第32話 第五章【人間の怖い話】クレーマー#7【最終話】
ぽち『皆さんこんばんは、ぽちです。本格的に暑くなってきましたね。
六月なので、近々梅雨になって余計蒸し暑くなりそうですね。』
白夜「蒸し暑いのが一番嫌いだわ。」
ぽち『暑い日があると、アイスが美味しく感じられるけどね。でも、暑い夏があるからこそ、怖い話とか盛り上がるよね。
さて、今日も人間の怖い話、クレーマーのお話の続きから参りましょうか。今日が最終回です。
皆さん、こんな話はいかがですか?』
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自分宛てに電話が鳴っている・・・。
いつも自分の携帯にかかってくる電話は、友人や家族、職場の人からの電話で、今までは非通知や知らない番号の電話は基本詐欺の電話が多いので、取らないようにしていた。
だけど、コールセンターの仕事をしてから、電話を取るのが癖になっていたのも事実。知らない番号でも取ってしまう事があった。
あの女のクレーム電話がかかってくるようになってからは、もう・・・電話を取るのが怖い・・・。
俺は、刑事さんたちを見た。耳にイヤホンを当てて電話相手の場所を特定しようと俺が取るまで待っている。
早くとらなくては・・・でも・・・怖い。
「あ・・・・。」
刑事さんの息子さんの声が漏れた・・。だけど、緊張で動くことができない。反応するのも怖い。
そんな時に、手をそっと添えてくれたのが若い刑事の丹波直樹さんだ。俺より三つ年上の刑事さんだ。
「無理そうでしたら、俺に受話器を渡してください。大丈夫ですから。」
丹波さんがキリっとした顔をして俺に言ってくれた。自分より年上だからか、刑事だからか・・・
凛々しい顔してかっこいいなと思った。
『は、はい・・・。』
緊張しながら、俺は電話を取った。丹波さんの隣で海堂翔二君という刑事さんの息子さんが心配そうに俺を見ていた。
『も、もしもし・・・・?』
【・・・・・・。】
まただ・・・この沈黙・・・。この沈黙が嫌だ・・・。
【・・・・まだ生きていたの?】
そんなことを言われた。
【あんたねぇ!!私にあんなこと言ったんだから生きている価値なんてないのよ!?
何でまだあんた生きているの!?早く死んでよ!!死んで!!】
『!!??』
今までで一番ひどい言葉を言われた。何で・・・なんでこんなことまで言われなきゃいけないんだ・・・!!
俺がこの女に何をしたというんだ・・・!!
頭の中で何かが壊れたような音がした。自然に涙が出てきて、爆発しそうになった。
その瞬間、海堂さんが俺から電話を奪って電話の着信を切った。
『・・・あ・・・。』
「ありがとうございます。何とか、犯人がどの地区にいるか把握することができました。
ご協力、感謝いたします・・・。」
海堂さんはにこりと笑って、俺に微笑んでくれた。
「随分ひでぇこと言うんだな・・・・。スピーカーにしていないのに、ここまで聞こえたぜ・・・。」
翔二君達高校生も唖然としていた・・・。そう、こんなこと言うクレーマーなんてきっと何人かに一人いるかだろう。俺はそれにあたってしまったんだ・・・・。
「丹波君、千田君!!逃げられる前にすぐにこの女の所に行こう。
場所は・・・東京都足立区だ。」
「はい!!」
東京都足立区・・・?俺の職場の近くでもあって・・・俺の大学があった場所だ・・・。
その後・・・、海堂さんたちがその女の場所まで行って、その女はあっさり逮捕されたようだ。
女の名前は、小松亜梨沙という三十代中間の女だった。その女が俺の職場や携帯にクレームを入れてきた張本人だ。
女は俺に対してのクレーム、威力業務妨害の罪、それから俺に対して死ねなどという侮辱罪やその他脅迫罪も視野に入れられるという。
女の名前に心当たりもないし、ましては、俺はまだ二十三歳だ。そんな三十代の知り合いなんて職場以外いない。
何故、こんなことになったのか俺は理解できず、頭を悩ましていると玄関のチャイムが鳴った。
『はい・・・。』
出ると、職場の上司である室長の江尻さんだ。
『え、江尻室長・・・・。ど、どうなさったんですか・・・?』
俺は驚いたが、室長は優しい人だ。きっと俺を心配してきてくれたと思った。
「いや、あれからどうだい?体調とか・・・。」
気にかけてくれている・・・。最初はきっともとに戻れると思っていた・・・。
でも、もう俺は電話が怖い。
『その件ですが・・・申し訳ないのですが俺・・・辞めようと思います・・・。』
俺はちらりと室長の顔を見た。笑顔だ・・・笑顔に見える・・・。
でも・・・目が笑っていない・・・そんな気がした。
「そうだね、辞めた方がいいよ君は。この仕事向いてない。」
『・・・はい・・・。』
「平気で人を傷つけて、何事もなかったかのように平然と社会人になっているんだから。」
『え・・・?』
室長は何を言っているのだろう・・・?よくわからず、顔を上げたその瞬間に室長の両手が俺の首に罹ってきた。
『!!??し、室長・・・!?』
俺は驚いて抵抗したが、室長の手がとてもごつくて、俺の首なんて片手で絞められる勢いだった。力が強い。最近、ちゃんと食べてもなかったし体力も落ちていた俺に敵う筈がなかった。
室長は無言で俺の首を絞めていた。何で・・・?何で・・・?
意識が遠のきそうになった瞬間・・・。
「村重!!」
俺の部屋に入ってきたのは、この間の刑事さん三人と、志藤さんだ・・・。
「オラァ!!」
丹波さんが室長の脇腹を蹴って、俺から離れたその瞬間に室長を抑えつけた。
「大丈夫か!?」
『し、志藤さん・・・!?』
「江尻アガサ!!障害未遂の現行犯で逮捕する!!」
丹波さんが真っ先に室長の両手首に手錠をかけてきた。何が何だか分からない。
「大丈夫ですか?」海堂さんが俺の背中をさすってくれた。
『は・・・はい・・・。』
はぁはぁと息が荒かった。首を絞められた感触がまだ残っている・・・。
「お前の姪が全部喋ったぞ。小松亜梨沙はお前の姪だそうだな。」海堂さんが言った。
『え・・・!?どういうことですか・・・!?』
俺は驚きを隠せなかった。
「この女が小松亜梨沙です。この女の顔に見覚えは?」
海堂さんが俺に写真を見せた。全然知らない女だ・・・・。
『い、いえ・・・本当に俺・・・知らない人です・・・。』
俺は頭を振った。すると、室長が俺に怒鳴りつけてきた。
「嘘をつけ!!去年お前がスーパーでバイトしていた時にお前のレジによく並んでいた女だよ!!」
室長が狂ったように怒鳴りつけてきた。室長は優しいイメージしかなかったから怒鳴りつけられて驚いた。
大体、毎日違う客がたくさん来るのに、その中の一人を覚えているわけがない。
「この女があなたにクレームの電話をし続けて、尚且つあなたの携帯にも電話ができるようにあなたの携帯番号を教えてあなたに対してクレームを入れるように仕向けたのも、この江尻だったんですよ。」
わけがわからない。何で、室長がそんなことをする・・・?何で・・・俺、本当に室長の姪なんてあったこともない・・・。
「よぉ~~く思い出してみろ・・・。お前、去年スーパーのバイト終わり、この子に告白されなかったか?」
『え・・・?』
そう言われ、思い出した。そう言えば一度、バイトしていた時に一人の女性に告られたのを思い出した。
それは・・・去年の夏だった。バイト終わりに友達とアイスを食べながら帰っていた時に、その女性は俺に声をかけてきたのだ。
「あ、あの・・・。」
『はい?』
「わ、私・・・ずっとあなたの事が好きでした・・・。あの・・・よかったら・・・・。」
パッと見、地味でおばさん~って感じで”女”としてみるかどうか聞かれたら”見ない”の風貌だった。
そして、周りも冷やかしてきた。
「なんだよ、また村重が告られているよぉ~!!」
「今度はこんなおばさんに!!」
野次のように友人たちはその女性を馬鹿にしたように言ってきた。それが俺にとっても面白おかしかった。
「おばさんごめんねぇ~!!この人、ミスコンで優勝した美人な彼女がいるから!!
おばさんに興味ないってぇ~!!」
友人が冷やかしながら言っているのもはっきり言って面白かった。だから俺は・・・。
『あれ?何か勘違いしちゃった?悪いけど、俺おばさん興味ないんだよねぇ~。』
って、俺も馬鹿にしたように言ってしまった。
しかもその後、一か月もしないうちに彼女から別れも告げられた。
変なおばさんに告られるわ、彼女から振られるわで散々だったのを思い出した。
『そ、その時の・・・おばさん?』
「勇気を出して告白したのに・・・!!振るなら振るでいいんだよ!!それを友人と一緒に馬鹿にしながら振ったようだな・・・!!
お前の軽率な態度があの子をどんなに傷つけたか・・・!!」
『そ、そんな・・・俺・・・・。』
そんな時、海堂さんが立ち上がった。そして、江尻室長の前まで歩いて行った。
「確かに彼の対応は告白してきた女性に対して最低な態度を取った。
でもなぁ、だからと言って相手の個人情報をその女に流出して、クレームできる環境にして、彼を精神的に追い詰めていいわけではないんだよ・・・!!
連れて行ってくれ!!」
「オラ!!立ちやがれ!!」
丹波さんに強引に立たされた江尻室長はそのまま丹波さんに連れられて行った。
「絶対に許さないからな・・・・!!」
室長が俺を睨みながら去っていった。
「だ、大丈夫か・・・!?」志藤さんが俺に声をかけてきてくれた。
『・・・・・・。』俺は放心状態だった。小さくうなずくくらいしかできない。
「まぁ、その頃は大学生だったからあまり相手の気持ちを考えて答えるなど考える余裕はなかったのだろうね・・・。
この件はね、確かにあの室長の言うとおりだ。君が酷い告白の返事をしたがために、小松は深く傷つき、そして君を恨みだした。
それが原因で君への憎しみと復讐するためだけにきっと生きてきたんだろうな。
そして、自分の伯父が経営するコールセンターに君が就職した・・・・。復讐するチャンスが訪れたというわけだろう。
確かに君は酷い告白の返事の仕方をして、それで彼女は恨んだ。恨まれても仕方はないのかもしれない。
でも、だからと言って君の仕事に支障をきたすような事をしていいわけがない。
だけど、今回の事を糧にして君も人に対しての口の聞き方とか今後気を付けた方がいいのかもしれないね。」
『・・・はい・・・。』
あの時の出来事は、言われるまで全く覚えていなかった。そんなものだと思っていたし、その程度だと思っていた。
だけど・・その程度だとあの女性は思わず、ずっと傷ついていたんだ・・・・。
因果応報だろうか・・・・。だからこんな目に遭ってしまったのだろうか・・・。
あれから俺はコールセンターを退職して、引っ越しもした。昔やっていたようにスーパーでのレジの接客をする事にした。
コールセンターを退職しても、志藤さんは俺を気にかけてくれて、何回か連絡は取っている。
俺は次の就職先であったそのスーパーでは電話はとらないようにしていた。完全にトラウマになっていて、そのことを面接で話したら、レジだけでいいと言われた。
あれから、あの女にも室長にも会っていない・・・。仮に釈放になっても俺に近づかないようにという命令も出されるみたいだ。
俺はあれから、レジだけを主にやって仕事をしている。もう・・・電話には出れないのかもしれない・・・。
でも、あの刑事さんや高校生たちと志藤さんには感謝をしている。彼らがいなかったらきっと俺は・・・今はここにいなかったかもしれないから・・・。
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ぽち『はい、おしまい・・・。
いきなり知らない人から、しかも自分よりうんと年上の女性に告白されて村重さんもびっくりしたのかもしれませんが、告白されて嬉しくなかったのでしょうか・・・、それとも若気の至りでそんな態度を取ってしまったのでしょうか?
どっちにしても、とってはいけない態度で返事をしてしまいましたね・・・。だから、恨みも増してこんな事件が起こってしまったのでしょうね。
人への態度、特に目上の人を敬う態度を最近の若者はちゃんと取っていない人が多いとよく言われているみたいです。
相手が年上だろうと年下だろうと、同年代だろうときちんとした態度、口調はするべきですね。
自分が行ってしまった何気ない一言や対応で相手を不快に思わせてしまう事はよくある事です。しかもそんな時にすぐに謝れればいいのですが、謝る事も出来ない人も増えています。
親の教育がなっていないとかよく言われますが、親だけではなく、結局は本人がちゃんとしなければいけないですよね。
いつまでも子供ではないのですから、然るべきことはちゃんとできるようにしなければいけませんよね。
まずは、職場では朝はおはようございます、先に帰る場合はお先に失礼しますと挨拶からやってみましょう。
そうすれば、急に相手にキレられたりされることはないかもしれませんよ・・・。
ふふっ。それでは、クレーマーのお話はこれで終わりです。
次のお話でお会いしましょうね。それでは皆さん、おやすみなさい。』
第32話/END




