第61話 恋する乙女のアピール合戦
みんなの所に向かうと、いち早く俺に気付いた奏多がこっちに近付いてきた。
「京水、大丈夫? ちゃんと休めた?」
「ああ。心配かけて悪かったな」
「ぼくたちこそ、はしゃぎすぎちゃって……ごめんね」
あらまあ。あの奏多がしおらしいことで。ちょっと落ち込んでるし。
安心させるように奏多の頭を撫でて微笑む。俺の機嫌がいいことを察したのか、安堵の息を吐いて満面の笑みを見せた。そうそう、奏多は笑顔がよく似合うぞ。
「キョウちゃん。せっかくみんなで遊んでるんだから、彼女とばっかりイチャイチャしないの」
と、杠がムッとした顔で近付いてきた。
「イチャイチャなんてしてないです~。これがぼくたちのいつもの距離感です~」
ばっちばちに睨み合う二人。さっきまで仲良く遊んでたはずなのに、なんでいきなり喧嘩すんだよ。やっぱり仲悪いの、お前ら?
睨み合う二人の間に挟まって棒立ちになっていると、萬木がニヤニヤしながら近づいて来た。
「さっすがキョウたん。モテモテだね」
「二人の仲の悪さに巻き込まれてるだけなんだが」
「やれやれ……原因が君ってことを理解した方がいいよ」
「え」
俺? 原因、俺なの? なんで?
萬木の言葉に困惑する。俺、奏多、杠にどんな共通点が……?
その時。九条が手を叩いて近付き、奏多と杠の肩に手を置いた。
「ほらほら。そんなことしてると、時間なんてあっという間に過ぎちゃううよ。砂のお城もあともうひと踏ん張りだし、ちゃちゃっと作っちゃおうか」
「「はーい」」
鶴の一声ならぬ、九条の一声。さっきまで睨み合っていたのに、もう和気あいあいと言った雰囲気で砂の城作成に戻っていった。
女心、わからぬ……。
その後、少し時間を掛けて砂の城を完成させた俺たちは、再び海水浴を楽しんでいた。
と言っても、泳ぐんじゃなくて、浮き輪に掴まってぷかぷか浮いてるだけ。忙しい日常を忘れて、こうしてゆらゆらするのも乙なもんだ。
「おーい。キョウちゃーん」
「ん?」
今、杠に呼ばれたような?
振り返ると、浜辺から杠がこっちに向けて手を振っていた。どうしたんだろうか。
海から上がり、杠に近付く。よく見ると、手にはボトルのようなものが握られていた。
「どうした、杠?」
「う、うん。あの……ひ、日焼け止め塗ってほしいな、って思って……」
はぁ、日焼け止めを……え、俺に?
流れるように、杠の体に目が吸い寄せられる。
きめ細やかな肌と、出る所は出て、引き締まるところは引き締まっている肉体。余分な肉は付いておらず、男なら据え膳ものの艶めかさを感じる。
いくら世界一可愛い彼女がいようと、こんな体を間近で見せられて、意識するなという方が無理だ。
喉に絡まる唾液を飲み込む。異様に喉が渇いて、体がカッと熱くなった。
「い、いやいやいや、それはダメだろっ。いくらなんでも、彼氏でもない奴に肌を触らせるような真似は……!」
「誰でもいい訳じゃないし。……キョウちゃんだから、いいの」
俺でもダメだから!?
それでも断るが、ボトルを無理やり押し付けてシートまで引っ張られた。ちょ、杠ってこんな強引な奴だっけ……!?
「ほっ、他のみんなはどこ行ったんだよ。誰かに頼めば……!」
「みみみ、みんなはご飯、買いに行って……今は、2人きり、だから……」
背中の紐を解き、胸を腕で隠して背中を向ける。
シミやニキビがひとつもない。芸能人の肌以上に綺麗すぎる肌を見せつけきた。
「だから、その……日焼け止めを頼みたいな、って……いいかな……?」
「Of course!! ぼくたちに任せなよ♪」
「ウチらが手取り足取り隅々まで塗りたくってあ・げ・る♡」
「えっ。ちょっ、キャーッ!?」
いつの間に戻ってきていた奏多と萬木が、俺から日焼け止めを奪って杠に襲いかかった。
ホッとした反面、ちょっと残念。
美少女3人が、日焼け止めを塗りあってくんずほぐれつ絡み合っている。男の俺としては気が気じゃない。
目を逸らしていると、後から戻ってきた九条が、両手いっぱいのビニール袋をシートに置き、楽しそうに笑った。
「ふふ。何やら面白いことになってるね」
「俺は面白くないんだが。俺なんかをからかって、何が面白いのやら」
「子猫ちゃんがせいいっぱいアピールしてるんだ。可愛いじゃないか」
なんで俺にアピールするんだよ。杠はミヤのことが好きなのに。
気疲れしていると、九条が俺の前に焼きそばを差し出した。
「ほら。大盛り焼きそば。たくさん食べて、たくさん私たちの相手をしてよ」
「保護者か、俺は」
「違うの?」
「……違わない」
少なくとも奏多と杠と萬木は、目を離すとすぐどっか行きそうだ。特に萬木。
焼きそばを受け取り、遠い水平線を見ながら頬張る。
あぁ〜、焼きそばうめぇ(現実逃避)
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