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おっさん、追放される。

「頼む、このパーティーを抜けてくれ」



 それは突然の通達だった。



 今日は何ら変わりのない日常の一幕。

 いつも通り世界にあふれている魔物を退治し、その首をもって周辺の国営ギルドに赴き、報酬を貰い、先を急ぐ旅であるゆえに街を出て暫く進んだ場所にある森で野営をしていた。



 そして今日の魔物は中々に倒しがいがあったと軽口を叩きながら夕食の支度をしていると、このパーティーの中心、否――世界からあらゆる賛美を受けるべき彼、勇者の役割を賜ったその青年にそう突然告げられた。



 勇者パーティーから脱退を通達されたその男は顔を青白くし、うろたえる。



 しかし、男が勇者と他のパーティーメンバー、信仰心の厚い教会が力を持つ国の御子である少女と、魔物との戦いで飢饉に陥り、滅んでしまった国の出身で、盗賊に身を落とした少女を交互に見るのだが、彼女らは口を閉じ、視線を外していた。



「な、何故……」



 男は押し出すように口から言葉を紡いだ。



「俺たちのレベルがいくつか知っているか?」



 男はハッとなる。

 体を震わせ、おもむろに左目を金色に輝かせ、彼と彼女らのあらゆるステータスを覗く。



「おっさん、そういうところだぞ」



 盗賊の少女が頭を抱えて言い放つと、勇者の青年が頷き、拳を強く握った後、男を勢いよく指差した。



「というか大事な話をしてるんだから、飯を作る手を止めろ! そんで片手間に俺たちのステータスを覗くなぁ!」



 男は夕食に出そうとしている干し肉と野菜のスープの鍋にお玉を入れ、小皿で味見をしている手を止めた。



 どこか勇者パーティーを彷彿とさせる、デフォルメ化されたキャラクターが刺繍されたエプロンをかけた男が佇まいを正すと真剣味を帯びた瞳を勇者に向ける。



「本当、わたくしよりエプロンが似合いますわよね」



「飯時に襲撃されるとあのまま出撃するもんなぁ」



「……お玉で魔物の頭蓋骨かち割るんじゃねぇよ」



 心底呆れている彼と彼女らに、男は何故そんなひどいことを言うのかと声を上げる。

 自分はこのパーティーのために尽くしてきた。人生をかけるつもりでいた。彼らとともに魔王を打ち倒すことを夢見てきた。

 故に何でもした。みんなに置いていかれないようにと努力もした。それなのに――男は悲痛の声を上げる。



 しかし、顔を引きつらせた勇者の青年が両手で頭を抱え、たまりに溜まった感情を大地に吐き出すように大きく息を吸った。



「置いていかれてんの、俺らだからぁ!」



「え」



 男は素っ頓狂な声を上げ、プルプルと体を震わせている勇者の青年を見る。



「俺たちのレベルなぁ、5だよ! 一年前にこのパーティーで旅に出て、5しか上がってねぇんだよ! なんでかわかるか!」



「わ、わかりません」



 あまりにも痛ましい青年に、男は今まで彼に見せたこともない丁寧な仕草で返事した。



「お前レベルは!」



「禁則事項で〜す」



 ウインクをしながら舌を外に放り出す挙動をやってのけた男(35歳)に青年が額に青筋を浮かべた。



「それとさぁ! ずっと聞こうと思ってたんだけど、あれなんだよ!」



 青年が指差す箇所には、人が手入れしていない森には不釣り合いな立派な家が立っていた。



「お前野営するたびにいきなり手を叩いてあの家生やすけどさ! 他の冒険者とかギルドの組員に聞いたらさ、野営ってすっごく命の危険がやっばい危ないことらしいじゃん! ねぇよ! 命の危険! これまでで一度も!」



「蚊に刺されるかもしれないでしょう!」



「してねぇよ! 蚊の話は!」



 息を荒げる青年の背中を御子の少女が苦笑いでさする。



「嫁入り前の女の子が2人もいるんだぞ! 蚊に刺されて跡が残ったらどうすんだよ! せっかく綺麗な肌してるんだよ」



「俺たちが何をするために旅してんのかお前言ってみろ! ていうか蚊から離れろ!」



 ついには吹き出してしまった少女たちが互いに顔を見合わせ、自身のプニプニな腕に触れた。



「正直お城にいた時よりも健康的な生活をさせてもらっていますものね」



「健康的な食事と規則正しい生活、魔物とは戦えないけれどおっさんとの模擬訓練という適度な運動」



「筋肉はつけさせてもらえませんけれどね」



「筋肉塗れの勇者パーティー出身の女の子なんて男が逃げてくでしょう! 駄目よ! 2人は幸せにならないと! 500キロオーバーのゴーレム片手で持ち上げスクワットなんて絶対にさせないわよ!」



「どのレベルの筋肉をつけさせるつもりだよ! それは最早人間に筋肉があるんじゃなくて筋肉に人間が宿ってるレベルだからな! それと今そいつが言っていたそれだよそれ」



 男は目一杯の愛嬌を振りまきながら「あたちわからな〜い」とふざけたことを口にしながら首を傾げた。



「その料理だよ! お前どっからその野菜持ってきた! 俺たち一ヶ月街も見つけられず彷徨ったことあったよな? 尽きたことないじゃん! 食料が! どこに! そんな! 備蓄があったんだよ!」



「……おっさんはな、秘密の数だけ強くなる――」



「うっせぇ! それとその強さだ! お前ぇ! 俺が勇者だよな?」



「ああ、みんな知ってるよ」



 男が誇らしげに鼻下を指でさすり、ここまで立派になって俺は嬉しいよ。と優しい声色で言い放つ。



「育ってねぇから! お前さ、この間数いる魔王の1人の幹部と戦っただろう」



「ああ、お前たちは立派に戦っていたよな」



「捏造すんなおっさん」



 自分でスープをよそった盗賊の少女が言い放った。



「魔王や魔王に近い幹部は勇者が持つ特別なギフトじゃないと殺せないんだよな?」



「ああ、だから奴はお前が倒しただろう?」



 彼、彼女らがそんな事実はないとでも言うように悩んでいる様子の表情を見せる。



「俺たちが倒したのはな、お前が幹部をワンパンで沈めたあと何したのか知らねぇけれど、体が分解されて核だけになった幹部の残りカスだよ。経験値も入らねぇゴミみたいなカスだけだよ! この一年、まともに魔物と戦った記憶が一度もねぇんだよ!」



 早口でまくしたてる青年が疲れたように息を吐くと、瞳を潤ませて控えめに男を見上げた。



 男はそっと彼の頭を抱きしめ、俺は間違っていなかったと呟いた。



「間違いだらけですわよ〜」



 男は聞く耳を持たないとでも言うふうに御子の少女の頭を撫でる。



 そして青年は再度ため息をつくとぽつりぽつりと話し出す。



「……別にさ、今言ったことはもう慣れたから気にしないようにしてたよ。でもさ、事情が変わったんだよ」



「何があったんだよ。俺だったら大抵のことはどうにでも出来るぞ」



 男は優しい声色で言うと夕食を皿に盛り付け、青年に手渡す。



「スキルをさ、覚えたんだ。お前以外の全員がな」



「喜ばしいことじゃないか。やはり世界はお前たちをしっかり見てくれているんだよな。胸を張っていい。お前は、勇者だ」



「本当にそう思うか? 俺たちが覚えたスキルっていうのがさ――」



 勇者の青年が男に触れた瞬間、体が発光を始めた。そしてスキルを発動させた。

 その光は暖かく、あらゆる悪意を弾き、悪意ある者はかの者の許可なく彼に触れることすら出来ない。

 全てを超越した最も優しい護りの力。



『ママの加護』



「ぶっふっ!」



 男は吹き出し、体を震わせて笑いを堪える。

 そして『ママの加護』がどのような効果なのか確認しようとすると、勇者の青年が弾けたように顔を仰いだ。



「なんだよママの加護って! 誰がママだボケぇ!」



『ママの加護』

 ·ママに選ばれた対象に使用者が接触することで発動する効果。

  今まで受けた甘やかされたすべてが使用者の力になる。

  具体的な効果は物理攻撃無効、超常現象に分類される攻撃の無効化、精神及び肉体に影響する効果の無効化、悪意を持って近づく存在に触れさせない。


 ·常時発動効果

  獲得する経験値とアイテム、習得するスキルの取得有無はママに選ばれた対象に選択権が与えられる。

  格上の相手と対峙したとき、あらゆる時間、空間を無視してママに選ばれた対象が出現する。

  ママの加護を持たない者を仲間に引き入れることは出来ない。


  親離れというスキルを持っていると加護の効果が薄れる。



「ゴミスキルじゃねぇか! 俺たちに決定権を返せ!」



 スキルの効果を一通り理解した男はわざとらしく口を手で覆い、艶のある動きをしようとしたのだが、腰を大事大事する親父にしか見えない動きで座り込んだ。


「んまっ、あたしがママだなんて!」



「うっせぇよ35歳のおっさん! 俺たちは一刻も早く親離れしねぇと――」



 勇者の青年からピコンと電子音が鳴った。



 スキル『反抗期』を取得しました。



「うるせぇ! とにかく、これ以上お前と一緒にいると俺たちはどんどん駄目になるんだよ」



「と、言うわけですのであなたとはここでお別れですわ」



「おっさんクビな。さっさと街に戻れな」



「ちょ、お前ら――」



 こうして、手を振る勇者パーティーに男――ヴィルランド=ナイトレイヴンは呆然とした表情を向けたのだが、結局はパーティーを追放されるのだった。

 

 

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