菓子と共に去りぬ
ここはちょっぴり可笑しいお菓子の世界です。
今正に、この世界は群雄割拠の乱世と化しているのです。
中でも一番大きな勢力と言えば、圧倒的な国力を有する【チョコレート王国】です。
先代であった『カカオ大王様』は、温厚で平和的な考え方の御仁でしたが、その後継となったのは、世界征服の野望を抱く『ショコラ王子様』でした。
彼が統治する国となってからは、近隣の国々を武力で支配する事ばかりに執着し、次々と領土を拡大して行きました。
しかも、子供であろうが大人であろうが、そこは皆大好きチョコレートです。その為、誰しもが特に文句の声も上げず、界隈の国々は【チョコレート王国】に無条件で従うのでした。
後は『ショコラ王子様』のほんのりビターなイケメン容姿で、女性層の支持はバッチリ獲得していますので始末が悪いのです。
また、二番目に大きな勢力であるのが【クリーム帝国】です。
快進撃を続けるこの国でも、ケーキやシュークリーム等の武器及び兵器を使用し、まったりと蕩ける様な幸せ気分にて国民を洗脳し、誠に上手く懐柔する手法を取っていました。
そして、何よりもこの国を治める『ホイップ王女様』の超絶スウィートな愛らしさに、誰も彼もが(※但し八割方が男性である)メロメロになっているのです。この辺りは【チョコレート王国】とやり口が酷似していると言えましょう。
そして、先の二カ国の動静をじっと見守るのは、虎視眈々と全国制覇を目論む第三勢力の【スナック菓子共和国】です。
こちらの国では、とても好戦的な『ポテチ将軍』と言う武人が、絶大な権力を握っている国です。
お芋やトウモロコシが主原料のスナックのお菓子は、お誕生日パーティーのサイドメニューとしてや、お酒のおつまみ等々で重宝されている為に、決して侮れない存在なのです。しかも、状況次第ではご飯の代わりにも成り得る強者でもあるのです。
さてさて、この様な世の中の有様に胸を痛めているのは、【和菓子の国】の和菓子寺僧侶・『大福和尚さん』でした。
【和菓子の国】はフルーツジュースの大海原のど真ん中に、ぽつんと浮かぶ小さな島国です。周りは海に囲まれておりますもので、今までも他国との戦闘に発展する事はありませんでした。
以上の様な理由から、特定の国に味方をしたりする事も無く、常に中立を貫いている国なのです。
『大福和尚さん』は、どうにかこうにか世界平和を実現できない物かと、常日頃から一生懸命考えておりました。
そんな折りに、甘い×しょっぱい(ポテトチップスチョコ、柿の種チョコ、塩キャラメル、ハッピー〇ーン等)の絶妙な組合せのお菓子を掲げる他の小国達も、続々と覇権争いに参加を表明するのでした。
言わずもがな、参戦する国が多くなれば、事態は混迷の度合いを増す一方です。
愈以て、世はスイーツ戦国時代の幕開けを迎えた訳なのです。
ですが、ピンチはチャンスに変えられると申します。
これら甘い×しょっぱいな列国の行動にヒントを得て、妙案を思い付いたのが『大福和尚さん』でした。
件の『大福和尚さん』は、とある提案を致します。
その内容とは、『ショコラ王子様』と『ホイップ王女様』とのお見合い話です。
思い立ったが吉日で、すぐに『大福和尚さん』は二国間との仲介を進んで請け負い、『ショコラ王子様』と『ホイップ王女様』の両者に、初顔合わせの場を設ける流れとなります。
甘い×甘い国の双方が接近する事によって、それこそ甘い雰囲気にならぬ訳が御座いません。結果、二人は一瞬で恋に落ちたのです。
そう、甘々な空気に包まれたムードとは裏腹に、意外にも国家間紛争は、甘さ控えめのあっさり風味で解決したのでした。
この時、『大福和尚さん』はこう仰りました。
「そもそも、我々が争う理由は何処にも無いのである。勿論チョコレートだけ、或いはクリームだけでも充分に美味しいお菓子は作れるだろう。ところがどっこい、例えばチョコレート×クリームを取り合せる事により、新たなお菓子の誕生と相成る訳だ。この画期的な掛け算は、当然だが和菓子でも適応可能なのである。この事を我が国・【和菓子の国】では和洋折衷と表現しておる。……要するに何が言いたいのかと言うと、このままいがみ合いをしていても、無限にあるお菓子の可能性を潰してしまうだけなのだ。かるが故に、国民全員が仲良くしましょうねって事である」
この言葉に全世界の人々は心底納得をし、『ショコラ王子様』と『ホイップ王女様』の結婚を機に、お菓子の国々は一切の諍いをやめました。
そして、それからは自国のお菓子の美味しさも追求しつつ、時には他国と協力し合って、お菓子作りの探求に勤しんだのでした。
こうして、お菓子の世界の住民達は、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。