第70話 怪しい動き
◆◆◆
「たでーまずどーん!!」
「うぇい!?」
みんながいない間、部屋でのんびりしていると、萬木がミサイルの如く突入してきた。マジで心臓に悪いからやめてください。
後から九条、奏多と続き、杠も戻ってきた。
微妙に気まずい。でも萬木はそうは思っていないのか、俺に笑顔で手を振って来た。振ったのは俺だけど……いつも通り接してくれるのは、ありがたい。
突入してきた萬木は布団にダイブすると、堂々と真ん中を陣取った。
「ウチ真ん中ー! これでゴロゴロし放題!」
「こら、純恋。みんなで寝るんだから、埃を立てないの」
「ゔえ」
ゴロゴロ動き回る萬木の上に、九条が馬乗りになる。奏多の時も思ったけど、その格好極めてエッチだからやめてくれ。目のやり場に困る。
「それじゃ、寝る場所考えようか。氷室くん、先に選んでいいよ」
「え、いいのか?」
「男の子だからね。美少女に囲まれたい願望があるなら真ん中でいいし」
「…………端っこでお願いします」
「ふふ。今、揺らいだね」
くそ、楽しそうに笑いやがって。ああそうだよ、揺らいだよ。こちとら男の子ですよ。想像したっていいでしょうが。
気まずさもあり目を逸らすと、奏多がはいっと手を挙げた。
「じゃあ、必然的にぼくが京水の隣でいい?」
「エッチなことすんなよ、カナたん」
「しないわい」
「あぼっ!?」
九条に続き、奏多までも萬木の上に座り、押し潰す。でも楽しそうですね、萬木さんや。
「小紅はどうする?」
「アタシは……」
指をもじもじさせ、気まずそうに布団を見ては目を逸らす。
それに気付いた奏多が、指をピンっと立てた。
「小紅ちゃんは真ん中でしょ。ちょっと前に、今まで友達がいなかったって言ってたしさ。こういう時は友達に囲まれて楽しんだ方がいいじゃん?」
「おー。カナたん、ナイスアイデア。あと重いからいい加減退いて」
「なんだとー?」
「ほぎゃ!」
余計なことを言ったせいで、奏多が余計に体重を掛ける。今のは萬木が悪い。
「じゃあ私は、小紅の隣にしようかな。純恋は強制的に端っこで」
「えー。端っこ淋しい」
「じゃあ私と一緒の布団で寝る?」
「いいのっ? 寝るー!」
「え」
九条の顔が固まる。悪ふざけて言ったのに肯定されて困惑する、いたずらっ子(奏多)みたいな顔だ。
だけどこうして、みんなが寝る場所が決まった。……本当に俺がみんなと雑魚寝していいのかは、今だ疑問ではあるけど。
なんだかんだ、夜ももう23時。寝るには早いけど、海の疲れもあって眠気とだるさがマックスだ。
みんなも同じらしく、はしゃぐ元気もなさそう。寝る場所が決まったからか、もう意識が朧気だった。
俺が入り口側の端に寄ると、奏多・杠・九条&萬木が布団に潜り込む。
「ひゃー、麗奈あったけ~」
「ちょ、一緒の布団でとは言ったけど、抱き着いてこないで……!」
……布団の中は見えないけど、楽しそうなことしてますね。あれかな。もろ見えより見えない方がいいとかそういうやつですか。今ならわかるよ。キャッキャウフフしてる声だけで想像(妄想)が駆り立てられるよね。
「みんな布団入ったか? 電気消すぞ。おやすみ」
「「「「あーい、おやすみなさーい」」」」
布団からひょっこり顔を出したみんなが返事をする。小学生かな?
電気を消すと一瞬真っ暗になるが、すぐ月明りがカーテン越しに入って来て薄っすらと部屋の中を照らした。
俺も布団に潜り込む。完全に寝るモードに入ったからか、さっきまでの良心の呵責が無かったかのように眠気が押し寄せて来た。
はぁ……楽しかったな、海。こんなにはしゃいだのは、いつぶりだっけ。
まさか俺の人生で、美少女に囲まれて宿で寝ることになるとは思わなかった。……1人は彼女で、1人はさっき振った相手で、2人は女友達だけど。どうしてこうなった。
奏多はもう寝落ち寸前なのか、こっちにはちょっかいを掛けてこない。
ありがたい。さすがにこの眠気の中、奏多に引っ付かれると理性を保てる気がしないからな。
目を閉じ、眠気に体を預ける。
その一瞬で、俺の意識は暗い闇に沈んでいった。
そのせいで、隣の2人が怪しい動きをしていることに、気付かなかった。
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