77 新たなる旅へ
少しずつだが、経済も立ち直りの兆しが見えてきた頃、俺は、兼ねてからの思いについに取り掛かることになった。そのきっかけは先日の第一騎士団への見学に行ったことだ。
やっぱり剣士の剣って格好良いよなぁ。
そう、俺の夢だった物語に出てくるようなアレ!
『勇者の剣』だ。
俺はデザインの参考に今、図書館に来ている。
国の財政事情を聞き、先送りにはなっていたが、元々は、これを作成したいが為に、陛下に鉱石をおねだりしたんだから。
シルビーは「まだそんなこと言ってんのか? と呆れてたけど。
そんなシルビーは今日もバイト? に行っている。
「貧乏脱出作戦」時に、シルビーの狩り能力を頼ったことで、シルビーはあれ以来時々「特殊室」のバイト? を請け負っている。まぁアイツの場合、単純に狩りがしたいだけなんだけどな。
狩りがしたいシルビーと、その素材が欲しいエドナードさんの意見が合致したらしく、どうやらあの二人は秘密裏に取引をしている様子だ。
クラメンスさんの言う通りになったことに俺達は苦笑いしたけど、まぁあまり無茶苦茶をしない限りはお多めに見る。と言う陛下の意見を尊重している。
──それから数ヶ月が過ぎた。
俺は14歳になり、夢の剣を作ることに成功した。
陛下の計らいで、宝物庫を見学させてもらい、デザインや機能などのヒントをそこから得て、試行錯誤を繰り返して出来た剣がコレだ。
身体強化、状態異常無効化、クリティカルヒット向上などと言う機能を付けたことで、クラメンスさんとエドナードさんにはこってり絞られたけど……
この剣の量産は当然禁止されたけどね。
「こんな物が世に出回ったら大変なことになるぞ!」とクラメンスさんに急いで取り上げられ、俺しか使えないようにと、契約魔法をクラメンスさんに掛けられてしまったが……
そして、俺はこれを作っている時から決めていたことがあった。
14歳になった俺は、もっと色んな経験をしよう。と……
この国の経済も今は俺の『複製』とシルビーの狩りによってかなり安定してきた。
俺にとっても大事なこの国の存続の危機が回避されたことは、本当に良かった。
でもここに、このままいたら、俺の最初の目標
「俺は冒険者になってSランクになるぞ!」と言う夢を俺はどんどん後回しにしてしまいそうな気がする。
俺の親父になってくれたギルバードさんや、いつも俺を心配してくれるクラメンスさんや、エドナードさん、それに俺のとんでもない行動をいつも庇ってくれた陛下や、他みんなの優しさで、この穏やかで平和な毎日に俺は満足してしまって先に進むことを、無意識に伸ばしていた。
俺はこの気持ちを、真っ先に俺の相棒であるシルビーに話した。
シルビーは、俺の好きにすれば良い。自分は何処に行っても変わらない。狩りをしてリンゴを食って寝るだけだから。と、如何にもシルビーらしい答えだった。
そして先日、俺の気持ちを親父に伝えた。
親父は俺の気持ちを応援すると言ってくれて、俺が次に向かう予定の隣の国のダンジョンがある町の冒険者ギルドのギルド長宛に、紹介状の手紙まで持たせてくれた。
エドナードさんにも伝えると、エドナードさんが隣の国の偉い人への紹介状も書いてくれた。
本当にみんなにはお世話になりっぱなしだ。
そして、ついに今日、旅立ちの日がやって来た。
俺の新しい旅への出発の日。
俺はギルバードさんに、アリサさんへの手紙を託した。
俺は頑張って5年以内に必ずSランクの冒険者になるから、それまで、もし良かったら待っていてくれないだろうか? と。そしてアリサさんを迎えに来るから。と手紙に書いた。
朝日が昇り始めた朝、俺はシルビーと二人で家を出た。そして、俺のアイテムバッグに全てをしまった。更地になったこの場所を見て俺は誓った。
必ず戻って来る。俺の夢を叶えて。
俺はシルビーと町の門前に向かった。
「アレックス! シルビーくん!」
ギルバードさんの声だ。
「おーーい! アレックス! 俺達に黙って行くとは!」
「ちゃんと別れの挨拶ぐらいして行きなさい」
そう言ってエドナードさんとクラメンスさんが俺に近づいて来た。
「みんな……」
「お前、みずくさいぞ、ちゃんと別れを言ってから行けよ」
そう言ってクラメンスさんに頭を叩かれた。
「必ずSランクの冒険者になって帰って来ます。だから待っていて下さい!」
俺は三人にそう言った。
「アレックスくんなら直ぐにでもSランクになれそうですけどね」
そう言ってエドナードさんがニッコリ微笑んだ。
「アレックス、身体には気をつけるんだぞ? 困ったことがあれば、その紹介状に書いてある、ギルマスのローガンを頼るんだぞ! あいつは面倒見が良いヤツだから安心しろ。俺の息子が行くと言ったら喜んで待っていてくれているからな」
ギルバードさんが俺の頭を優しく撫でる。俺はこの大きく、温かい優しい手で救われた。
あの日、ばぁちゃんを亡くして、この町に来て、幼馴染達にも裏切られ一人ぼっちだった俺に優しく差し伸べてくれた手。
俺の親父になってくれた人。
俺はこの人の息子になれて本当に良かった。
そしてこの人達と知り合えて本当に良かった。
あんなに憎んだ『水の子』のお陰でこんなに良い人達に俺は出会うことが出来た。
「みんな、ありがとう。俺頑張るよ。行って来ます! 絶対にSランクになって帰って来ます!」
俺達四人は抱き合って別れの挨拶をした。
「シルビー、アレックスを頼んだよ?」
ギルバードさんがシルビーにそう言うと
『任せろ。我がついておる。アレックスは必ず我が無事連れて帰るゆえ安心するがよい』
シルビーがギルバードさんにそう言うと、ギルバードさんと、クラメンスさん、エドナードさんもシルビーに抱きつき別れの挨拶をしていた。
シルビーは、暑苦しいのぅ。離れろ! と言っていたが、その顔は嬉しそうだった。
さぁ、俺とシルビーの新しい旅がこれから始まる。
fin.
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