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四  初めての事件解決


 僕を授かるまで、母性なんてものに全く興味のなかった母さんが、僕を出産したらどうなるのか、鏑木坂の家ではみんな心配していたそうだ。産んだ途端に


「やっぱり子供なんて私の人生に邪魔なだけ。主役は私なんだから。」


そう言って子供を放り出すかも知れないって。

今までの母さんの生き様ならそう思われても仕方ないね。

でも、一度心に決めたら突き進む蘭子。僕への愛情は出産と同時にもっと大きいものになり、僕の成長と共にさらに大きくなっていったんだ。


 つべこべ言う両親には世話になりたくないと、一人必死に僕を育てた。出産前に段取りを済ませ、産後の仕事は全てリモート。産後一ヶ月もしないで仕事に復帰していたね。

 僕が寝れなくて、騒いだ夜の翌日の仕事は、スタッフが心配するほどのやつれ顔で化粧もしないでリモート画面に現れたし、見えないだろうからと、授乳までしていた。


 ーわがまま蘭子奮闘記だね。ー


母さんありがとう。僕は、あなたのたっぷりの愛情のおかげで幸せに成長できているよ。


ただね、一歳半になった時に最初の事件は起きたんだ。

この事件で僕にとっては当たり前のことが、みんなはそうじゃないんだって少しわかった。


 母さんは、どうしても打ち合わせに出かけなくちゃならない時、源氏仲間の風音かざねさんが経営する、セレブ専用のベビィーシッターに僕のお世話をお願いすることがあった。

友達だし、セレブ専用だから母さんも安心していた。それに本当に困った時だけ。基本、母さんはいつも僕のそばにいてくれる。


その日は、二回目のシッター利用だった。

母さんは三時間ほど僕を預けて出かけた。用心のために僕の部屋と、リビングにモニターカメラを設置して。

夕方、帰宅した母さんにシッターの洋子さんが


「ぼっちゃまは、手のかからないお子様ですね。おやつ召し上がって、少し遊んだらお部屋でスヤスヤとお休みになってました。」


確かに、母さんもモニターでチェックしていたし、その通りだった。


「今日は、ありがとう。外面の良い子なのよ。あなたが穏やかな方だから安心して過ごしていたんでしょ。」

「では、失礼いたします。」


シッターの洋子さんが帰ろうとした時。母さんの声がするって、僕は目が覚めベッドから、リビングの母さんのところに走って行った。


ふう、起きたの。お利口さんにしてたんだって?ありがとう。ママお仕事終わって帰ってきたよ。」


母さんは、いつも僕を抱きしめてくれる。あったかいんだ。


「シッターの洋子さん帰るって。バイバイしようね。」


母さんにそう言われて洋子さんを見たんだ。

そしてら、洋子さんの目に、その瞬間が映し出されていた。


 ー僕には、よーく見えてるよ。ー


だから母さんに伝えたんだ。


「めめ。めんめ。」


そして、左手首を触って


「ママ。ママ。」


とね。母さんは、


「ん?目が痛い?あ、おっきしたからね。目が覚めたよってことね。」


 ー 違うよ。ー


もう一度、僕は自分の目に指を当てて、同じことして伝えたんだけど、母さんの反応は同じだった。


 ー母さん、見えてないの?ー


 母さんのおさな馴染みの丈太郎さんは、学校も幼稚園から一緒で源氏組。母さんと一緒の負けず嫌いだから、成績上位者の常連だった。

母さんがあんな人だから、僕を心配して生まれた頃から良く遊びに来てくれている。


今日も母さんがシッターに僕を預けると聞いて、心配して仕事の帰りによってくれた。母さんの帰宅とエレベーターホールで一緒になったそうで、お土産のプリンを持って母さんの後ろに立っていた。その丈さんが、


「お蘭。違うんじゃないか?颯の言いたいこと。颯を下ろして見なよ。」

「えっ?」


戸惑っていた母さんの腕から丈さんが僕を抱いて下ろしてくれたから、僕は洋子さんのバッグのそばに立ち、指さして


「めめ、めんめよ!」


って丈太郎さんに訴えたんだ。丈さんは、すぐにピンっと来て。


「颯、わかったよ。颯、えらいぞ。ちゃんと伝えてくれて。」


丈さん、僕の頭を思いっきり撫でたくれたっけ。


「シッターさん。こちらに来てもらえますか?」

「なんですか、いきなり。奥様。時間ですので、私、失礼いたします。」


そう言って足早に帰ろうとするシッターの腕を丈さんが、ギュウっと掴むと


「何するんですか!痛い、痛い!失礼な方ですね。警察呼びますよ。」


ムキになるシッターに


「はい。警察です。」


丈さんは、そう言って警察手帳を見せ


「えっ。」

「わかったら、バッグの中身を大人しく全部出しなさい。」


丈さんは、シッターをリビングのテーブルの前に立たせた。

シッターはふてくされた態度で、バッグの中身を全てテーブルにぶちまける様に出そうとしたから、その手をまた丈さんがグッと持って


「おいおい、そっと出したほうが自分の為じゃないのか?壊しでもしたら、窃盗プラス器物損壊。あんたに弁償できるもんがそのバッグに入っていると良いんだけどな。さあ、どうする。」


シッターは、唇を噛み締めてそっとバッグの中身をテーブルに並べた。

母さんの大切にしている高級時計が、三点出てきたよ。


「何これ!なぜ、、、洋子さん、あなた!」

「立派な窃盗だな。18時53分、現行犯逮捕。」


母さんの顔は、怒っているのとは少し違ったけど、近寄りたくないほどのひどい顔してたから、僕は丈さんにしがみついた。


 ほどなく、警察と鑑識。シッターを派遣した風音さんがやってきた。

風音さんは、来るなり母さんに抱きついて、謝っていたな。

洋子さんは、ずっと僕を見てたよ。すごい醜い顔をしてね。


「寝ていたと思ったのに。どうして?起きてこっそり見ていたの?

大人を騙すなんて、なんてガキなの。」


ー泥棒なんてする自分が悪いんじゃないか。ー


それなのに僕を睨みつけて悪口を言ったから、母さんが殴りかかりそうだったけど、丈さんが間に入って止めたんだ。

風音さんが母さんの代わりに思いっきりの平手打ちをお見舞いしたけどね。


母さんにとって僕を巻き込んだ事件は小さくは無かったけど、これはほんの始まりに過ぎなかったんだ。



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