56 忍び寄る影(3)
アレックス達からの手紙が届き、王宮内の一室では緊張で張り詰めていた。
「…………得体のしれない邪気か。なんとものぅ……」
「クラメンス、取り敢えず精鋭数名を連れて直ぐに向かってくれ」
国王陛下の顔も、何処かしら不安の色が見えた。
「御意!」
クラメンスは小走りで出て行った。
「聖獣様が邪気と申されるのであれば間違いないでしょうねぇ……」
宰相であるエドナードが陛下に言う。
「ああ、だがその出所がわからんのもなぁ、聖獣様と神の子の力を持っても出所がわからんとなると……事態はかなり深刻と見た……」
そう言って国王は腕を組み眉に深い皺を寄せた。
「念の為に第一騎士団も数名向かわしましょうか?」
「状況がまだわからんからのぅ……ギルバードの次の報告を待ってからじゃ」
「承知しました」
「何か必要な物があれば、いるだけ用意すると伝えておけ」
「御意!」
そうして、部屋に一人きりになった、国王アルフレッドは、神の子アレックスと、聖獣シルビーの力を今回も信じることにした。
「頼んだぞ! 神の子よ! そして神の子を守って下さい。御使い様!」
────「何かわかりましたか?」
ギルバードさんが村長さんに聞く。
今、この村では村長さんを中心に、村人の代表者に手伝ってもらい、病気になった人や、農作物を作ってた人に、色々と聞いて周る調査をしている。
変わったことがないか? いつごろから症状が出始めたか? などをみんなに聞いて周り、小さなことでも、何かきっかけとなった物を探している作業をしていた。
そして、俺とシルビーとギルバードさんは、村の中の怪しい場所を探す作業中だ。
『アレックス危険だから絶対ギルバードの側をハグレるなよ!』
邪気の原因を探している為、危険が伴うと言うので、俺はギルバードさんと二人セットで探索中だ。
そして何か、おかしいと思えば直ぐに念話で話すか、シルビーが得意とする結界魔法に俺が『水の子』を使用し、その魔力に干渉すれば、俺たちの居所がわかると言われ、いつでも『水の子』を発動できるようにイメージを頭に描きながら探索中だ。
『アレックス聞こえるか?』
シルビー? うん聞こえるよ
『今、我は村の北部、隣の村に続いておる川の上流に来ておるんじゃが、ここには先日の邪気が見当たらぬ』
え?
邪気が無くなったってこと?
『いや、そうではないな。これは。元々上流には邪気がなかったのではないか? と推測される』
『我が浄化したのは村に流れて来ておる川の下流付近だけだ。上流付近は敢えて残しておいたのだ』
『川自体に邪気が宿っておるのなら、川全体に邪気が充満しているはずじゃ。ましてや、上流に邪気がないのに下流にだけ、強い邪気があるのは、おかしかろう?』
「なるほど……川は上流から下流へ向けて流れるのに、上に邪気が無いのに、確かに下だけに邪気が発生すると言うのは何とも奇妙ですねぇ」
ギルバードさんが言う。
『おかしいと思わぬか? ギルバードよ?』
「シルビーくんの、言う通りですねぇ……下流だけ、この村だけを狙ったようにも……」
『我の見解もそうじゃ』
え?
この村を狙う?
何で?
こんな何もないような村を?
『そこなんじゃ。我も腑に落ちんのは。この村を狙う必要が何処にあるのかが? わからん。それに、変化が現れ出したのは10日程前ごろとな?』
「村の者達の話ではそう言っておりますね」
『その頃に何者かが、この村に潜入して、川に異物を投げ入れたと考えるの妥当かとは思うが、動機と、証拠がない』
「誰が何の為にそんなことをしたか? ってことですね?」
『左用! それがわからぬと、根本を叩くのが難しいかもな』
動機かぁ……
村長さんに話す?
「私から説明しましょう」
『そうだな。ギルバードに任す』
「何か小さなことでも、心当たりがないか再度聞いてみましょう」
俺達は一旦村に戻り、ギルバードさんが村長に先程の話をした。
村長さんも驚いていたが、この村が誰かに恨まれたり、妬まれたりするようなことは考え難いと言う意見は俺達全員が一致していた。
誰が何の為に? 何故この村に?
疑問だけが残る調査となった。
この結果にシルビーが一番、納得出来てない様子で、原因が解明できないことへの不満が溜まっていた様子だった。
まるで、俺達は先の見えない深い霧の中の迷路を迷っているかのような感じだった。
────そして、この村とは別のところでも、同じような異変が起きているとの知らせを俺達が受けるのは、この日から直ぐの五日後のことだった。
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