76 苦渋の貧乏脱出作戦
──翌日。早速俺は王宮の特殊研究室に出勤した。
昨日の話し合いの結果、俺の身分やシルビーの存在含め、王宮内に極秘部署があるほうが良いだろうとの意見が出た為、室長にクラメンスさん、副長にエドナードさん、相談役としてギルバードさんがなり、陛下直属の極秘任務機関と言うことにした。
まぁ名前は難しい、それらしい名前を付けたが、やることと言えば『複製』を主にした『水の子』を利用した「お金を生み出す物」を作成するところだ。
昨日の財政状況を見たギルバードさんも流石に危機を感じたらしく、俺の『複製』だけでなく、シルビーが狩りをしてきた高級素材を流通させる提案も出した。
シルビーが狩ってくるグリフォンや、コカトリス、バッファローをはじめとする、高級素材は今まで俺達は実は廃棄していたのだ。シルビーは肉にしか興味なく、俺も毎日のように大量に狩ってくる素材の価値をゆっくり調べることをしていなかったのもある……
これには、みんなにかなり怒られたが……だって仕方ないじゃん……
毎日なんだもん……
「シルビーくん、ここに狩ってきたの置いて貰っていいかい?」
『了解! 行ってくる!』
「早めに帰って来なよ?」
『おう!』
クラメンスさんとエドナードさんにもシルビーもすっかり大事に? され、テキパキと仕事? をこなすシルビーを見て俺は「いいのか? この国? と思ったが、敢えてそこは言わないことにした。
「みんなで貧困脱出作戦」を決行すると決めたからには、俺も頑張らないとな!
「アレックスくん? ミスリル2個よろしくーー」
クラメンスさんに言われ俺の仕事の『複製』を行う。
「了解です!」
「『水の子』水の力を宿せーーーーミスリルを2個『複製』してーーーー」
「水を纏えーーーー」
ドン!
ドスッ!
「しかし、いつ見ても不思議だよなぁ……」
クラメンスさんがそう言って腕組みしながら『複製』したミスリル2つをじっと見て裏返したり、叩いて見たりしている。
「クラメンス遊んでないでさっさと鑑定しろよ!」
エドナードさんの雷が落ちた。
「はいはい。やりますよ」
「こっちの素材の鑑定もまだ残ってるんだから! さっさと済ませて『鑑定書』書けよ!」
驚いたことにクラメンスさんは国家認定鑑定師の免許も持っているのだ。
「まぁ特殊魔法部隊の隊長なので鑑定魔法ぐらいは持ってるよ」と普通に言われたが、結構何でも出来る器用な人なことが判明した。
ちなみ全属性魔法使いのクラメンスさんは素材を鑑定した後の片付け(焼却作業)も担当してくれている。
「エドナード、この鑑定済の素材さっさと倉庫持っていけよ。次の置き場がねーじゃんか!」
「ああ、すまんすまん。流通先への手紙を書いていたんで」
「ぶっちゃけもう一人か二人ぐらい助っ人欲しいよなぁ……これ……」
「だなぁ……、でもコレ言えないだろ……」
「だな……」
床に並べられた、シルビーが狩って来た素材の山と、俺が『複製』で出したミスリル鉱石と、小さめの宝石類の山を見て二人が、腕を組みながら遠い目をしている。
希少価値の高い大粒の宝石の『複製』は値崩れの恐れがある為、行ってないが、小さめの安価なダイヤモンドやルビー、サファイア、エメラルドやトパーズの『複製』も行っている。
市井で売っている1万から5マン程度のアクセサリーに使用されている宝石類だ。
これが結構人気らしく、隣国への貿易でも結構な売上が期待出来るらしい。
いくら、貧乏救済の為とは言え正直俺は『複製』で出した鉱石や、宝石をそのまま売ることにちょっと罪悪感を感じていた。
この計画は「赤字が解消されるまで」と条件は決められてはいるものの……
「エドナードさん、クラメンスさん、この鉱石ってさぁ剣とかカトラリーに俺が加工した物を売るのはダメなんですかねえ?」
俺は悩んでいたことを二人に聞いてみた。
「加工か……」
エドナードさんが少し渋い顔をした。
「エドナード、俺が話す」
そう言ってクラメンスがエドナードさんに言う。
「アレックスくん、君の気持ちは物凄くよくわかるし、大事なことだ。ただ、これは大人の理由で本当に申し訳ないんだけど、この『複製』したミスリルを使うことによって、ただお金に変えるだけじゃなくて、国内産業も同時に発展できるんだ」
「?」
俺の雰囲気を察したエドナードさんが続けた。
「今まで素材が高額で加工できなかった職人達が、安価な素材を手に入れることによって彼らが仕事をしやすくなる。材料が安価になれば販売価格が抑えられ、市井の者が手軽に購入出来るようになる。そうすると需要と供給が高まり自然と経済が発展していく。それが狙いでもあるんだよ」
「なるほど……すいません俺の安易な考えで……」
「いや、アレックスくんの純粋な気持ちを利用しているのは俺達だからね。その能力を俺達は利用して経済の発展をしようとしている。責めを負うのはアレックスくん君じゃないよ。悪いのは俺達だ」
「ごめんな。アレックスくん。嫌な思いをさせちまってな……」
そう言って二人に謝られた。
「俺達だっていつまでも、こんなズルっこみたいなことを続けるつもりはないから安心して?」
そう言ってエドナードさんが優しく俺の頭を撫でてくれた。
「エドナードなら影でやりかねんけどな。シルビーくんと結託して」
そう言ってエドナードさんを揶揄うクラメンスさんを見て俺は、辛い思いをしているのは俺だけじゃないんだな。ずっと側でマイナスの数字を見続けて来たエドナードさんの苦悩が少し分かった気がした。
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