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八  瞳の中の人


 母さんは病室のソファーに僕を座らせ売店で買ってきたクリームパンを食べさせてくれた。

朝から甘いものを僕に食べさせることをしない母さん。母さんもクリームパン食べてたね。

疲れちゃったのかな。


 スマホのリモートで、昨日の報告と残りの会議を済ませると、気遣ってくれたスタッフの莉子りこさんが、会社近くのオーガニックのお弁当を持って訪ねて来てくれた。

母さんの会社の人はすごく気も使えるし、自分で考えて行動する人たちばかり。まあ、そうじゃなければ母さんとは働けないね。


「社長。大丈夫ですか?私が颯ちゃん見てます。一時間でも良いので休んで下さい。」

「ありがとう。でも大丈夫よ。昨夜は、思ったより良く眠れたから。」


 ーそうだよ、丈さんいてくれたからね。ー


「それより、お腹ペコペコ。助かる〜。颯にも食べさせたかった〜。」

「社長、こんな時はプライベートだからとかの遠慮はなしですよ。たまには思いっきり甘えてください。」

「ありがとう。じゃあ、甘えるわ。今日は仕事しない。私の代わりに仕事してきて。」

「了解です。」


 莉子さんに仕事の指示をすると、莉子さんは飛ぶように帰って行った。

莉子さんは母さんの右腕の人だから、母さんの性格は良くわかっている。

リモートでも話も気持ちも通じる莉子さんだけど、会って母さんの本当の状態を確認したかったのだろう。もちろん母さんも莉子さんがなんの為にわざわざ来てくれたのかわかっていた。


 莉子さんと入れちがうように母さんのお兄さん夫婦もお爺ちゃまを連れてやって来た。

お爺ちゃまは、母さんと性格がそっくりだから、衝突もするけど一番の理解者でもある。


「颯もいるのに、悪かったな。」

「大丈夫よ。私にはみんながいるから。」


急足で帰っていく莉子さんを頼もしく見ながらそう答えた。

 お爺ちゃまが来たので、医師が病室に来ておばあちゃまの容態をもう一度説明した。


「眠っていらっしゃるのは、傷もありますし、事件の後ですので少し鎮静剤を使っています。ご安心ください。」

「お世話をおかけします。」


お爺ちゃまはそう言って丁寧に頭を下げ、眠っているおばあちゃまの手を握った。


「ばあさん。まだ死ぬなよ。」

「お父様。大丈夫よ。」


お爺ちゃまも小さく見えた。僕はお爺ちゃまの頭をいい子いい子してあげたんだ。


 夕方になって丈さんが戻って来た。母さんの実家の人たちに挨拶を済ませると


「どうする。ご実家にしばらく行くか?」

「犯人の男は?」

「近くの防犯カメラを確認したが、ちょうど犯行現場が視覚になっていて。」

「そうなのね、、、」

「目撃者を探してる。少し時間がかかりそうだ。ごめん。」

「丈は、悪くないよ。お母様の為にありがとう。」


 僕は、ちょっぴり考えたんだ。

もう、二歳になって、少しお話もできるようになった。

それに、丈さんと母さんなら驚かないかな〜とも思ったしね。


「丈ちゃん。」

「うん?どうした颯。お腹空いたのか?」

「うんん。」

「待ってな。もう少ししたらお家に帰れるからな。」

「丈ちゃん。あのね ママよ、おばあちゃまにチックンって」

「え、ママ?チックン、、、て?」


僕は丈さんを指さして


「丈ちゃん、ちがって。ママよ、ママ。チックンは、ママ。」


丈さんはびっくりしていたけど、母さんが


「あっ。颯、おばあちゃまにチックンってしたのって、もしかして女の人なの?」

「うん。そうママ。にどりのめめ。ドンって。」

「女の人。緑のサングラス。その人がドンっておばあちゃまにしたのね!」

「うん。いたい、いたい。えんえんって。」


丈さんは息をのんだ。


「颯。それって、おばあちゃまの瞳に映ってたのか?颯、それを見たのか?」

「うん。おばあちゃまのめめ。けんちゃんのママ。ドンって。」

「けんちゃんのママ?」


丈さんがどう言う事だと思っていると、母さんが


「わかった。同じマンションにけんちゃんって二十代の子が一人で住んでいるのよ。少し前まで彼女がいたんだけど、、、。」

「えっ。」

「ちょっと前に別れたんだと思う。けんちゃんってホストしてるんじゃないかな。派手だし。

えっと、一ヶ月くらい前だったかな。マンションの前の公園で、二人がものすごい言い合いしてた、、、。

まさかけんちゃんを刺してる、、、とか無いよね?」

「何号室かわかるか?」

「うんん。あ、二つ下のフロアよ。エレベーターに乗って来たことがあったから。たぶんだけど。」

「二つ下のフロア。名前がけんちゃんでホストだな。もし刺されているとしたらまずいな!連絡する、ここに居ろよ。」


丈さんは、連絡をとりながら走って行ってしまった。


 丈さんは、けんちゃんの家をすぐに突き止めた。

部屋に踏み込むと背中を刺されて、シーツに巻かれたけんちゃんが発見された。

グルグル巻きにされたのが体だけだったので、幸いにも呼吸は保たれていた。シーツのグルグルが止血もしてくれたので、刺されてから約一日も放置されたままだったが、奇跡の生還だ。

やはり別れ話のもつれ。

刺した後、誰にも連絡が取れないようにジワジワと死んでいけ!

と、シーツにグルグル巻きにしたそうだ。

愛情が壊れた後は何倍もの憎しみが支配するんだな。恐ろしい。

元カノがすぐに緊急逮捕された。

スピード逮捕で一件落着。


 あまりの急展開に丈さんは、なぜ犯人にたどり着けたのかしつこく聞かれたそうだよ。

そりゃそうだよね。おばあちゃまの証言で犯人は、男だったんだし。

丈さんは僕のことを言うわけにもいかず、かなり苦しい説明をしたそうだよ。


たった1日での被疑者の逮捕。そして何より被害者の命を救った。

この件で丈さんは、署長賞をもらった。めちゃめちゃ困ったそうだけどね。

丈さんは、


「本当は、颯が貰ったんだぞ。」


って、母さんの特注のガラスの部屋に賞状を置いたんだ。

もう僕を巻き込みたくないから僕の部屋には飾らないんだってさ。


丈さん、そんなこと言わないで、次は二人で警視総監賞をもらちゃおうよ。




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