第41話 悶々とする想い
「だーめだー! わからーーーーん!!」
遂に奏多がぶっ倒れた。というか机に突っ伏した。
今日と明日は休日。朝から勉強漬けというだけでやる気が削がれているのに加えて、連日の勉強で嫌になってしまってるらしい。
まあ、気持ちはわかる。俺だって逆の立場だったら、頭がおかしくなると思うし。
けどこれは、奏多のためだ。夏休みに思う存分遊ぶため、今頑張るんだ。
「頑張れ、奏多。もう半分くらいは取れるようになってるじゃないか。それに、あと1週間でテストだ。これを乗り切れば、理想的な夏休みが待ってるぞ」
「うぅ……いっしゅうかん……ながい……あまりにも、ながいよぅ……」
あらら、縮こまってしまった。しょうがない子だなぁ。
仕方なく頭を撫でていると、何かを期待するような顔で見あげてきた。
因みに、これくらいのスキンシップではもう恥ずかしくないらしい。ハグのショック療法が効いたっぽい。
「京水〜、もう少し手加減してにゃん♡」
「無理にゃん」
「にゃぁ〜ん……」
そんな悲痛な鳴き声を上げても、ダメなものはダメです。
「うぅ……京水、厳しい……向こうの友達はもっと甘かった……」
──もや
あれ、まただ。俺の知らない奏多の話しをされると、心の奥底にもやもやしたものが出てくる。
というか……アメリカの友達と比べられてるみたいで、嫌だ。悶々とする。
ビデオ通話の時もそうだったし……俺、こんなに心狭い男だっけ。
「甘いだけが友情じゃないだろ。時に厳しいのも友情だ」
「ぼくは褒められて伸びるんだよぅ。今までの友達はもっと褒めてくれたもん」
──もやもや
あーくそっ。ダメだって、この気持ちは。仕方ないだろ、俺の知らない奏多がいるのは。こいつだって悪気があって較べてるわけじゃないんだし。
「はいはい。どうせ俺は厳しいだけの男ですよ。明日は休みにするから、それまで頑張ろうな」
「ぶぅ〜……京水がもっと甘かったらなぁ。向こうだとみんな──」
──イラッ
「そんなに向こうがいいなら!! ……ぁ」
……やば、ダメだ。これ以上は、ダメだ。
「きょ……京水……?」
「……奏多がアメリカでどんな交友関係があって、どんな生活を送ってるのか知らねーけどさ……じゃあなんで……!」
──なんで、帰ってきたんだ──
これは言えない。言っちゃいけない。
これ以上一緒にいたらダメだ。絶対、奏多を傷つける。それだけはダメだ。
「……わり。今日は帰るな」
「ぁ……」
荷物をまとめて、足早にリビングを出る。
呆然としていた奏多が慌てて飛び出してくると、俺の腕を掴んだ。
「きょ、京水っ、どうしたの急に……!」
「いや……奏多は何もしてないよ。俺の心が狭すぎるのが悪いんだ。……ごめんな。ちょっと冷静になる時間をくれ」
「京水!」
静止する声を振りほどき、奏多の家から出ると走り出した。
あぁ……最低だ、俺。
◆奏多side◆
……え……えっ、え……? か、帰っちゃった……な、なんで……?
ぼく、京水を怒らせちゃった……? べ、勉強しなさすぎて怒らせちゃったのかな……?
玄関で呆然とする。どうすればいいのかわからない。心臓が嫌な感じで高鳴ってうるさい。
どれくらい呆然としてたのかわからないけど、慌てて外に出るが、もう京水の姿はどこにもない。
やばい。何がやばいって、京水を怒らせちゃったのもそうだけど、どんな理由で怒らせちゃったのかわからないのがやばい。
このままじゃダメな気がする。これを放置してたら、将来的に絶対まずい。
慌ててリビングに戻ってスマホを手に取る。
京水に電話を掛けてみるが、出ない。何度コールしても、出ない。
まずいまずいまずい。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうすればいいかわからず、なぜか純恋さんに電話をすると、ワンコールもしない内に出た。
『カナち、もしもし! よかったぁ、電話掛けてきてくれてっ。麗奈が休日でも離してくれなくてさぁ!』
『人聞きの悪いこと言うんじゃない。勉強してただけでしょ。おはよ、奏多。氷室くんも一緒でしょ。おはよう、氷室くん』
あ……そっか。2人も休日なのに勉強してるんだ。
「ご、ごめん。勉強してるのに……」
『ううん、そんなことないよっ。……カナち、元気ない? どした?』
「それが……」
ついさっきまで京水と勉強していたけど、ぼくが駄々を捏ねたから怒らせてしまったことを説明した。
2人は黙って聞いてたけど、麗奈さんが『うーん』と唸った。
『本当に駄々を捏ねただけだったら、あの氷室くんが怒るとは思えないけどなぁ。他に心当たりはない?』
えぇ、なんだろう。無意識で喋ってたからな……あ。
「確か、アメリカの友達はもっと甘やかしてくれたとか言ったような……」
『『それだ』』
「え!?」
何がそれなんだろう。まったくわからない。
でも、2人の顔は見えないのに、頭を抱えてるのはわかる。
『奏多、それ何回か言ったろ。さすがに1回じゃ、もやっとするだけで怒らないとは思うし』
「……多分……?」
本当に無意識だったから、正確な数はわからないけど……何回かは言ったと思う。
『カナち、逆の立場になって考えてね。もしキョウたんが、カナちより中学の時の友達の方が優しいとか、甘やかしてくれたって言ったら、どう思う?』
──もや
「……なんか……嫌かも。……あ」
ここまで言って、ようやく気付いた。
ばかだ、ぼく。ばか過ぎる。呆れてものも言えない。
『カナちのことだから、アメリカにも友達はたくさんいたでしょ。男女問わず』
「う、うん。いた」
『もう1度考えてね。キョウたんの中学の女友達が、キョウたんに優しくしたり甘やかしたりしてたら……どう思う?』
──イラッ
「ごっ、ごめん2人とも、ありがとう! またね!」
あーもうっ! もう人のこと鈍感なんて言えないよ、ぼく!
急いで上着を着て、京水を追って走り出す。
家? 気分転換に駅?
いや違う。京水のいる場所なんて、あそこしかない……!
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