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三  目覚める母性

三  目覚める母性


 

 母さんは、自分の人生に子供なんて必要ないと思っていた。


 ーまあ、確かに子供なんて

   めんどくさい存在だからね。ー


でもわがまま蘭子は、驚くほど単純な理由で子供を産むことにしたんだ。


 母さんの学生時だの仲間はお嬢様ばかりだから、大学卒業したら仕事に就くなんて、大変でつまらないことをせずに結婚する人の方が多い。

母さんはそんな友達の結婚式のプロデュースもいくつも手がけた。


「幸せになってね。」


と心にもないことを言いながらね。

そんな仲間の一人、夏乃かのさんが女子会に珍しく生後四ヶ月の夏織かおりちゃんを連れて出席した。


「ごめん、シッターがどうしても都合つかなくて。」

「気にしない、気にしない。個室だし、全然オッケーだよ。」

「夏織ちゃんは、順番に私達が見るからさ、夏乃はゆっくりしなよ。」


そう言って、麗香さんが母さんの腕の中に夏織ちゃんをヒョイと渡したそうだ。赤ちゃんなんて抱いたこともない母さんは、


「えっ、私?ちょ、ちょっと待って待って。」


そう言って拒否ったそうだけど


「こうでもしなきゃ、蘭子が赤ちゃん抱くことなんて一生ないでしょ。」


確かにそうかも、ってそう思ったかは定かではないけど、麗香さんの強引な進めで母さんは夏織ちゃんを抱いた。

そして黙ったまま夏織ちゃんをずっと抱いていたそうだよ。

麗香さんは、僕が高校生になった時に


「蘭子はね、目に涙を浮かべながら夏織ちゃんを抱いていたのよ。」


ってそう教えてくれたけど、母さんは


「ばっかみたい。私が泣く訳ないでしょ。」


って、思いっきり照れてたっけ。


 女子会の最後まで食事も摂らず、話にもほとんど参加しないで、ひたすら夏織ちゃんを抱きしめていた母さん。


(可愛い、、、子供ってこんなにも可愛いんだ、、、なんて優しい肌なの。なんて可愛くおしゃべりするんだろう。お腹が空いて泣くなんて、、、眠れなくて泣くなんて、、、守ってあげたい。)


母性が全開で目覚めた瞬間なのか。はたまた、わがまま蘭子を軽々と超えていく赤ん坊の自由奔放さが、蘭子を魅了したのか。

夏織ちゃんと別れた後もその感触が忘れられなくて、蘭子は決意した。


「私、子供を産むわ!」


わがまま蘭子。おかげで僕の数奇な運命の歯車が動き出す。


 母さんは、子供は欲しいけど相変わらず旦那さんは要らないままだった。

夏乃さんが旦那様同伴で女子会に来てくれてたら、僕に父さんがいたのかも知れないけどね。


 ー 残念だよ。ー


 結婚はしないけど、子供だけ授けてくれる相手を母さんは探し始めた。

母さんは、案外綺麗な顔をしていたから、黙って座っていたらいくらでも相手はいたと思う。ただこんな性格だから、自分の子供の為に父親の遺伝子は誰でもいいはずがない。


「私よりも、頭脳明晰。運動神経抜群。仕事もキレッキレ。そしてイケメン細マッチョ。これが私の子供の父親に相応しい最低条件よ。」


最低条件ね〜。しかもわがまま蘭子から見ての最低条件だ。


バリバリに仕事をこなす蘭子よりもキレキレの仕事をする人間なんて、それだけでもどんだけ高いハードルなんだ。そう簡単に見つかる訳ないさ。


実際、なかなかお眼鏡にかなう男性ひとは見つからなくて、マッチングアプリにまで手を出した。

蘭子には考えられない選択。


 ー母さん、ヤケクソにならないでよ。ー


仕舞いには昔の映画を上映している映画館で見た、アーノルド・シュワルツェネッガーと、ダニー・デヴィート主演の『ツインズ』を思い出して


(あんな研究所があれば簡単なのに)


 母さん、ジュリアスじゃなくて、ヴィンセントが授かるかも知れないんだよ。

簡単なのはさ、母さんが惚れる相手が見つかればいいんだよ。

あばたもエクボ。母さんが心から惚れちゃえば、母さんが出すどんなに厳しい条件でも楽々クリアできちゃうさ。


 惚れた相手が見つかったのかは定かではないけど、僕は母さんのお腹に無事に授かった。


名前は、鏑木坂かぶらぎざか 颯真ふうま


父親が誰なのかは、僕が神様からもらった贈り物が程なく僕に教えてくれる。


まあ、それも少し先のお話。


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