58 新たなる影(2)
昨夜のうちに無事浄化作業を終えた俺達は出来上がったポーションを手分けして、領民へ配る作業をしていた。
そこへ、町へ探索に行っていたシルビーが戻って来た。
シルビー!
「どうですか? 様子は? シルビーくん?」
ギルバードさんがシルビーに聞く。
『クラメンスをここに!』
ギルバードさんはシルビーの言葉を受け、直ぐにクラメンスさんを呼びに行った。
その後、俺達はクラメンスさんの執務室に入り、町の様子をシルビーから話を聞くことにした。
「シルビー様より、我が隊員への気配探索魔法の伝授された者達による定時連絡によりますと、別段気になる気配は未だあらずとのこと。引き続き、探索できる者総動員で探索させております! 少しでもその気配探査に何か掛かったら即刻連絡するよう伝えております!」
緊張した表情でクラメンスさんが答える。
いつになく俺達全員は張り詰めた雰囲気の中、各自の報告を静かに聞いていた。
『邪気の源であるが…………』
いつもはっきりした態度で、迷うことなど一切ないシルビーが続く言葉を濁した。
それに俺は違和感を覚え、シルビーに問い正した。
「シルビー? 何か思うことがあるんなら、言って?」
『──あくまでもこれは我の推測であるが……邪気の源は、もうこの領内を去っておる気がするのじゃ……』
「「「え?」」」
俺達三人は同時に驚きの声を上げた。
「どういうことかい? シルビーくん?」
ギルバードさんが、いち早く冷静になりシルビーに聞く。
『これはアレックスの村でも同じじゃったんじゃが、我が邪気を浄化した後、その場だけではなく、その後も邪気の気配が一切消えた。アレックスの育った村は小さいゆえ、範囲が狭いから我の浄化が村全体を覆って消滅させたのかと? 我も思いその時は敢えて言わなんだが、それと同じ現象がこの領地でも起こっておる』
『我が浄化を行ったのは川の表面だけだ。検証するゆえ敢えて川面だけにした。それなのに、川面を浄化しただけで、全ての邪気が消えた』
『あれだけ濃くこの領全体を覆っていた邪気が一瞬にして消え去った。アレックスの故郷と違い、この地は何倍もの大きさだぞ。そして、浄化を終えてからかなりの時間が経過しておるのに、再び邪気が現れる様子もない』
「え? じゃぁ、クラメンスさんの領は助かったってこと?」
俺がみんなの沈黙を破りシルビーに聞くと
『邪気の原因がわからぬゆえ、完全に安全とは言い難いが、現時点での危険は薄くなったと言える』
「良かったーーーー!」
俺はシルビーの言葉に思わず喜びの声を上げた。
『アレックス、喜ぶのはまだ早いぞ。一瞬で邪気が大量に溢れ、町全体を一気襲う力を持つにも関わらず、浄化すれば一瞬で消える邪気……』
『自然の成すこととは考え難いな……』
『これで誰かの手による物だと言う線が濃くなったことになる。そして、一つ言えることは、その邪気を放った者は移動していると言うことだ!』
「「「え?」」」
「────シルビーくんの先程の話しから言うと、その仮説が一番納得できますね」
ギルバードさんが、腕を組みながら真剣な表情で言う。
普段の優しい表情は消え、深く何かを考え込むような表情だ。
「これだけの短時間に同じ現象が、これだけ離れたところで起きたと言うことを考えたら、ちょっと……」
クラメンスさんが神妙な面持ちでゆっくり呟きながらも、言葉の最後を濁す。
『クラメンス、思うとることを申してみよ!』
シルビーが低く、はっきりした口調でクラメンスさんに言う。
「は! 私の推測で言うことをお許し下さい。これだけの短時間で、この距離を移動出来、瞬時に広範囲に邪気を放てるとしたら、人間の成せる技とは考え難いかと!」
全員が沈黙した。
重い空気が漂う中、沈黙を破ってシルビーが低い声でゆっくり呟いた。
『我もクラメンスと同じ考えじゃ』
シルビー?
クラメンスさん?
人間じゃないってどう言うこと?
『そのままの意味じゃ』
え?
『人間とは異なる者、自分の意思で瞬時に動くことが出来る者、そして邪悪な心を持つ者』
「──魔族?」
クラメンスさんが小さな声で呟いた。
まるで、自分の言葉を疑うかのように自信なさそうに……
魔族??
『現時点で断定することは出来ぬが、魔族か、それに近し存在? 邪心を持つ者』
『邪心?』
『フッ……』
『まさかな……』
何処か遠くを見つめ、考え込む表情のシルビーの姿を俺は見て、
これから起こるかもしれない何かに不安感を抱いた。
ギルバードさんが、そっと俺の肩に手を乗せ小さく頷いた。
「お忙しい中最後までお読み頂き大変有難うございます」
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