九 三人の秘密
僕が神様から貰ったギフトに、母さんと丈さんは確信を持った。
「颯は、本当に残像が見えるのね。」
「そうだな。」
「これから颯はどうなっちゃうのかしら。」
「何も変わらないさ。颯は、颯のままだよ。今までと同じ。お蘭の事が大好きで。穏やかで、甘えん坊の颯だよ。」
「うん。そうだよね。」
確かに僕の中では何も変わってないんだ。
変わったのは母さんと丈さん。僕の物の見方が人と違うって事に気がついたからね。
丈さんは、冷静な人だから僕のこれからを心配してくれた。
「ただ、これからの事は少し慎重になった方が良いかもな。」
「慎重に?」
「ああ。颯の残像が見える、、、その、能力と言うか、、、」
「能力?なんか変人みたいに言わないでよ!颯は颯で、何も変わらないって言ったくせに。」
母さんも冷静な人なんだけど、僕の事になるとなかなかそうはいかないい。すぐにむきになっちゃう母さんなんだ。
僕は嬉しいけどね。
「悪かった、悪かった。ああ〜、ええ〜言い方難しいな。」
丈さん、確かに能力者みたいな言い方は不気味だよ。
「えっと、とりあえず颯の為だから落ち着いて聞いてくれ。」
「わかった。」
でも母さん、唇とんがってるよ。
「残像が見えるって、人によってはとても便利なんだと思う。実際おばさまの事件でも颯の証言があって解決できた。被害者の命も救われたしな。」
「確かに。お母様の証言だけじゃ、今も犯人見つかってないし。けんちゃんだって死んでたわね。」
「お蘭。言い方。」
確かに、母さん直球すぎる。
「今回も、シッターの時も颯が居たから解決できて、良い事に颯の能力、、、じゃなくて、まあなんて言うか、、、力、そう力が働いた。」
「力ね〜。」
まあ、それならいいわよって顔だね。
「でも颯の力は、犯人にとってはとても邪魔なものだよな。それに悪いことに利用したいと思う輩も出てくると思うんだ。」
「悪いこと?」
「たとえば、企業とか。」
「何それ。犯人の事はわかるけど、企業って何よ。」
「お蘭だって、仕事上で、、、例えば、競争入札になったとするだろ、相手の入札額がわかれば仕事に有利になる。相手の入札額知りたいだろ?そんな時、書類を見た人の瞳の残像で入札額がわかったとしたら?な、便利なんじゃないか?」
「丈って、おじ様の会社に入らなくて正解ね。くだらない、そんなんじゃ入札に間に合わないでしょ。」
「たとえばだよ、たとえば。」
丈さん、今日もだいぶおされてるね。
「でも、確かに悪用しようとする人間は出てくるかも。第一、犯人にとっては厄介な力だもんね。あ、ちょっと待って、狙われるって事は颯の命が危ないって事じゃないの!」
「ああ。だから颯の事は、誰にも、お互いの家族や近しい人にも黙っていた方が良いと思うんだ。」
「うん、確かにそうね。人の口に戸は立てられない、、、どこで噂が広がってしまうか。」
「だろ。あとは、颯だ。」
「颯が何?」
丈さんはそう言うと、僕を膝に乗せて
「颯。丈ちゃんのお話聞いてくれるか?」
「はい。」
丈さんはいつだって真剣にそして、優しく僕を見る
「良い子だ。颯。丈ちゃんも、ママも颯の事が大好きなんだ。この世で一番大切なんだ。」
丈さん、すごく嬉しい。僕も母さんと丈さんが、大好き。
「だから、颯が怖い目にあってほしくない。颯の周りに悪い人が来てほしくないんだ。」
「うん。」
「丈ちゃんは颯を守りたい。だから、颯の『めめ』の事。颯とママと丈ちゃんだけの秘密にしよう。」
「ひみちゅ?」
「そう。秘密。誰にも内緒。おばあちゃまにも、おじいちゃまにも言っちゃだめだぞ。丈ちゃんと約束だ。」
「うん、ひみちゅ。ひみちゅ、ひみちゅ!」
僕と丈さんは、指きりをして約束したんだ。
「丈、、、。ありがとう。そうね、ママも秘密が良いな。三人だけの秘密。」
僕はすごく嬉しかったけど、それは僕だけじゃないね。母さんもすごく嬉しそうだ。
もしかしたら、僕よりも嬉しい?。
「あ、颯。秘密も、秘密だからな!丈ちゃんとママと秘密があるんだ〜、とかも言っちゃダメだぞ。」
「うん。ひみちゅのひみちゅ。」
さすが丈さん。危ないところだったよ。秘密にします。
僕はこの二年後。清雅英明幼稚園に通い始める。
清雅英明学院附属幼稚園のお受験の倍率はもの凄い。
もちろん入園の子供だけではなく、その両親も一年以上かけてお受験の準備をする。中には、子供が生まれる前から熱心に学院
の説明会に通って準備する人もいるくらいだ。
生まれる前から親の受験熱に巻き込まれるってどういう事なんだ。
母さんが源氏の僕は、入学願書を提出するだけでも入園できる。
源氏の力恐るべしだ。
それなのに、久しぶりにわがまま蘭子が顔を出して、受けなくて良い入園試験を僕に受けさせた。
母さん。そんなことをするから、くだらなくて、悲しい事件が起きるんだよ。