55 忍び寄る影(2)
俺は今、ギルバードさんに手伝ってもらいながら、災害の時と同じ要領で大量のポーションを作っている。災害時の経験を生かして、半数は薬草畑で栽培し、残り半数はアイテムバッグに入れて常にいつでも作れる状態にして持ち歩いている。
そして、災害時に大量に作り置きしていた樽を出し、その中に回復ポーションを入れる作業を行っている。薬草をすり潰す作業を、村長さんと、ギルバードさんが行ってくれる為、一度に大量に作ることが出来る。
村長さんには王都の魔道部隊の魔道士だということにしていた。
これはクラメンスさんからの提案で何かの時には、そう名乗るように予め先日の話合いで決まっていた。
念の為「王立特殊魔道部隊、開発部専任管理官」などと言う、いかにもらしい肩書きまで作った。
陛下の計らいで、ちゃんと身分証まで作って貰い用意周到だった。
「まさか、こんなに早くにコレが役に立つとはなぁ……」
俺の呟きにギルバードさんも苦笑いした。
しかし俺みたいなガキが、こんな大層な肩書きおかしくないんだろうか?
俺は未だに思っている。あの時、陛下をはじめ、みんなノリノリで肩書きを考えていたけれど、俺は内心それはヤバイんじゃないの? って思ってたが、なんとなく言えない雰囲気だった。
だってシルビーが「神の子だぞ? ふさわしい名にしろ!」って半分脅しのような……
「どうかしましたか? アレックスくん?」
「いや……こんな大層な肩書きをつけて逆に変に思われないですかねえ?」
「あぁ、そのことですか? それなら大丈夫ですよ。魔道士には年若い研究者や、見習いがいるのはおかしいことではないですからねぇ。剣士とは違って、魔法は生まれながらの才能なんで、年はあまり関係ないですからね」
そう言ってギルバードさんが、にっこり微笑んだ。
「俺には魔法の才能は全くなかったけどね」
そう言って苦笑いした。
「それでもAランクのパーティーの剣士なんて凄いです!」
「いや、俺の場合は周り優秀だったから、ほら?」
再度苦笑いしながら、頭をかいた。
シルビーの命令で俺は留守番となり、ここでずっとポーション作りに励んでいた。
ギルバードさんをここに残したのは、俺達に万が一何か起こった時の護衛だった。
ギルバードさんは元Aランクの冒険者で、今は辞めてしまったと言っても、頼りになる存在だった。
冒険者を辞めた理由は詳しくは聞いてないが、奥さんと息子さんを事故で亡くした時に、冒険者も辞めてしまった。と聞いてそれ以上は俺も聞かなかった。
ポーションを詰めた樽が出来次第、村長さんが村人に配布してくれていて、少しづつ動ける村人も増えてきた。
そうしているとシルビーが戻ってきた。
シルビー何かわかった?
『まずいな、早くなんとかしないと……』
どうしたの?
『村全体に邪気が充満しているだけじゃなく、コレを見てみろ!』
俺はシルビーから魚が数匹入った桶のような物を渡された。
それはこの辺の川なら何処にでもいる魚だったが、それは本来の色と違い、鈍い青色をしていた。
本来この魚は濃い灰色からこげ茶色に近く、こんなに青いのは初めて見た。
これは?
『原因は村の端にある川の水だな』
え?
どういうこと?
『山の中の他の獣や、鳥たちは問題なかった。ただこの強い邪気のせいで、獣達も元気はなかったが、生態自体に変化が見られなかった。そして今のところ山の木々にも異変は見られてない。ただしこのまま邪気に覆われていると、木々にも影響が出るだろう。実際、村に近い山の麓では少し侵食されている場所があった』
『そして、この水だ。ここから強烈な邪気を発している』
え?
何で川の水に邪気が??
『何かこの村に原因があって川がそうなったか? 何者かの手によって故意に、川へ悪質な邪気を纏った物が流されたからか? それに山々への被害があまり出ていないのに比べ、村に流れる川だけ、村の中に被害が集中しているのも気になる』
『川の水を使って農作業をしたり、生活用水に使用したからなのはわかるが、まるでそれを……アレックスお前が王都に来て三年と言ったなぁ? 確か?』
うん
『三年前いた時に比べ、この村に大きく変わっているところはあるか?』
いや……俺には変わったところがあるようには思えない。
「村長さんに聞いてみたら? アレックスくん?」
ギルバードさんが言う。
そうだね。それがいいかも。
ギルバードさんの提案により、俺たちは一旦、村長さんの所に行き、先程の話を村長さんに話し、変色してしまった魚を見せた。
村長さんも、その魚を見て驚いていた。
村人や、作物が急激に病気になったり、枯れたりしたのは、この水を飲んだり、作物に与えたからかもしれないと言うことが濃厚になったからだ。
村長さんが言うには、ここ数年で特にこの村で変わったことは何も起きておらず、心当たりは全くないとのことだった。
「見ての通りなんもない村じゃからなぁ……」
村長さんも困り顔だ。
「アレックスくんがこの村を出てから、村人もどんどん減っては来ているが、こんな村じゃしなぁ。新しい人が来ることもなく……何か変わったことと言うのも……」
……心当たりはなさそうだ。
村長が嘘をついているとも到底思えないし……
俺たちは、この奇妙な現象に頭を抱えた。
『新しく変わったことがないとなると、厄介よのぅ。何処からその邪気の源が入ってきたのかがわからんと』
ねぇシルビー今はその川はどうなってるの?
『我が浄化してきたゆえ、今のところは問題ないが、あくまでも表面上に過ぎん。邪気の源がわかってないゆえ、いずれまた邪気が発生する可能性があるやもしれぬ』
『このまま浄化された状態がすっと保てれるのか、時間が経てばまた邪気が発生するのか? 源がわからんゆえ、現段階ではわからぬ』
そうなんだ……
『邪気の源となるものを見つけ、封印せねばな。瘴気は浄化させば鎮まるが、邪気は違う。邪気は邪悪な物から生みだされた気』
『その邪悪な物を封印しなければ、完全に断つことは難しいのじゃ』
事態は思ったより深刻だと言うシルビーの言葉に、俺たちはこの村にもう少し滞在し、この異変の原因を探ることにした。
そしてギルバードさんの提案で、この件を王都のエドナードさんに知らせる手紙を書くことにした。
『最初から村人を狙うが如く……』
誰にも察知できない程の僅かな囁きが、夕暮れの茜色の空に消えていった……
◆◆◆
────「まさかこんな小さな村で、あなたの下僕に会うとはな……」
「とんだ邪魔が入ったな。僕の計画を邪魔する狼め!」
「ふん。まぁいい、この村にもう用はない。次は何処にいこうかな……」
「アハハハハッ アハハハハッ 僕を堕とした償いをさせてやるよ。あなたにね……」
アレックス達が気づかないところで、新たな影が着々と忍び寄っていたのだった…………
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