらい助けてくれた。こんな所で挫けてはいられない。発せられた熱は全体に行き渡り、再び動くための活力になる。


 ルーミャが身体を持ち上げようとした瞬間、マガイモノの攻撃が地面にめり込んでいた。


「る、るみゃ……!」


「あらぁ、力加減間違っちゃったかしら?そこの人間、ひっぱり出して見せてあげるから待ってなさ……」


 深々と刺さった板を抜き出そうとした時だった。


「うにゃぁぁぁっ!!」


「なっ!?」


 攻撃を避け、空中高く跳んだルーミャは一回転した後、マガイモノに踵落としを見舞う。脚力と重力が重なった一撃はさしもの巨体もふらつかせるほどだ。


「るみゃ……!」


「ありがとうにゃ、リッちゃん。いつも助けてくれて」


「……っ!うぅん、私もるみゃに助けてもらったんだからいいんだよ」


 向かい合う二人は自身の気持ちを伝え合う。それだけでルーミャは気力を回復させていた。


「ハァァ……。とことんイラつかせてくれるわねぇ……!」


「るみゃ、アイツの弱点ひとつ思いついたんだけど……」


「みゃ!?」


「昔遊んでた時……―――」


「っ!!リッちゃんありがとうにゃ!!あとは任せてにゃん!」


「うんっ!あ、あとさ……」


「?」


「いまのるみゃ、最高にカッコいいよ!!」


「……ありがとうにゃっ!!」


 去り際の言葉に頬がほんのり赤くなりながらルーミャはマガイモノへと駆けていく。


「マガイモノ起きなさい!この子達まとめて吹っ飛ばすのよッ!!」


「みゃあぁぁぁっ、リッちゃんにぃ……指一本触れさせないにゃぁぁんっ!」


「なにっ!?マガイモノを投げ飛ばすなんて!!」


 ようやく起き上がったマガイモノが鎖を伸ばし、律子をルーミャ諸共薙ぎ払おうと振るう。それをルーミャが両手で掴みハンマー投げの要領で投げる。


「私を捕まえられるかにゃん♪」


 手脚を使い高速で走るルーミャを捉えようと座板を何度も投げるがどれも当たらない。


「にゃにゃにゃにゃ〜〜!!」


 マガイモノに飛び乗ったルーミャはてっぺんへと駆け上がっていく。鎖はそれを追うように身体に這わせて伸ばす。


「っ!」


「煙となんとかは上に行きたがるとはこの事ねぇ。マガイモノッ!狙い打ちなさい!!」


 どこまでも逃げられるはずもない。マガイモノの身体の端に着いたルーミャは脚を止めざるを得ない。


「……なーんてにゃ♪」


 しかし、その顔は追い詰められているとは思えない笑顔だ。招き猫のようなポーズでルーミャはおどけて見せた。


「この後に及んで何を……なっ!?なんで鎖が伸びないのよ!!」


 少女は異変に気づきマガイモノの姿を確かめる。ルーミャを追って伸ばした鎖はいつのまにかマガイモノの身体に這う形で絡まっていた。懸命に伸ばすが、ルーミャには届かない。


「ごめん、少しだけ痛くするにゃ!!」


「あんなに高く跳んで何を!?」


 巨大なブランコマガイモノを足場にさらに高く飛ぶ。


「ハァァァッ!千脚万雷にゃあぁぁぁっ!!」


 宙に舞いながら自身の紅運を高め、筋肉に行き渡り強化される。その作用はルーミャの連続蹴りの速度を高めていく。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃあぁぁぁっ!!」


 猫足ブーツによる踏み付けがマガイモノを地面に押し付けて、支柱の脚を埋める。マガイモノはもはや動きを封じられ、意識も朦朧とさせて目を回していた。


「凶気を祓うにゃ、媛念転呪!」


 動きが止まったマガイモノに向けて両手から紅い光を放つ。光を受けたマガイモノが纏っていた狂気は消え去り、元のブランコに戻っていた。


「ちっ、なんなのよあなた!ここは退くしかないわね……っ」


「ま、待ってにゃ!あなたは何者なのにゃ?」


「言ったでしょ。私は不幸を生み出し凶気を刈り取る者だって」


「なんでそんなひどい事するにゃん!?」


「凶気は私達の糧よ。それを確保するのにひどいはないんじゃない?」


「そ、それは……」


「せいぜい無駄に抗いなさい、私達マガイストにね。それじゃあご機嫌よう、ルーミャルビー」


「まっ、待って……話はまだ……っ」


 黒いセーラー服の少女は恨めしげな目つきで闇の渦へと入って消える。


(……分からないよ……自分が生きるために誰かを不幸にして良いなんて……)


 彼女の言うとおり生存に必要であるなら、そうせざるを得ない。それでも瑠美は肯定しかねていた。少女の言葉を頭の中で反芻させながら、ルーミャは律子の元へと向かっていった。


 

「るみゃ、あの子は!?」


「消えちゃったにゃん……」


「えーっ!?るみゃにひどい事したんだからやり返したかったのになぁ」


 拳を手のひらにぶつける律子だがその脚は震えていた。


「うぅん、その気持ちだけで嬉しいにゃ!」


「てかさ、るみゃ」


「みゃ?」


「なんなのよその格好!?というか大きさ!?いいや語尾もだけど!!」


 疑問を抱えるには限界を超えた律子は矢継ぎ早に質問をぶつける。


「分からないにゃ……。あの石の中でリッちゃんの声が聞こえたらこうなってたから……。そ、その……変、かにゃ?」


「いいや可愛い!!元から可愛いのにさらに可愛くなった!!」


「ふ、ふにゃっ!?面と向かって言われると恥ずかしいにゃ……」


 ルーミャの顔はコスチュームに負けないくらい赤く熱を帯びる。律子が裏表のない性格だと知っているからこそ、嬉しくもあり恥ずかしさもあった。


「うりうりぃ可愛いやつめ〜」


「うにゃにゃ!つつくのやめるにゃ!……あ、あれ……?」 


 戯れあっている最中にルーミャの身体が紅く光り、瑠美へと戻っていた。


「元に……戻ったね」


「う、うん」


「さっきの姿ってすぐなれるのかな?」


「……リッちゃん?でも、またあんな風に闘わなきゃ……ううん、みんなの幸せを守らなきゃいけないんだと思う」


「そっかぁ……。その時はさ、私にも手伝わせてよ」


「えっ!?さっきの戦い見たでしょ?危ないんだよ?」


「るみゃだけにそんな大事背負わせられないよ!!」


「リッちゃん……」


 律子の眼は真っ直ぐで一点の曇りもない。た。このひたむきさが律子の一番の魅力なのだと瑠美はまた思い知らされ


「大丈夫、危なくなったらすぐに逃げるから。あとはるみゃを信じて待つ。それなら良いでしょ?」


「……うん……分かった……。でも、本当に無茶しないでよっ!?」


「だーいじょうぶだって!」


「本当かなぁ……」


「それじゃ、これから二人でがんばろ!」


「これから、じゃないでしょ?これからも、だよ」


「おっと!そうだったね。……ふふっ」


「ふふふ。じゃ、約束通りブランコ乗ろ?」


「よぉし、目いっぱい漕いじゃうよ!!」


「えぇ……ゆっくり乗ろうよぉ……」


 陽が落ちた公園に少女達の明るい笑い声がこぼれる。このささやかな幸せはこれからは当たり前ではないのだと、瑠美は一人心に刻むのだった。





「……願黒ネクロよ。凶気を回収出来なかったと、そういう事だな?」


「は、はい……!」


 二人の言葉が洞穴の中で響く。内部の全容は闇に紛れ、どこまで広がっているかは定かではない。


「る、ルーミャルビーと名乗る少女が現れましてそれで……」


「なぜそのような者が現れたのだ?」


「それ、は……」


 返せる理由があるはずがなかった。まさかただの少女が凶気に染まりきらず、それどころか跳ね退けてしまうとは思いもしなかったとはいえだ。


「……奴は紅玉の力を使ったと、そうだったな?」


「はい……」


「今さら忌まわしき名を聞く事になるとは……まったく苛立たしい、むぅ!」


「っ!は、はい……そうですね……」


 ここまで感情をむき出しにする主を見た事はない。玉座の腕置きを殴る音に驚き願黒は肩を震わせる。


「願黒よ、わかっているな?」


「は……っ。え、と……」


 主の言葉の意図を掴みかね、どうしたものかと口ごもってしまう。


「次はしくじるなよ。凶気は我々の活力源、それが手に入らなければ飢えて死ぬだけだ」


「畏まり、ました……」


「もうよいさがれ」


「はい……」


 赦しを受けた願黒はこの場から早く立ち去りたいとばかりに謁見の間をあとにした。


(許さないわあの娘達……!邪魔がなければあの方からお叱りを受ける事もなかったのに……!)


「紅玉勇姫、ルーミャルビー……!」


 通路になっている洞穴を歩く道中、願黒の眼が鈍く紅く光るのだった。

 まずは読んで頂きありがとうございました。この話を書き終え、すごく疲れました。故あってしばらく外に出す用の話を書いていなかった事もあり、話の流れや文章の体裁を整えるという作業に頭の体力をかなり使って書いてました。でも、友人にこれの草稿を読んでもらい、面白いと言ってもらえてそれがただただ励みになり、ここまでに至る事が出来ました。


 どこまで話が続くか、更新頻度がどうなるかは分かりませんが楽しく書ける時に進めて、読んでくださる方にも楽しんでもらえるようになれば良いかなと考えています。また、ここでは書けないバッドエンドも別のプラットフォームで上げる予定ですので、縁がありましたらよろしくお願いします。


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