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15/21

15.夏。みに四駆。3-1

 ここはイセカイ・ワールド。中世ヨーロッパに似た世界観ながらどこか日本に似た異世界である。

 舞台はヘラス王国という小国。

 

 黒髪のポニテがよくにあうネコ耳美少女イオタ。

 頭頂部にピンと立った三角の耳。お尻から伸びた長い尻尾の色は黒。

 浅葱色の筒袖。袴姿。そして腰には一本の日本刀。

 江戸時代よりTS転生した元北町同心。お侍さんだ。

 従者よろしく付き従う雄のチャトラ猫はミウラ。現代よりTS転生した元アラサー女子である。


 ミウラと某、年も食ってそろりそろりと仕事から足を抜きかけた今日この頃でござる。

 朝の鍛錬を終え、部屋に戻ってきたら、ミウラが机に乗っかって何やら弄っておった。

 ふと覗き込むと――

 

「また懐かしいものを。というか、最近のはそこまでゴテゴテしておるのでござるかな?」

『おお旦那!』

 集中しておったらしく、某が部屋に入ってきたことに気づかなかったようだ。珍しい事もあるのな。……年かな?

 

『そうですね、最近のコースは立体化かつ長距離化してすからね。フレキシステム。扁平タイヤでショタコン、もといシャコタン。着地制御用のマスダンパー。ローラーもずいぶん様変わりしました。両軸モーターに電池は左右配置のミッドシップですよ」

 

 みに四駆でござる。

 ご存じの方も多いと思われるが、全長二〇糎幾ばくかの車のおもちゃにござる。

 魔池と魔道モーターを仕組まれ、そこそこ速い。専用のコースで速さを競い合って遊ぶのでござる。

 

「ちょいと見せてくれ」

 どうぞ、とこちらに前足で押し出してくれる。手に取ると見た目より軽かった。縦や横に稼働する部分が増えておるのな。

 昔は横に動く、横方向吸振機(スライド・ダンパー)だけであったのにな。

 

「なんだこれ? 制動装置(ブレーキ)でござるか?」

『流行は可動式スタビブレーキでございます。専用パーツが販売されております。私らソフトとハードのリアステーが出る前に引退しましたから。なぜか民屋レギュに拘ってましたからねぇ。あの頃のブレーキは反則ギリギリの面白グッズでした』

 

 うむ、民屋規定(レギユ)とは民屋製品に限るというお約束でござる。言い換えれば、民屋製品として買った部品なら何をどのようにして使っても良い。当時、その解釈を拡大して採用しておった。出るのは草レースばかりだったから、別に社外品でも良かったのに。

 

『いやはやなつかしー』 

 遠くを見る目のミウラ。某も遠くを見ておった。

 初めてみに四駆を手に取ったのは、二五年ばかり前でござったかな?

 …………

 ……

 

 

『がんばれ! Vマグニャム!』

「負けるな! ズィーエムニャー!」

 あの頃、素組みのみに四駆に付属のプラローラーを付けただけでミウラと競い合っておった。

 

 とある魔道活動紙芝居に影響を受けた二匹は、試しにと買い込んで走らせてみた。

 小さな部屋の外周を使い、四隅に丸みを持たせる細工を施しただけの、とても恥ずかしくて競争路(コース)とは呼べない代物であった。

 

「思ったより速いでござるな」

『素組みでも直線で時速30㎞越えですからね。速いのだと40㎞を越えますよ。一緒に走るなんて無理無理』

 ドはまりするのはすぐだった。

 まず、正式なコースを買った。

 続いて、大人のお小遣いに見合う金額のパーツ類を買った。取り敢えず、使えそうなのは全部買った。ジャブジャブお金を使った。

 禁断のウルトラダッシュモーターも買ってみた。

 

『ぶっ飛びマシン化しますな。飛距離競争じゃないんだから』

 かような真似、子どもには出来ぬ。仕事を持つ大人の力は凄いと思う。

『しかし、みに四駆は12歳までの年齢制限付き。レースには出られません。どんだけ腕前を磨いても出場できるレースがありません』

「うーむ、子どものおもちゃでござるからのう。ちなみにミウラは年齢的に適合しておるが、ネコの参加はお断りしておるようだ」

『残念です!』

「部品買いで鬱憤を晴らそう。新しい部品はまだでぬか?」

 等と腐っておった。

 

 そんなある日。ネコ耳プロジェクツ(株)が仕事を出している協力工場のシャチョーさんより、よきお話が入ってきた。

「うちの町内で夏祭りがあるんですが、私が実行役員になってしまいましてね。イベントとして、みに四駆レースを企画してるんですよ。ルールは民屋パーツ縛りだけで年齢無制限。どうです? 参加しませんか?」

「是非ともお願い致す!」

「では手前共の方で申し込んでおきましょう」

 来年から、こ奴の会社に回す仕事を増やさねばならぬな!

 

 して――

 

 当日。空はあいにくの曇天。されど我らの心は日本晴れでござる!

 レース場はお手製ながらロングコース。野外お祭り会場の一角でテントを張った下に設営されていた。

 

 始まる前からお子様達が群がっておった。大人とネコの参加は某達だけらしい。ちょい恥ずかしい。

『恥ずかしがってはいけません。草レースとはいえレースはレース。元より年齢無制限! このような機会、又とありません! その為、働く間も……もとい、寝る間も惜しんでセッティングしてきたではありませんか!』

「したり! 危うく臆するところでござった! 礼を言うぞ、ミウラ」

『お役に立てて幸いです』

 

 色々と考えて、某一名の参加とした。初めてのレース。レース経験不足によりセッティングの幅が狭い。試走コースが1つだけだった。等々の理由で、一台しか用意できないと踏んだのだ。

 それは正しかった。

 新発売のサイクロンマグニャムを仕上げるのに精一杯。2人で連日連夜あーだこーだ、飛んだ、遅いなど騒ぎながらセッティングを出して行く。

 そうやって完成したマシン。名付けて「ネコ耳サイクロンマグニャム」!

 大変楽しかった。楽しき日々でござった。目標があれば楽しいものでござる。

 

 して――、

 

 コースレイアウトは初見でござる。

 基本複合コーナーにロングストレートが一本。ヒルクライムバンクの高いのが一本。

 レーサー達がワイワイガヤガヤザワザワ。思っていたよりテクニカルコースだったからだろう。

 しかしこの数は脅威だ。

 

『くくく、所詮お子様。数を集めても所詮烏合の衆。大人のわたし達にかなうはずありません』

「某ら悪者でござるか?」

 

 して――

 

 レースは始まった。

 某は第1レースに参加でござった。4戦目が決勝にござる。

 コースは3レーン。3人3台による競争にござる。

 スタートは公平を期して大会スタッフの手に委ねられる。

 

「スイッチオン!」

 シャーシャーとマシンから奏でられる音が心地よい。ネコ耳サイクロンマグニャムは公式最高速を誇るレブチューンモーターが仕組まれている。

「レディーッ………………」

 間が長いッ!

「GO-!」

 スタート!

 

『え? みんな速い!?』

 ほぼほぼ団子状態でしのぎを削っている。

 大人設定のマシンに食らいついてくる少年少女。先が恐ろしい。

『いや、これは……』

 

「ゴーーール!」

 僅差で某らのネコ耳サイクロンマグニャムが一位通過!

 第二レース第三レースと見学するも、速いマシンが多い。大抵、一レースに一台はずば抜けて速いのが混じってる。

 それらはネコ耳サイクロンマグニャムより速い。

 

『調べてきました。大人が入ってます。アルミシャーシだとか竜だとか虎だとかのレギュ違反がしれっと混じってますね』

「どういう事でござるか? 確かにレギュチェックは無かったにござるが、そこは各自の正義に任せられていたはず」

『大会運営の中の方々のお子様方が主にレギュ違反です』

「そういうことか?」

『そういう事です』

 

 おのれ! 汚い真似をする大人め! これだから大人は子どもの世界に踏み込んではいけないのでござる!

『わたし達も大人です』

「それはこの際横に置いておこう。問題は、このままだと我らは二回戦敗退にござる。よって、セッティングを変える!」

『これ以上どこを弄れと? ローラーは全てアルミ大径。シャーシも最新のスーパーTZです。わたし達のレベルじゃあこれ以上のセッティングは無理です』

「あるではないか。ほら」

 道具箱から取りだしたのはウルトラダッシュモーター。

『そ、それは禁断の! ダメです。マシンがパワーについていきません!』

「武士とは座して死を待たぬ者! レギュ違反者に対し、敵わぬとも一矢報いてくれる!」

『旦那ッ!』

「行く手に危機が待ち受けようと、心の守るものあるならば、たとえ己の命尽きるとも、体を張って守り通す……人、それをッ、『男』という!」

『旦那はおにゃのこですが、立派な男です!』

「いくぞ! ミウラ!」

『はい! 旦那!』

 

 カチャカチャカチリ! 換装完了!

 あっという間に第二回戦、スタートにござる! 

 

「レディーッ……………………」

 だから間が長いって! 間の取り方をたかじんさんに教えてもらえ!

「GO-!」

 

 スタートと同時にかっ飛ぶサイクロンマグニャム。完全先頭だーっ!

 ウルトラダッシュのポテンシャルは凄い。

 他車を圧倒する速度。まさに白い閃光!

 複合コースを次々クリアー! ぶっちぎりで「レーンチェンジで飛んだーぁ!」

 ぐっりんぐりんと横方向にトルネードして飛んでいくマグニャム。

 ガシャンと着地。

 壊れなかったことが幸いでござった。

 

 レースは続いていく。速いマシンが勝つレースにござる。

 優勝した子は小学校も半ばの女の子。シャシ『昔の人はなぜかシャーシをシャシと発音しますね』は、銀に輝くアルミ色。

 某らのも大人のお値段でござったが……。

 

『わたし達の初レースは終わりました』

「うむ、終わったな」

『この大会、来年も開催されるそうですよ』

「某らのレースは終わった」

『しかし!』

 ミウラはクリームパンの様なモフモフの手を握りしめた。

『向こうがそう来るなら、遠慮はいりません。相手は大人。子どもではなく! だったら最初から大人で来いよ!』

「やるか? 正攻法で」

『はい。民屋レギュで戦いましょう』

 

 ふふふ、タダで帰ると思うなよ。

 

 翌年の夏。

 どこまでも晴れ渡った青空の下、青い芝の上、二匹の猫が、みに四駆特設会場の前に立っていた。



年始スペシャル。

むっちゃマニアックw

追加は全3話です。

明日、明後日と投稿します。

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