13 湖の住人
俺は早速防具を身に付け、昨夜用意してあった荷物を背負い、家を出た。
一応念のため、自分で作ったポーションを何本かを自分用に残し、残りをギルドに納品してから森に行くことにした。
出かけるので、鑑定結果とお金は後で受け取りに行くことにした。
俺のこの格好にちょっと驚かれたが、薬草採取に近くまで行ってくると伝えると、笑顔で見送ってくれた。
この格好をするのも久しぶりだな……
久しぶりのこの感触。
新しく生まれ変わったかのように、自分の真新しい防具や剣を見てワクワクする。
そして『水の子』を使用するという期待感。
全身に力が漲ってくるような錯覚さえ覚える。
俺は久しぶりの冒険者ギルドをドアを開けた。
「あら? アレックスさん? どうしたのその格好?」
受付嬢のコニーさんに声をかけられた。
「ちょっと、素材集めに行こうと思って、まあ装備は念のため……」
「素材集め? 何の素材を?」
「コニー! いい加減にしなさい! 冒険者に根掘り葉掘り聞くのは御法度よ!」
隣に座るリオンさんがコニーさんを諌めた。
俺は苦笑いしながら、ギルドカードを提出した。
ギルドで予め登録して置くと、門を出るときスムーズに出れるのだ。
「日帰りの予定で大丈夫ですか?」
「そうですね。それでお願いします」
ギルドカードを受け取って、コニーさんとリオンさんに礼を言って、俺は早る気持ちを抑えながらギルドを飛び出した。
門までの道のりも今はもどかしく感じる。
無事、門を出ることが出来た俺は森へと急いだ。
「ここに来るのは久しぶりだな……」
俺は「魔の森」の入口に来ていた。
「よし! 『水の子』頼んだぞ!」
剣を握る手に力が入った。
森をどんどん歩いて進む。
途中、小さな魔物を数体、剣で切ってみた。しっかりと水を纏うように念じて
まるで、豆腐を切るような感覚でスパスパ斬れる。
「凄いな……『水の子』って」
ガサッ ガサッ
ドス ドスッ
バキバキッ バキッ
向こうの影から大きな音がした。
木々を踏みつける音だ……
大物か?
一気に緊張が高まる。
落ち着け俺……
深呼吸だ。
俺は今までとは違うんだ……
剣を握る手も汗でビッショリだ。
背中からも汗がダラダラ流れている。
息が荒くなって、呼吸が早くなる。
落ち着くんだ。
あんな大木だって、すんなり切れたんだ。
だから大丈夫だ。
『水の子』の力は無限だ。
だから何の心配もない。
俺は目を瞑りイメージした。
俺の剣が水飛沫を上げ、敵を切り倒すのを。
よし! いける!
「頼んだぞ『水の子』」
俺は意を決して前に出た!
熊だ!
大きな熊がいた!
怯むな俺!
イメージ通りに振り抜け!
「行けぇーーーー『水の子』」
「水を纏え!」
すると、剣から凄まじい水飛沫が飛び散り、辺り一面に水蒸気が舞い
視界が真っ白になる。
俺は気にせず
一気に熊に向かって走った!
何も考えず、
さっきイメージした通りに思いっきり熊を斬りつけた!
「『水の子』行けぇーーーーー」
バシン!
バシャッン!
ドババババッ
シュン!
ドスンッ……
殺ったか?
俺は、ゆっくり深呼吸し、息を吸い込む。
止めていた呼吸のリズムが戻ってきた。
恐る恐る目線をゆっくり下げて行く。
そこには、真っ二つに分かれた熊の残骸があった。
「やった……俺はやったぞ! ついにやった……」
「よっしゃーーーーーー!」
そう叫んだ瞬間、足がワラワラし
足が震えて立てない。
足に力が入らない。
手もガタガタ震えている……
そのまま尻餅をついた俺は目の前にある
熊の残骸を再び見つめる。
「俺はついに……」
震えが止まらない。
カラン
無意識に手から剣が落ちていた。
「ハハハッ凄いな、お前。ありがとな『水の子』」
自分の手をゆっくり見ると、まだ震えていた。
しかし『水の子』かぁ……
まるで、こんにゃくだったな。
やっと自分を取り戻し、
立ち上がる。
そして、もう一度
大きな残骸に目をやる。
再び深呼吸をし、
歩き出す。
よし、確かこの辺りだったはず……
目の前の道が開けて来る。
水の匂いがする。
この先に確か湖があったはず。
あった!
あれだ!
あの湖の近くに確か生えていたはずだ。
ゆっくりと湖に向かって進む。
物音を立てないように気遣い歩く。
緊張感が増す。
以前ここに来たときに、多くの魔物がいて、俺達は急いで逃げ帰ったのだ。
森に唯一あるこの湖は危険だ。
多くの魔物たちが、水を飲みに集まる可能性が高くなるからだ。
だから俺は、必要な薬草を採取出来次第、即離れる予定だ。
幸いにも俺が欲しい薬草は、湖の手前付近にも沢山生えていたはずだ。
それを急いで採取しよう!
目的地まで、後数メートル。
バサバサ
バサバサバサッ
グアー ギャッー ギャー
パサパサパサッ
鳥達が一斉に上空に飛んだ。
マズイ! 気づかれたか?
グァーーーー ググーー グォーーーー
なんだ? この音は……
初めて耳にする音だ。
魔物?
少し視線を右に向けると大きな黒い岩がある。
あんなところに岩なんてあったっけなぁ?
この辺りは森を真っ直ぐ抜けたら湖まで松の木々に覆われていて、
何もなかった気がしたが?
まぁ1年も前の記憶だけどなぁ……
あの、辺りなんだけどなぁ……
薬草が生えてるのって。
困ったな。
あの大きな岩に潰されていたらどうしよう。
湖の辺まで行くのはあまりにも危険だしなぁ……
バサッ バサッ バッサッ
風が吹く。
?
バッサッ
バッサッ
??
その時、大きな岩が動いた!
え?
えええええ?
まさか?
うそーーーーん!
その大きな岩からキラリと金色の眼が光った!
ウギャーーーーーーーー!
俺は腰が抜けてしまい、その場にしゃがみこんでしまった。
足が笑って立ち上がれそうにない。
下半身に全く感覚がない……
もうダメだこれ……
いくら『水の子』と言えど
これはナイわ……
ちょっと『水の子』が使えるようになって。
ちょっと大きな熊を一撃で倒せたからと言って。
俺は自分を見失っていたんだ……
有頂天になっていた。
俺はバカだ。
調子に乗っていた。
ちょっと最近何でも上手く行き、
上級ポーションなんか作れるようになって浮かれていたんだ。
「ハハハッ」
あまりの恐怖が目の前にあると、
人は笑ってしまうって
本当なんだな。
「ハハハッ」
「ハッハッハッ」
恐怖のあまり俺は何故か笑っていた。
もうダメだ。
こんなの人間がなんとかできるわけない。
──まさかドラゴンに遭遇するとはな……
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