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七  捜査開始


 翌日、おばあちゃまは母さんも僕もいたから、割と機嫌よく目が覚めたみたいだった。僕はまだソファに横になって夢の中だったけどね。


「どう。痛みは?」

「そうね、だいぶズキズキするわ。」

「先生、呼ぶわね。」


母さんが、ベッドサイドのボタンを押すと医師と看護師がやって来た。

顔を洗いに行っていた丈さんも戻って来て。


「おばさま。大変な目に遭いましたね。」

「丈太郎くん、いてくれたそうね。ありがとう。あなたにはいつもお世話をかけて。お父様にも申し訳ないわ。」

「ははは。家業は兄がいますし、父は、刑事なんてやっている僕のことはとっくに諦めてますから。僕が何をしてもおばさまはお気になさらないでください。」


 源氏組の丈太郎さんの家は代々続く家柄で、会社も家も、とてつもなく大きい。ご実家では、次男の丈さんにだって会社に入って欲しかったようだが、小さい頃から見ていた会社内での派閥争いに嫌気がさしていて、さっさと家を出て、ドラマで憧れた刑事になった。


我が道を行く母さんと馬が合うわけだね。


「おばさま。お疲れのところ申し訳ありませんが、お話をお聞かせください。」


丈さんはそう言うと、母さんに目配せをした。僕に聞かせたくなかったからね。母さんは僕を抱いて


「お母様。丈の言うことを良く聞いてよ。颯と外にいますから。」

「ええ。颯ちゃん。後でね」


母さんに抱き抱えられて目が覚めて、ベッドに横になっているおばあちゃまがぼんやりと見えた。

いつも元気なおばあちゃまがなんだか小さく見えて、可哀想だった。


 丈さんは、おばあちゃまの性格を良くわかっているから、事情聴取もスムーズに行われた。


事件の日。おばあちゃまは、お友達と観劇に出かけた。

お友達三人で帰りに行きつけのフルーツパーラーに立ち寄った。おしゃべりに花が咲いて三時間ほど過ごしたそうだ。

帰る時にフルーツが沢山乗ったプリンが目に止まり、僕に食べさせたくなって購入して店を出た。

お仲間は、用事があるとおばあちゃまがプリンを買っている時に先にタクシーで帰ったそうだ。

おばあちゃまも店を出るとタクシーに乗り、母さんのタワマン近くで降りた。

その時、どこからか飛び出してきた人とぶつかり、腕に痛みを感じた。

見るとナイフを持っている男が立っていて細い道に走って逃げていった。おばあちゃまも急いで母さんの家へ逃げた来たそうだ。


「襲われたのは、マンションの近くなんですね。」

「ええ、そうよ。」

「なるほど、わかりました。」


丈さんは、おばあちゃまに お大事にしてください と病室を後にした。

廊下で待っていた母さんに


「おばさま、マンションの近くで襲われている。」

「マンションの!」

「どうりで、刺された女性を乗せたタクシーが見つからないわけだ。颯もいる事だし、後で迎えに来るから。それまで病院にいたほうがいいな。」

「わかったわ。」

「颯、丈さんが戻って来るまでここにいるんだぞ。」

「はい。」

「良い子だ。」


丈さんはいつもみたいに優しく僕の頭を撫でて捜査に向かった。


 母さんのマンションにはコンシェルジュが常駐している。

おばあちゃまが血を流して入ってくれば気がつくはずだが、マンション内のトラブルで席を外してたので、おばあちゃまにもその前後の人の流れもわからなかった。


おばあちゃまが写り込んでいた前後の時間、エントランス外側と裏口、そして駐車場を写す防犯カメラに不審な行動をする男も確認されない。


おばあちゃまは、かなり動揺していたから男の服装についての証言も曖昧で、血痕の位置から刺された場所の大まかな位置は判ったが、そこであるなら防犯カメラに映らない。


乗車していたタクシーは判明したが、そのドライブレコーダーにも怪しい人物は映っておらず、犯人特定には地道に聞き込みをしていくしかなかった。


 昨夜 僕は丈さんの腕の中だったし、おばあちゃまも寝ていたから、僕がおばあちゃまの瞳の中を見る心配はなかったんだ。

いつもは王様にだって意見しそうな母さんだけど、今は流石に凹んでいる。

おまけに丈さんが捜査に行っちゃったからね。


 母さんは、僕が残像が見えるかもしれない事も、おばあちゃまの体調もどちらも心配だった。

おばあちゃまの瞳の中を覗かせない為には、どれくらいおばあちゃまから僕を離したらいいんだろう。

もし覗いてしまったらどう反応すればいいのだろうと随分と困っていたけど、病室に戻るとおばあちゃまも疲れていたのだろうか、スヤスヤと眠っていた。

母さんは僕を抱きながら、安心したように眠っているおばあちゃまを見つめ


「丈、、、早く帰ってきて、、、」


この時、母さんの瞳は見てなかったけど、心の中が見えたような気がした。


母さん、心配しないで。おばあちゃまの瞳の中の人は僕がちゃんと見てるからね。




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