41 ばらしちゃった
俺たちは今、ギルバードさんに付き添われ、王宮の廊下を歩いている。
先日の招待の件だが、考えた結果受けることにしたら、その日が今日に決まったからだ。
俺は、初めての王宮にちょっとソワソワしていた。
「ここだよ」
そう言ってギルバードさんに案内された部屋は、俺が思っていたような、金キラ、ピカピカの部屋ではなく落ち着いた雰囲気で、こじんまりした部屋だった。
「君が、ギルバードの遠縁にあたると言う子かい?」
そう言って俺に、金髪で長身のキリッとした目が印象的な男性が話しかけてきた。
俺がちょっと驚いているのを見て、
「ああ、すまない。俺はギルバードの友人のエドナードだ。取り敢えず座ってくれ。陛下はちょっと急ぎの執務をされていてねぇ。直ぐにこちらに、おいでになるから、少しだけ待ってくれるかい?」
「アレックスです。よろしくお願いします」
俺は短めに挨拶した。
冒険者は基本的には国の政治や、国家権力には属さない。
独立した立場であり、国への義務もないかわりに、国からの保護も基本的にはない。
だから、国の官僚や、王に対しても謙る者はいない。
あくまでも、冒険者はその国に定住しているわけではなく、旅人と言う位置づけであり、納税の義務もない。
だからって俺は横柄な態度をとるつもりはないけどね。
暫くすると、ドアが開き立派な身なりをした男性が入ってきた。
背が高く、銀髪で少し髪は長め。髭を生やしているその男性は一目見ただけで、国王陛下だと推測できるほどの、雰囲気を持っていた。
ギルバードさんと、エドナードさんが、ソファから立ち上がった為、俺も立とうとしたら
「座りたまえ」と陛下はギルバードさんに言った。
ギルバードさんが、その言葉に従いソファに座ると、陛下が
「君が、そこにいるギルバードくんの遠縁にあたる、アレックスくんかい?」
陛下が優しい目で俺に言った。
「はい。アレックスです。今日は招待していただき、ありがとうございます」
俺が挨拶すると、俺の上着の胸に隠れていたシルビーがいきなり顔を出した。
おい! おれは心の中でシルビーに注意した。
最小型化しているシルビーは俺と話すことはできないからだ。
「おや? そこにいるのが? 聖獣様かい?」
すると、シルビーが俺の上着からトンッと床に飛び降り、本来の姿になった。
『如何にも』
シルビーは、いつにない威圧感を発した。
シルビー!
『王よ! 我らを呼んでおいて待たすとは何故じゃ? 我らは好んで来たわけではないぞ?』
シルビー! やめろ!
『アレックス! 黙っておれ! 我らは、こやつらの下ではない! 国を助けた我らに対して無礼であろう! 呼んだのはお主らだ! 返答次第では王宮ごと木っ端微塵にしてくれよう』
シルビー!
国王陛下が立ち上がり、シルビーに深く頭を下げた。
俺がそれにビックリして止めようとしたら、
「いや、悪いのはわたしだ。聖獣様のおっしゃる通りでございます。此度の件は聖獣様のお陰で、被害を最小限に食い止めれることができたと言うのに、とんだ無礼を働きまして、誠に申し訳なく存じます」
「やめてください陛下」
俺は必死で陛下に頭をあげるよう促し、シルビーを諌めた。
シルビー! いきなりなんだよ! その態度!
『アレックスお主、何か勘違いしておるようじゃが、聖獣と王なら聖獣のほうが立場は上ぞ!』
え?
『聖獣は神の使い。国王だろうが、皇帝であろうが、我の下である』
ええええ?
シルビーってそんなに偉いの?
『聖獣だからな!』
「聖獣様のおっしゃる通り、我々は神に仕える身、そして神の使徒である聖獣様は、謂わば神と同じような御方」
うそーーーーーーーーーん!
あのぐうたらでリンゴばかり食べているシルビーが?
シルビーが俺を睨んだ。
「聖獣様、無礼をお許しください。復興に関する緊急資金追加の書類にサインを急がれまして、遅れた次第でございます」
『今回だけは、ここにおるアレックスに免じて許す。それと、何か勘違いしておるようだが、我が国を救ったのではないぞ? ここにおるアレックスが救ったのだ!』
ちょっ! シルビー!
「「「え?」」」
陛下がビックリした顔をした。
隣にいた、エドナードさんも同じだった。
『ここにおるアレックスはただの人ではない、水の神の愛し子 水の子である!』
ちょっと! シルビー!
「え?」 ギルバードさんも驚いたようだ。
ちょっとシルビーなんで言うんだよ!
俺の声を無視し続け、シルビーは更に続けた
『今回の災害の気配を感じ取ったのは確かに我であるが、我が張った結界をより強固な物にし、大川の氾濫を鎮め、大洪水になるのを未然に防いだのは全てこやつ、アレックスの働きだ!』
「なんと……」
場が静まり返った。
『今回提供されたポーションの全ても、こやつの手による物』
「え? ポーションも?」
ギルバードさんの隣にいた、特魔の制服姿の男性が驚いた様子だった。
『礼をのべるなら、我ではない! ここに居る神の子であるアレックスにだ!』
「神の子…………」
ギルバードさん含め、ここに居た全員が絶句した。
シルビーーーー!
なんてことしてくれたんだよ!
なんで『水の子』のことまでバラしちゃったんだよ!
『アレックスお主何を言っている? ここに来たのは、もうコソコソするのを止めたからではなかったのか? 水の子は隠れないといけないことか? いや違う、神が与えし天賦の才! お前は神に選ばれし者。誇ることはあっても、恥ずべきことではない!』
だからと言って……
「聖獣様のおっしゃる通りだよ。アレックスくん。俺は君のためを思ってポーションの製作者が君であることを隠していたが、本来それは国にとって崇める存在であり、隠すような存在ではないはずだ」
「君のその神から与えられたと言う能力は絶大な物だと推測するが、それを私達に授けてくれる君は、誇るべきで、隠れるようなことは君はしてない!」
「ギルバードさん……」
「アレックスくんと呼ばせてもらっていいかな?」
陛下が俺に言った。
「はい。勿論です!」
「アレックスくん。壮大過ぎる力によって、君が臆する気持ちは、国王である私にはよくわかる。だが自分のその力は、それを使うだけの資質があるから、授かっていると私はいつも思っているんだ」
「だから決して隠す必要はないんだよ? それに、その力を無理に私欲で手に入れようとする者がいたとしても、神の力を有する君の前に、何が出来ると言うんだね? 我々ただの人間が」
「恐れる必要なんて何処にもないんだよ? 勿論隠れる必要もね? そうだろ? 勿論、私も含め、君の存在は、国で絶対に保護するのは約束するよ」
国王陛下が俺に優しく言ってくれたが、場の雰囲気は重苦しいままだった。
「良い時間にもなったことだし、ここいらで一旦休憩にするかな? 食事を運ばせよう!」
国王陛下が笑顔で言われた。
俺は国王陛下の、一片の迷いない強い意志と、信念を感じさせる目を見て、これが国の頂点に立つ人なんだと改めて尊敬した。
「お忙しい中、最後までお読み頂き、大変感謝しております。」
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