12 お買い物
翌朝、早起きした俺は久しぶりに防具や武器を扱う店に来ていた。
冒険者になったのは3年前だが、雑用係だった俺には防具はあまり必要なく、田舎から持ってきた簡易な物をそのまま使っていた。
剣など持っていなく、あるとしたらこの、どこにでもあるような安い短剣だった。
「確かこれって1000ペニーぐらいで買った特価品だったよな……まぁこんなんじゃ、冒険者なんて名乗れないよな……お荷物だって言われたあの時は悔しかったけど、こんな装備もまともに揃えてない俺じゃな……」
「すいません」
「あ? 何だ? お前?」
「すいません、俺に合う防具と片手剣を見繕って欲しいんですが……」
「何だ? お前冒険者か?」
「えぇ…まぁ……」
「何だ新人か?」
「えぇ……そんなところです」
「初めて狩りにいくのか? 坊主?」
「王都に来てからは……そんなところです……」
俺はなんとなくだが、罪悪感を感じて無意識に誤魔化した。
「ならちょっと待ってろ、探して来てやるから」
店主のおじさんが奥に消えていった。
冒険者として3年と言えば、本来なら新人の域を超えた頃だ。
実際に俺が前いた『暁』はDランクになっていて、近々Cランクの試験を受ける予定だった。
でも、それは俺の実力じゃなく、俺はただ、あいつらの言う通り寄生していたのかもしれない……
俺はみんなに甘えていたのかも知れないな……
みんなが狩りをしやすいように、前もって地図を調べたり、必要な物を買い揃えたり、ギルドと報酬の件や、クエストの交渉をしたりと……
おれがやってきた仕事と言えば、あいつらの言う通り、役に立っていなかったのかもしれない……
でもこれからは、もう「役立たず」なんて誰にも言われないように、俺はやる! って決めたんだ!
人に喜ばれる、みんなの為にこの「水の子」の力を使う! って決めたんだから!
「坊主、これなんかどうだ?」
と、言いながら店主のおじさんが、数点の防具を持ってきた。
「坊主の体型だと、この辺かなぁ。これなんかは伸縮性もあっていいぞ?」
「一番のオススメはどれですか?」
「そうさなぁコレかな?」
俺は、店主のおじさんが進める防具にした。
「あとは片手剣か?」
「はい! お願いします!」
「おうよ! なかなかいい目をしてるじゃねぇか坊主! 俺がとびっきりのを見繕ってやるよ! うーん新人ならこの辺かなあ」
と、言いながら3本程剣を出してくれた。
予算的に言うとなんとか大丈夫そうな感じだ。
「どれが一番いいと思います?」
「握ってみろ!」
「では、失礼して」
俺は剣を握ってみた。
「もっと腰を低くしてだな……大丈夫か? 坊主!」
「実は、今まで短剣が主だったんで……」
「片手剣は初めてか?」
「はい……お恥ずかしい話ですが……」
「まぁ、誰でも最初は初めてだしな! なら、練習用ならコレだな! 初心者向けで軽い作りだし、刀身も短めだ。あまり長い刀身の物だと初心者には扱えねぇからなぁ」
「わかりました。ではそれでお願いします! ありがとうございました。助かりました!」
俺は丁寧に頭を下げた。
「よし、坊主の門出をお祝いして、盾をプレゼントしてやるよ!」
「本当ですか?」
「おう!」
「ありがとうございます! 助かります! 大事にしますね!」
「いいってことよ。なんか坊主を見てると俺の若い頃をちょっと思いだしてな……まぁ、俺は坊主ほど素直じゃなかったけどな。ガハハハハッ」
俺は店主のおじさんにお礼を言い、支払いを済ませた。
「坊主、死ぬんじゃねぇぞ! ダメだと思ったら逃げるんだ! 命より大事なもんなんてねぇ! 逃げることは決して恥ずかしいことじゃねぇぞ! プライドなんか命に比べたらクソくらいだ! 絶対に無理はするなよ!」
「ありがとうございます!」
「おお! 頑張れよ! 剣や防具の修理もしてやるからな! 困ったことがあればまた来いよ!」
「ありがとうございます! では!」
初めて行った防具屋だったけど、良い人だったなぁ……
最近良い人に巡り合うことが多いな。
感謝しないとだな……
「よし! 明日に向けて寝る前にポーションを作ってから寝よう! 命は大切だしな!」
そして俺は、水耕栽培している薬草を採取し、ポーション作りを始めた。
「こんなところかなぁ。結構の量できちまったなぁ……おかしいなぁ? 俺一人分だけと思って、薬草の量かなり少なめにしたはずなんだけどなぁ……?」
テーブルの上には、てんこ盛りのポーション瓶が出来上がっていた。
「ハハハッこれどうしよぅ……」
「明日は森に行くしなぁ……行く前に仕方ないからギルドに寄ってから行くか……」
この時、アレックスは気づいていなかったのだ。
アレックス自身で出した「神の力『水の子』の水」の中で栽培した薬草で、神の力『水の子』を使用して作ったポーション。
効果が同じになるわけがないと言うことを……
このことが後々大波乱を起こすことになるのは、まだ先の話……




