第67話 誤解が誤解を産む
返そうとしたが、結局そのまま押し付けられてしまった。いやこれどうしろと……。
とりあえず、かばんにしまっておこう。こんなもの使う展開になってたまるか。
誰もいない部屋で、浴衣姿のまま畳に寝転がる。みんなが出てきたり、飯の準備までまだまだ時間が掛かるだろうからな。
「はぁ~……ようやく休める」
思えば、こうして1人の時間を設けたのっていつぶりだろうか。
基本的に奏多と一緒にいるし……というか、家にいるとどこに行こうにも奏多が着いてくる。それはそれで可愛いし嬉しいからいいけど、正直気を抜くことができなかった。
嫌というわけじゃないけど、近しい中でもプライベートはあった方がいいな、間違いなく。
まだ体が波に揺られている感じがする。妙な感覚だけど、ゆりかごに揺られているみたいで……なんだか眠気が。
まずい。みんなが戻ってくる前に寝ちゃいそう。これから飯なのに。
けど起き上がる元気も、眠気に抗う気力もない。
まあ、戻ってきた誰かが起こしてくれるだろう。少しだけ……眠らせてもらおうか、な……。
◆奏多side◆
やばいやばい。久々の温泉で、結構長い間入っちゃった。京水、待ちくたびれてないかな。
急いで髪を乾かし、浴衣を着こむ。
浴衣って胸が小さい方が映えるし、ぼくみたいなおっぱいじゃ微妙なんだよね……この民宿じゃ浴衣しか置いてないし、こればかりはしょうがないか。
「ふむ。麗奈さんや、巨乳浴衣ギャルと爆乳浴衣清楚ってどう思います?」
「とってもエッチだと思います、純恋さんや」
何をばかなこと言ってんのさ。ていうかそんな目で見ないで、エッチ。ぼくのことをエッチな目で見ていいのは、京水だけなんだから。
小紅ちゃんも同じことを思ったのか、羽織を着て自分の体型を隠し、2人をジト目で睨んだ。
「あはは、めんごめんご。じゃ、部屋戻ろうか。お腹も空いたし」
言われてみれば、お腹が空いている。昼間にあんなに食べたのに、ぼくのお腹はぺこちゃんだった。
京水も待たせちゃってるから、早く迎えに行ってあげないと。
ぼくたちにあてがわれた部屋に戻り、襖を開いて中を覗くと……京水が、畳の上で大の字になっていた。
「京水……?」
「すぅ……すぅ……」
あ、寝てるだけか。よかった、倒れてるわけじゃなくて。
静かに部屋に入り、京水の寝顔を見る。
かわいい……本当、赤ちゃんみたいに無防備な寝顔だ。いつも見てるけど、どれだけ見ても京水は可愛い。
小紅ちゃんも同じことを思っているのか、手で口を押えて目をキラキラさせている。そっか、小紅ちゃんは京水の寝顔、知らないんだもんね。ちょっと優越感。
「おーい。キョウたん、起きろ~」
純恋さんが京水のほっぺをつついた。それでも京水は起きない。
「ダメだこりゃ。どうする? 先にご飯食べちゃう?」
「だね。氷室くんの分は、後で部屋に運んでもらおうか」
確かに、これだけぐっすりだと起こすのも可哀想かも。
けど、このままにするのも気が引けるし……。
「ぼく、京水にお布団被せてから行くから、先に行っててよ」
「わかった。終わったら下に来て。お姉ちゃんが案内してくれるから」
「あーい」
3人を送り出し、部屋の戸を閉める。
さて、このままじゃ京水が風邪引いちゃうし、ちゃちゃっと布団を被せちゃいますか。
まったく。ぼくがいないと本当にダメだなぁ、京水は。
襖を開けて掛け布団を取り出し、京水に被せようとして──こけっ。
「へぶっ!?」
「ぶべらっ!?」
何かに足を取られ、思い切りコケた。しかも京水の上に。しかもコケた拍子に布団がぼくらの上にかかって、図らずも添い寝っぽくなっちゃった。
わざとじゃないんだよ。足に何かがあったのが悪い。
「な、何? なんだ? ……あ、奏多」
「いったた……ご、ごめんね、京水。気持ちよさそうに寝てたのに起こしちゃって……」
「いや、大丈夫だ。むしろ起こしてくれて助かった。腹減ってるし」
優しい。好き。大好き。……ぼく、もしかしてちょろすぎ?
って、さっき何を蹴っちゃったんだろう。
上体を起こして、足元にあった何かを見る。
あ、これ……京水のかばん? やば、蹴った勢いで中身が出て……ん? あっ……!?
「きょっ、きょきょきょきょ京水、これ……!」
「え? ……ッ! ち、ちがっ! これは俺のじゃなくて、萬木のお姉さんに押し付けられて……!」
「押し付けられた!? まさかお姉さんとエッチするために!?」
「違うって!」
もちろんわかってる。男女が同じ部屋で寝るんだ。何か間違いがあった時のための、予防だろう。
まあ、そんなこと起こるはずないけど。というかぼく以外となんて許さない。
でも、京水の反応が可愛くて面白いから、もうちょっとからかって──ガラガラ。
「氷室くん、火咲さん、大丈夫? 何かすごい音が……あら♡」
「「あ」」
突然入ってきた純恋さんのお姉さん。
部屋の中には、はだけた浴衣姿で京水の上に跨っているぼく。近くにはゴムが散乱していて、明らかにそれをしている最中で……。
「あらやだ私ったら。みんなには上手く誤魔化しておくね♡」
「「誤解です!!」」
結局、誤解を解くのにかなりの時間を使っちゃった。……いや、多分まだ誤解してる。
うぅ、恥ずかしすぎるって……!
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




