第35話 テーブルの下の攻防
やる気になった奏多と、勉強したくない勢少数派になった萬木を座らせ、まずは各自の苦手な部分を話し合う。
「俺は理数系が苦手だ。勉強すれば赤点は回避できるレベルだけど」
「私は特に苦手なものはないよ。一応、純恋を高校に入学させたという信頼と実績があります」
萬木にとっては不名誉すぎる信頼と実績だな。こう言っちゃなんだけど、見た目通りと言うかなんと言うか。
残る2人に視線をやると、サッと視線を逸らされた。
「奏多、萬木。2人は何が苦手なんだ?」
「えーーーーっちょ……そにょぉ〜……」
「ひゅー、ひゅ〜……」
脂汗を垂らし、指をもじもじさせる2人。
九条と共に無言で見ていると、観念したように口を開いた。
「ぼ、ぼくは英語以外壊滅的といいましゅか……」
「ウチ、体育は得意です、はい……」
「マジか」
2人とも、ちゃんと入学試験と編入試験受けたんだよな。どうしてそうなるんだ。
「こりゃ、骨が折れるな……」
「だね。私はいつも通り、純恋をしごくからいいとして」
冷たい笑みを浮かべる九条。どんだけ厳しくするつもりだ。見ろ、萬木が奏多のおっぱいに隠れちゃっただろ。
「けど、さすがの私でも2人同時は面倒見れないよ」
「……はぁ。奏多は俺がなんとかするよ。できるだけやってみる」
「おお、頼もしい。やっぱり性欲の原動力は凄まじいね」
「喧しい」
まあ、そういう考えもゼロじゃない。俺だって思春期真っ盛りの男の子だ。しかも彼女できたて。邪な考えがあってもいいじゃないか。むしろ、逆に健全と言っていい。
「うちの学校の期末試験は、6月末から7月頭の1週間。まだ試験当日までは、2週間もある。それまでに、まずは基礎から叩き込む」
「はい、京水先生!」
「なんだね、奏多くん」
「先生もぶぁかなのにぼくに教えられ──」
ゴスッ!!
「もぎゅっ!?」
「あ、すまん。ついイラッと来ちゃって」
「だからってグーはないだろ、グーは!」
涙目の奏多の頭を撫でると、最初は唸り声で威嚇してきたのに、少しずつ顔がとろんとなった。
今の時代に暴力はまずい。反省。
「はいはい。氷室くん、奏多。イチャイチャしてないで、勉強するよ。時間はないんだから」
「い、イチャイチャしてないもんっ……!」
「そうだぞ。俺たちが本気出したらこんなもんじゃすまない」
「京水!?」
何顔を赤くしてるんだ、奏多。言っておくけど、お前の方が距離感バグってるんだからな? あれに較べたら、今なんてイチャイチャのイの字もないだろ。
「どうしよう。ウチ、お腹いっぱいなんだけど」
「私も」
ジト目の2人の圧に負け、咳払いをしてダイニングテーブルに座る。俺と奏多が隣。対面に九条と萬木が並んで座った。
萬木は、九条が怖いからか真面目に勉強している。
対して奏多は……。
「うぐぅ……ニホンゴ、ムズカシイ……」
「あ、そうか。日本語で書いてあるから、理解するのに時間が掛かるのか」
「Yes...Japanese,doesn't make any sense(うん……日本語、意味不明)」
「I feel you」
思わず苦笑いを浮かべた。日本語って、日本人の俺たちでさえ意味不明な部分があるのに、帰国子女の奏多からしたら更にわからないだろう。
「I don't know anything about "Answer the feelings of the characters"...!(「登場人物の気持ちを答えなさい」とか知らないし……!)」
「I understand your feeling, but...(気持ちはわかるけどさ……)」
文系の俺でも、俺もこの手の問題は苦手だ。奏多に、これを解けというのは酷だろう。
なら長文読解でも、もっと別の問題を……ん?
視線を感じて顔を上げると、九条と萬木がぽかんとした顔をしていた。
「どうした?」
「え、いや……氷室くん、英語喋れたの?」
そういや、こいつらの前で喋ったことなかったっけ。
「奏多がアメリカに行ってから、英会話教室に行ってたんだ。今でもたまに勉強してる」
「へぇ〜(ニヤニヤ)」
「ふ〜ん(ニヤニヤ)」
何ニヤニヤしとるんだ。別に当時から好きだったとか邪推すんなよ。昔は『男友達』だと思ってたんだからな。
消しゴムの角をちぎって、2人に弾き飛ばす。見事にひたいに着弾。恨めしそうな顔をされたが、知らん。
根気よく奏多に説明を続けると、辛うじて理解し、問題を解き進める。地頭は悪くないみたいだ。
文系は本当に苦手みたいだけど、暗記科目や理系はまだ救いがある。こっちはあとでやるとして、やっぱり問題は国語か。
まあ、ここは地道に──さわ……。え?
脚に変な感触があって覗き込むと、奏多が長く、美しい脚を絡ませてきていた。
「ッ?」
あまりの淫靡な動きに、鼓動が急激に早くなる。
さすがにこれじゃあ2人にバレる。奏多を咎めようとすると、シャーペンを自身の唇に付けて、妖艶に笑った。
密かにイチャつきたいという恋人の顔と、バレるかバレないかのスリルを楽しみたいという大親友の顔に、つい押し黙ってしまった。
「ねえ京水。ここはどう考えるの?」
「こっ、ここはだな……」
脚に絡みつく熱に苦闘しつつ、奏多の質問に答える。
この……勉強したくないからって、俺の邪魔するんじゃないって……!
俺も対抗するように、奏多の脚に自分の脚を絡ませる。
ピクッと反応し、頬を朱色に染めた奏多が、負けじと両脚を使ってきた。
おまっ、両脚は卑怯……!
「あー、こほん」
「「!!」」
九条の咳払いに我に返った。あれ、俺、今何を……?
「ねえ純恋。私たち邪魔みたいだから、帰ろうか」
「ウチもそう思ってた」
「ごっ、ごめん、調子乗りましたっ」
「悪かった……」
奏多の補習は俺にかかってるのに、遊びすぎた。反省。
ジト目を向けてくる2人に俺たちは平謝りをし、とにかく勉強に集中するのだった。
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




