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十一  凛と立つ


 握手をしていた畑中先生も一緒に倒れたけれど、すぐに異変に気がついて


「いったい何をしているんだ!」


 幸子さんの手首を掴んで、持っていたハサミを取り上げた。

僕はすごく怖かったけど、母さんがしっかりと抱きしめてくれていたから、どこにも痛くなかったよ。


でも母さんの破れたスーツから見えた白い腕からは赤い血が見えたんだ。僕は急いでポケットからハンカチを出して抑えた。おばあちゃまの時に母さんがしたように。

畑中先生は、幸子さんの手首を持ったまま


「警備を呼びなさい。警察も。」


そう指示を出したんだけど、母さんが


「先生、お待ちください。警察には連絡なさらないで。」

「何を言ってるんだ。蘭子くん、君は怪我をしている、襲われたんだよ。こんなハサミで襲ってくるなんて。ここは、子供の入園試験の場だぞ。常軌を逸している。」

「確かに、先生のおっしゃる通りです。それでも警察は。」


そう訴えていると、母さんを襲った張本人の幸子さんが


「そうですよね、呼べませんよね。悪いのは鏑木坂蘭子、あなたですから。」

「何を言ってるんだ。蘭子くんは何もしていなっかだろ。警察を呼びなさい!」


もう一度指示を出す畑中先生に母さんが


「先生、おやめください。」

「蘭子くん、なぜ?」


幸子さんは、母さんを睨みつける様に


「呼べませんよ。呼べばこの清雅英明学院の名誉も傷つけてしまいますもの。何よりも名誉が第一。見栄っ張りの源氏の皆様のお考えになりそうなことよ。」


幸子さんの高飛車なその声と吐き捨てるような言い方。

聞いているだけで気分が悪くなるよ。


 僕を抱き抱えて教室の床に崩れるように座っていた母さんは


「颯、ハンカチをありがとう。颯は痛いところはない?」

「うん。大丈夫。お母様は?痛いでしょ。」

「大丈夫よ。あなたのお母様ですもの。」


そう言ってにっこりと微笑むと、すっくと立ち上がった。

それは、アニメの大魔王が立ち上がるように凛としてカッコ良かった。

母さん素敵だけど、とっても怖い顔してるよ。


「もちろん、わが母校、清雅英明学院の名誉は大切です。ここに集う幼い皆様の母校にもなるのですから、こんなくだらないことで汚される事などあってはなりません。」

「くだらない?」


母さんの言葉に幸子さんの顔は、よりいっそう醜くなった


「ええ。くだらないことです。嫉妬などくだらない。己の価値を知らない愚か者のすることです。」

「なんですって、もう一度言ってみなさいよ!」

「何度でも言います。貴女は嫉妬に狂ってくだらない事をされたのです。名誉とは何か、守るべきものは何か、何もわかっていらしゃらない。」

「なっ」

「良いですか、貴女は母親なのですよ。守るべきはお子様。そしてそのお子様の名誉です。嫉妬などに心を支配されてこんな事をしてどうするのです。犯罪者の子供と呼ばれてしまうのですよ。もっと気高くおなりなさい。」

「あ、、、あーーっ。」


あんなに鼻息荒く騒いでいた幸子さんは急に泣き崩れた。母さんは一緒に来ていたご主人に向かっても


「あなたもです。今まで何をしていらしたのです。この方の何をみていらしたのですか?一緒に暮らしていらっしゃるのでしょ。嫉妬に心を支配されるのは、心に寂しさを抱えているからです。この方の孤独に気づかなかったのですか。」

「あ、あの、、、。す、すみません、、、すみません、、、」


 ご主人、随分と肩を落としていたな。

警察沙汰になったらこの人だってただじゃ済まないだろうし。本当はどう思ってるかわかんないけど、謝るしかないよね。


母さんは、二人に言いたいことをそれなりに、、、そう、それなりにね、言った後、女の子の前に膝をついて視線を合わせるようにかがむと、微笑んで


「お名前を教えてくださるかしら?」

西山にしやま 結華ゆいかです。」

「結華。美しいお名前ね。結華様、あなたは颯が初めて自分から話しかけたお友達です。きっと賢くていらっしゃる事でしょう。ですので、私がこれから話す事をしっかりと覚えておくのです。良いですか。」

「はい。」

「結華様の人生は、誰のものでもありません、あなたのものです。そしてたった一度きりです。ご自分の思った通りに生きるのです。誰に遠慮することもないのです。」

「はい。」

「そして困った時、迷った時、助けが必要な時は、大きな声で助けてと言うのです。お母様やお父様でなくて良いのです。あなたを助けてくれる方が現れるまで、助けてと言い続けるのです。必ず助けは現れます。良いですね声は出すものですよ。ご自分の人生なのですから。」

「はい。」


 母さんの言うことは、僕たちにはまだ少し難しかったけど、結華ちゃんには届いたような気がした。

畑中先生は、ずっと母さんを見つめていた。そして


「蘭子節は健在だな。よくわかった。幼い子の人生を第一に考えて良いのだな。」

「もちろんですわ。畑中先生。先生の物分かりの良さもご健在ですね。」


畑中先生は、参った、参ったって大笑いしていた。


 警察に届は出されなかったけど学校側として幸子さんには厳しい対応した。

結華さんには心のケアが必要と学校医の八神やがみ こう先生から、心のケアクリニックの東雲しののめ 統和とうわ先生を紹介したそうだよ。卒業生には優秀なドクターがたくさんいるからね。


 結華さんと幼稚園で会うことはなかったんだ。

でもね、運命は彼女と再会をさせてくれる。


 ー僕、早く結華さんと会いたい。ー


朝、緊張していた丈さんが校門の前で待っていた。


「颯〜。お疲れ様。頑張ったな〜。」


そう言って僕を抱き上げた後、


「どうした、その腕、おばさまと一緒だな。」


って。母さんは一緒って何よって怒ってたけど、丈さんは、ちゃんと病院に付き添ってくれたっけ。

母さんはいつもの母さんい戻っていたけど、なんだかスッキリとした顔をしてたな。



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