29 崩壊
アレックスが焼きリンゴを作っていた頃、冒険者ギルドでは小競り合いが続いていた。
────「俺達が落ちた……この俺達が」
「お前のせいだろ! まったく弓はあたんねーし!」
「何だと? このヘボタンクが!」
「それに、なんだよ! 直ぐに体力切れるし!」
かつてアレックスが所属していた『暁』のパーティーメンバーが揉めていた。
「マルセルのMPは直ぐ切れるし!」
「お前達、前衛がダメージ受けまくるからだろ!」
「俺のせいにするなよ!」
「お前が、下手くそだからだろ!」
「俺達が、必死で命の危険をおかして戦ってるってのに、後ろで隠れてチョコチョコと、へぼいヒール唱えやがって」
「全く足りてねーーーーし!」
「なんだと! 人が回復してやってるのに!」
「こんなパーティー抜けてやるよ!」
「ああ、お前なんかいらねーよ!」
その醜態を、他の冒険者は冷ややかな目で見ていた。
「これで『暁』は終わりだな……僧侶も抜けたんじゃな」
「元々その程度の実力だったんだろ? 運よくDまでたまたま上がれたから、勘違いしてただけだろ」
「違いねぇ」
「ハハハッ」
「ガキが調子乗ってイキがってただけの話しさ」
「何だと? てめーーら! 俺様を誰だと思ってる?」
『暁』一番のプライドの高いリーダーブラッドが、陰口を叩いていた冒険者に噛み付いた。
「なんだぁ? ガキ? ガキはお家帰ってママのおっぱいでも飲んでろよ?」
「ここはお前らみたいに、乳くせぇガキが来るところじゃねーんだよ!」
「わかったらゴミは、さっさと出て行け!」
「なんだと!」そう言ってブラッドが、その冒険者に手を挙げた瞬間。
ドスン!
ブラッドは床に転がされていた。
「まぐれで上がって来た、たかがDランクのガキが俺に手を挙げるなんか10年早えーんだよ! わかったらさっさと出て行きな!」
「そうだ! そうだ! 出て行け!」
「出て行け! ガキが!」
周りの冒険者も、ブラッドを罵る。
ブラッドはその冒険者達を睨みつけ、そそくさとギルドを出ていった。
「お、おい! 待てよー」
「待てよ! ブラッド!」
急いで後を追いかける『暁』のメンバー、ゼントと、フレドリーの姿があった。
「これで、すっきりしたなぁ」
「ああ、あいつらの横暴は最近目につくものがあったしなぁ」
「関係ない飲食店の店員や、ギルドの職員にも、横柄な態度だったしなぁ」
「ガキがちょっと運でランクが上がったせいで、勘違いしちまったんだろ」
「ハハハッ」
────
シルビー焼きリンゴできたよー戻っておいでー
急いで走ってくるシルビーを見ながら俺は苦笑いした。
そんなに急がなくても、焼きリンゴは逃げないよ?
『焼きリンゴ食う』
わかったって
まだ熱いよ?
気をつけて食べるんだよ?
俺はシルビーに焼きリンゴを出してやった。
『熱!』
だから言ったじゃんか!
『ハフハフッ』
『おかわり!』
シルビー毛にハチミツついてるってー
もぅ。しょうがない子だなぁー
そう言って俺は、おかわりの焼きリンゴをやった。
これで最後だよ?
太るよ?
『ハチミツは誰が採って来た?』
脅しても無駄!
ダメなものはダメ!
あんまり甘い物を沢山食べるのはダメなの!
また、作ってあげるから!
そんなに欲しいならリンゴ食べなよ。
まだあるから!
『リンゴ!』
俺は苦笑いしながらリンゴをシルビーに投げてやった。
リンゴの苗1本しか買わなかったけど足りるかな……
ちょっと心配になった……
『おい! リンゴの苗にお祈りしに行け!』
は?
『美味しいリンゴ沢山できるように!』
さっき植える時したよ?
『念のためもう一回しとけ! その水の子とやらで!』
えええ?
『ほら! 行くぞ! アレックス!』
お前どんだけリンゴ好きなんだよ……
仕方なく俺はフルーツを植えたところに行き、ついでだから、リンゴ以外の他の苗木にも
念じてみた。
「美味しいフルーツいっぱいなれ!」って
こんなんで本当にいいのかな?
『水の子』をこんなことに使っても……
シルビーのリンゴの為に……
シルビーこの後は働いてもらうからね!
まだ、家の中全く出来てないんだから!
今日からは中を作って行くからね!
ちゃんと働いてよ!
『終わったら焼きリンゴな!』
どんだけリンゴ食うんだよ!
『違う! 今度は焼きリンゴだ!』
『運動するから大丈夫なのだ!』
『焼きリンゴ食うのだ!』
わかったから……
ちゃんと頑張って働いたら作ってやるって!
その後、恐ろしいまでの早さで、黙々と器用にアレックスが切りそろえた木材を運び、並べて行く無類のリンゴ好きのフェンリル様の姿があった。
『リンゴ』
『リンゴ~』
『焼きリンゴ~』




