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五  神様からのプレゼント



 容疑者の洋子が連行され、鑑識作業も終了した。

風音さんは、洋子の雇い主でもあるし、平手打ちもしちゃたから事情を聞かれるために警察に行くことになった。


「蘭子。本当にごめんなさい。こんなことになるなんて、私の責任だわ。颯ちゃんに何もなくて本当によかった。」

「風音、気にしないで。私も経営者だから、気持ちは良くわかる。私の代わりに、バッシっと。ありがとうね。」


風音さんは、うんんと、首を横に振って母さんにハグをし、僕の頭を優しく撫でて警察に向かった。


丈さんは、僕と動揺している母さんのために残ってくれて


「何か作るよ。颯と座ってな。」


キッチンに向かうと、手際良く卵がたっぷりと入った僕の大好きな温かいうどんを作ってくれた。


「ありがとう。」

「お蘭。少しでも食べるんだぞ、落ち着くから。」

「うん。」

「颯、おいで。丈さんとうどん食べよう。卵たっぷりだぞ。」


丈さんのうどん、母さんのよりちょっぴり甘いんだ。卵もいっぱいだし。

僕の大好物。丈さんの膝の中で食べるうどんは最高に美味しい。


 母さんの宝物が入ってる部屋は、もちろん特注品。リビングの奥にガラス張りで出来ていて、時計のコレクションや、指輪などの宝飾品やバッグが、綺麗に並べて入っている。ちょっとした美術館だね。


 警察や鑑識の人が何人もウロウロしてたから、みんなが帰った後も暫く母さんは落ち着かない様子だった。

鑑識さんがパタパタしていた銀の粉が、まだガラス張りの部屋の中をフワフワと、慌しかった夜の名残りのように飛んでいたけど、母さんも丈さんもいるから僕には楽しい夜だよ。


 母さんは初め、留守中にしかも僕を巻き込んで事件が起きた事に涙ぐんでた。

でも、丈さん作ってくれた温かいうどんで落ち着いて来ると、丈さんに


「颯、どうしてわかったんだろう?」

「うん。」

「私、颯の部屋のカメラで確認したけど、確かに颯は、しっかりとお昼寝してた。」

「そうか。」


母さんは、ガラス張りの部屋を見つめて


「あの部屋の時計のコレクションは上の棚に置いてあるのよ。颯には見えない。盗んでバッグに入れているところでも見てない限り、颯にわかるはずないんだけど。」

「でも、颯は寝ていて、目撃しているはずが無い。なんだな」

「そう。リビングの監視カメラも颯の遊んでいる方に向けられてるから、ガラスの部屋は映ってないし。いったいどうやってバッグに時計を入れたのわかったのかしら?」


丈さんは、混乱している母さんを落ち着かせるように穏やかに


「カメラの存在はシッターには知らせてあったのか?」

「ええ。人権の問題がうるさいからね。それに風音のところから来てもらってるから、安心してたし。」


丈さんは僕の口にうどんを運びながら


「颯、自分の目に人差し指を当てて、めんめって言ってたよな。」

「うん。私が怒る時 めっ て言うから、シッターのしたことを怒っていたのかな?」

「それだと指を目に当てたこと説明ができないだろ。」

「そうだよね。」


母さんは、丈さんの膝の上にいる僕の頭を撫でて、


「颯、わかってあげられなくて、ごめん。ダメなママだね。」


 ー母さん、そんなことないよ。ー


「それにしても丈は、どうしてわかったの?シッターが盗みをした事。刑事だから挙動不審を見抜いた、とか?」

「違うよ。颯が教えてくれたんだよ。」

「颯が?」

「ああ。」

「なんか腹たつ!私がわかってあげられなくてゴメン、て謝った側から颯が教えてくれたなんて!私に喧嘩売ってんの!」


 ーああ、いつもの母さんだ。ー


「男同士、颯と俺は、お蘭より深くつながってんだよ。なあ颯。」

「めっちゃ腹たつ!颯、ママのお膝においで。丈のアホがうつるよ。」


 ーますます、いつもの母さん。ー


「颯は、丈さんのほうがいいよな〜。」


そう言って、いつもの笑い声が僕の家に響いたんだ。元気になった母さんを見て丈さんが


「以前もあったんだ。」

「何が?」

「颯が自分の目に指を当てて、めんめって言ったこと。」

「え、以前にも?」

「ああ。颯が、自分の目に指を当てて、それから、俺の目に指を当てて、そして、ママって言ったんだ。」

「ママ?」


母さんは訝しげに丈さんを見た。


「お蘭が、義理のお姉さんに颯お願いしたことあっただろ?」

「ええ。シッターの都合も会社の都合もつかなくて。お母様には頼みたくないし。」


丈さんは、ため息混じりに


「相変わらずだな、もうお願いしても良いんじゃないか。」

「ふん。それで、お姉さまに頼んだ時って?」

「ああ。あの時、帳場も立ってないし、颯にも会いたかったから来たんだよ。」

「そう言えば、今から颯に会いに行くけどって連絡くれたっけ。」


母さんは、丈さんのお土産のプリンを並べながら


「そうだ、あの時。頂き物のプリンが沢山あるから颯に持って行って欲しい。て、お願いしたら、会社に来てくれたよね。」

「来てくれた、じゃなくて。お蘭が取りに来いって言ったからわざわざ会社に行ったんだろ。」

「そうだっけ。」

「そうだよ。その時、颯が俺の目を指さしてママって言ったんだ。」

「ふうん。」

「なんだよ、その気の抜けた返事は。」

「だって。プリン持っていたんだし。颯はママから?って聞いたつもりなんじゃないの?」

「プリンを指さしたんじゃない。めんめって言って俺の目を指さしてママって言ったんだ。」

「ふうん。だから?」

「俺の目に映る、お蘭の顔が見え、、、そうじゃないかと。」

「え、どう言うこと?」


丈さんの常識では考えられない発言に、何言ってるのって反応の母さん。


「だから、さっきもお蘭に抱き抱えられて、シッターにバイバイした時。シッターの目に映っている窃盗の瞬間が見えたんじゃないか?って思うんだよ。」

「今、起きている事じゃ無くて、少し前に起きたことが目に映るって事?」

「ああ、残像のように。」

「、、、そんなことあるはずないじゃん。」


母さんは、プリンのスプーンを口にくわえたまま丈さんの話を聞いていた。


「ママって呼んだあの時、颯の目は俺の目じゃなくて、何か別のものを見ているような違和感があったんだ。そして、ママって呼んだんだ。」


丈さんの言いように、馬鹿にするように返事をしていた母さんが、ふと思い出したように、


「そう言えば、朝、ゴミを出しに行った時にランニングしている丈に会った事があるでしょ。家に帰った時、私に向かって颯が丈ちゃん、、、て。てっきり丈の香りでもしたから言ったんだと思ってたけど、、、」

「颯には見えるのかもしれない、、、残像のように少し前にあったことが。残像が見えているなら、全ての話の辻褄が合う。」


 僕は丈さんと母さんの話を聞いて、みんなには見えないんだってわかったよ。


ーそっか、僕だけが見える瞳の中の世界なんだ。ー


僕だけがもらった神様からのプレゼント。


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