第43話 言い争い
「ぐすっ……ずびっ」
「ほら、ハンカチ。ティッシュじゃなくて悪いけど」
「あでぃがど。ちーんっ」
よ、ようやく落ち着いてくれた……本当にあのまま死んじゃうところだった。
乳に溺れて死ぬとか、創作じゃあるまいし……まあ、天国ではあったけど。あんなに柔らかい物がこの世に存在してるなんて、今でも信じられない。
2人並んで、今は狭くなった秘密基地跡地に座り込む。奏多と肩を合わせてもギリギリなくらい狭い。
なんて言えばいいかわからず、とりあえず無言を貫く。
……とりあえず、謝らなきゃな。
「えっと……奏多、さっきは──」
「さっきはごめんなさい」
謝罪しようとすると、先に奏多に謝られた。
目を腫らして俺の服を掴み、離そうとしない。迷子の子供みたいだ。
「さ、さっき……ぼく、京水のこと考えないで、酷いこと……ほ、本当に、ごめんなさい……!」
「ま、待て待て。なんで奏多が謝る。あれは俺が全面的に悪くて……!」
「違うっ、ぼくのせい!」
「俺のせいだ!」
「ぼく!」
「俺!」
ぜぇ、はぁ、ぜぇっ……! なんて強情な奴だッ、こいつ! 昔からなんも変わらん!
「俺はなッ、こんなに奏多のことが好きなのに、最後まで信じられなかったんだぞ! 俺の方が悪い!」
「ぼくだって、京水のことが大大だーーーーい好きなのに、君の気持ちも考えなかったんだ! ぼくの方が悪いもんね!」
まだ言うか!
「これはな、俺の醜い感情のせいなんだよ! 奏多にだって男友達くらいいるのに、それが嫌だっていう嫉妬のせいなんだ! 好きすぎて嫌なんだよ!」
「違うね! 君の愛をいっっっっぱい知ってるのに、それに甘えて君が傷つくことを言った! ぼくはぼくを許せない!」
フーッ、フーッ……! な、なんてしつこさだ。いくらなんでも頑固すぎる。
互いに息を荒らげて睨み合う。
が……直ぐ肩の力が抜け、気持ちが少し落ち着いてきた。
奏多も同じみたいで、俺の服を掴んできた。
「やなんだよ……ぼくの謝罪を受け取ってよっ。嫌われたくないんだよ、君だけには……!」
服を握る力が強くなり、目に涙を溜める。
さっきのように、感情に任せた涙じゃない。俺を失うかもしれないという恐怖と、傷つけてしまったという悲しさが見え隠れする。
嫌われたくない? そんなの、俺だって同じだ。
でも……今奏多に必要なのは、それじゃない。
奏多の肩に手を回し、思い切り抱き締める。絶対に離さない。話してやるもんかという気持ちで。
「馬鹿……嫌うわけないだろ。俺が、お前を」
「だ、だって……あんなに怒ってて……」
「だからあれは、俺の嫉妬のせいなんだ。……ごめんな、不安にさせちゃって」
「ぅぅん……ぼくこそ……傷付けちゃって、ごめんなさい……」
強く抱き締め合い、互いの謝罪を受け入れる。
さっきまであんなに自分の方が悪いって言い合ってたのに、冷静になると、すぐ謝罪を受け入れられた。単純というか、なんというか。だから、奏多とはウマが合うんだろうな。
どれくらいこうしてるのかわからないくらい、抱き合う。
奏多の温もりが嬉しくて、愛おしくて、可愛くて……落ち着いてくると同時に、別の欲望が表に出てきた。
ものすごく──エッチなことがしたい。
いやいやいやいや。ダメだろそれは。何考えてんだ、俺。
さっきまであんなに言い合ってた相手と仲直りしたら、安心よりまずムラムラするとか、最低すぎる。
でもこんな恵体の女の子と抱き合ってたら、そりゃムラムラしますよ。しかもそれが最愛の相手だと。
腰をくの字にして、欲望を悟らせまいと必至になる。
が……奏多が俺の襟首を掴むと、潤んだ瞳で見上げてきた。
「どうしよう、京水……安心したら……すごく、体が熱い」
「まっ、待て待て待て。奏多、それは……!」
熱のこもった吐息を繰り返し、真っ赤な顔で縋ってくる。
こっ、これは……いいのか? そういうことで、いいのか……!?
喉に絡まる唾液を飲み込み、手の平にじんわりとした汗を感じる。
「はぁ……はぁ……きょーすい……」
「奏多……」
抱き締める強さを上げ、奏多の頬に手を当てる。
熱い……ん? 熱すぎるような……いやあっつ!?
「か、奏多っ。お前熱あるぞ!?」
「ほぇ……? ねちゅ……?」
慌ててひたいに手を当てる。熱い、かなりの熱だ……!
奏多をお姫様抱っこで抱き上げると、急いで奏多の家に向かっていく。
ムラムラとか言ってられないッ。今は奏多の体調が第一だ……!
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