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人生かくれんぼ  作者: なおのぼる
3/8

天音二奈の体験談「予知夢サービス 前編」

 

 あれは、2年ほど前。

 中学3年生になって、少し経った頃だった。


「アマネ。明日の小テストで七割取れなかったら、放課後に居残り補習だぞー」


「うげっ」


 少々ーーほんとに少々、成績が芳しくなかったあたしは、補習を受けることになりそうなほど、追い詰められていた。


(なんか手っ取り早く点数上げられるよーな、いい方法がないものかねぇ)


 もはや確定している補習に、重いため息を吐く。


 ーーと、そんなあたしの耳に信じられない言葉が聞こえてきた。


「一週間前の小テストで最も点が高かったのは、アカバだった。赤点候補はアカバを見習えよー」


(えぇっ!?)


 信じられなかった。


 何せアカバーー『赤羽(アカバ)四月(ヨツキ)』は、二年生まではクラスで一番を争う、赤点候補な女子生徒だったから。


 それが急に点数大幅アップなんてーー何かあるに違いないと、あたしは思ったんだ。


 だから放課後、あたしはヨツキに話しかけた。


「ヨツキさん! 一体、どんな勉強したらそんな急に点数が上がるの!?」


「あ、えっと……」


 同じように思った人は、あたし以外にも居たみたいで、みんなヨツキの言葉に耳を澄ましていた。


「……気になる?」


「すっごい気になる!」


「うぅん……教室(ここ)じゃ言いにくいから、ウチに来てくれる?」


「うん! 全然いいよ!」


「あの〜……」


「うん?」


 ーーと、ヨツキの言葉に耳を澄ませていた人たちの半分ほどが、「自分たちも知りたい」と名乗り出てきた。


「……じ、じゃあ皆んなウチに来てくれる?」


「うん!」


「暇だから、大丈夫だよ」


「じゃあ、みんなでアカバさんの家に行こっか!」


 そうして、女子三人男子二人ーーあたしを含めて五人の子たちが、ヨツキの家に行くことになったんだ。



 ◇



「ここがウチ。入って」


 学校から見て、あたしの家とは反対方向にあるヨツキの家は、一戸建ての古い家だった。


 案内されたヨツキの部屋は、怪しげな本や雑誌が積まれていて、机の上のパソコンが怪しげな光を放っている。


(なんというか……あたしの部屋に似てるかも)


 怪しげな雑誌の山なら我が家にもあるし、しょっちゅうパソコンを使って都市伝説を探している。


「それで、アカバさんはどんな勉強をしてるの?」


 皆んなが部屋の雰囲気に押されているなか、最も早く再起動した女子がヨツキに問いかける。


 だが当のヨツキは、パソコンをイジっていた。


「あの……アカバさん?」


「ちょっと待って。準備中」


 準備中と言われれば、黙らざるをえない。

 五人全員が黙って、ヨツキがパソコンをイジり終えるのを待っていた。


 30秒ほどで、ヨツキはパソコンから顔を上げる。


 パソコンには、赤と黒で装飾された怪しげな画面が映っていた。


「それで勉強だけど……えっと、みんな名前を教えてくれる?」


「え、ええ。わたーー」


「あ、字も知りたいから……パソコンに打ち込んでくれる?」


「わ、分かりました」


 ヨツキのことを変わった人物だとは思いつつも、五人全員がヨツキのパソコンに名前を打ち込んでいった。


朝日(アサヒ)五郎(ゴロウ)

佐藤(サトウ)六花(リッカ)

草葉(クサバ)七雄(ナナオ)

江都(エド)八白(ヤシロ)

天音(アマネ)二奈(ジナ)


 全員が打ち込み終わったところで、ヨツキが間を開けずにEnterキーを押す。

 すると、パソコンの画面に『登録しました』の文字が浮かび上がった。


 一体何のことかと顔を見合わせる五人。


 ヨツキは、あたしたちを安心させるようにニコリと微笑を浮かべた。


「これで終わりだよ」


「「え?」」


「これで、勉強は終わり」


「どういうこと?」


 全員の意思を代弁するように問いかけるのは、先ほどから率先して話をする女子ーー打ち込んだ名前を見るに、リッカという生徒だ。


 リッカの問いに対し、ヨツキはしばらく黙っていたが、やがてそっと口を開いた。


「あのね、今のサイトに名前を打ち込んで寝るとーー予知夢が見られるの」


「え?」


「テストの問題を望んで寝れば、それが夢に出てくるよ。その問題の答えを調べて、テストを受けるの」


 正気とは思えないヨツキの発言に、あたしたち五人は唖然とした顔になる。

 だけどそこから復活した時、みんなはすごく不機嫌になっていた。


「なんだよそれ、馬鹿馬鹿しい! 俺ぁ帰るからな!」


「僕も帰るよ」


「わたしも……」


 三人が帰ってしまい、残ったのはリッカとあたしだけ。

 困った顔をしているリッカは、縋るようにヨツキに言う。


「アカバさん。わたしは成績が伸び悩んでいて……親にも、睨まれてるんです。本当の勉強法を、教えてくれませんか?」


「予知夢は本当。嘘じゃない」


「……そうですか。失礼します」


 リッカは少し俯いたかと思うと、バッと部屋から出て行った。

 いよいよ、残ったのはあたしだけだ。


「み、みんな帰っちゃったね」


「そうだね」


「……あ、あたしは、そういうオカルトな話、嫌いじゃないよ?」


「それなら良かった」


「…………」


「…………」


(すごい気不味いよー!)


「えっ……と、夢のことは今日の夜に試してみるから! じゃあね!」


「うん。バイバイ」


 二人きりの空気に耐えきれなくなったあたしは、適当な言葉を残してヨツキの家を去った。



 ◇



 その日の夜。


「はー……だるぅい」


 ヨツキの家まで歩いたせいか、お風呂を上がった後はどっと疲れた。それはもう、目を開けていられないほど。


(もう寝よ……あ、でもテスト勉強しなきゃ……)


 ベッドに倒れ込んで、そんなことを考えながら朦朧としているうちに……あたしは寝た。




【問1 ーー、ーーーー 問2 ーーー、ーー…………】




 目が覚めた。


 頭に、謎の問題が刻みついていた。

 夢で出てきたその問題は、一言一句違わず鮮明に思い出せる。


 普通の夢にしては、明らかにおかしかった。

 あたしは夢中で問題について調べ、その答えを導きだした。



 ーーそして、翌日の昼。


 出された小テストは、まさに夢に出たものだった。


 あたしの見た夢は、予知夢だったんだ。



 ◇



 望んだ夢を見たのは、あたしだけじゃなかった。

 あたし以外の三人も、望んだ夢を見ていたんだ。


 別のことを考えていたせいで、見た夢はテストの内容ではなかったようだけど、それでも予知夢だったらしい。


「美味いもの食いたいって思って昼寝したら、夕飯の夢見たんだよ。やばくねぇ!?」


「僕も、そんな感じ」


「彼氏できないかなと思って寝たら、一人だけのわたしが見えて、まだ彼氏いない……これ、予知夢?」


 すごい能力を手に入れてしまった。


 これからはテストで赤点をとる心配をしなくていいと思うと、ものすごく気分がいい。



 ーーけれど一つ、気になる事があった。


 リッカが、学校に来ていないのだ。

 教師に聞いたところ、なんと無断欠席らしい。


「リッカちゃん……なにかあったのかな」


「徹夜で勉強でもしたんじゃない?」


 不安になって呟いたあたしに、ヨツキが声をかけてくる。

 ヨツキの言葉に、あたしは首を傾げた。


「徹夜で勉強?」


「あの子、追い詰められてたから」


 確かに、リッカは少し思い詰めていたかもしれない。


 でもーー


「それで、何でリッカちゃんが学校に来ないことになるの?」


「『予知夢サービス』と契約したら、一日に少しは寝ないといけないの。じゃないと……」


「じゃないと……?」


「死ぬ」


「え」


「うふ、うふふ……」


 ヨツキが何を言ってるのか理解できず、あたしが言葉を詰まらせていると、ヨツキは怪しげな笑みを浮かべながら去っていった。


 残されたあたしは、しばらくの間そのまま呆けていたが、やがてヨツキが冗談を言ったのだと思い直して動き出した。


「ま、全くもう……ヨツキさん、冗談が下手くそだなぁ……もぅ……」


 その日は、それでヨツキの言ったことを忘れたふりをし、適当に授業を受けて帰った。



 そして、その夜。


(……リッカちゃん、明日は学校……来る、よね)


 そんな微かな心配を胸に、あたしは目を閉じたーー




【「昨日の夜、仕事から帰った両親によりサトウの遺体がーー」】



「ーーッ!!?」



 目が覚めた。

 夢の記憶は、鮮明に記憶に残っている。


 リッカが亡くなったことを、担任の教師が……



「ーーない! そんな、あり得ない……あり得ない。これは夢、夢、夢夢夢……!!」



 いくらそう思い込もうとしても、すでに直感はそれと反した答えを選んでいる。


 でも、そんなことはあるはずがない。

 いや、あってはならない。


「夢だよ、夢、夢、夢……」



 結局、その日はそれから眠る事ができずーー















 ーー翌日、学校にてリッカの死が知らされた。




 ◇




「アカバヨツキ!! どういうこと!?」


「なにが?」


 トイレで、ヨツキに詰め寄る。

 ヨツキは怪しい笑みを浮かべて、あたしを見ていた。


「リッカちゃんは、何でーー」


「だから、ルールを違反したから。『予知夢サービス』にはね、ルールがあるんだよ」


「何それっ! ふざけてんの!?」


「ふざけてない。力には代償があるんだよ」


 ヘラヘラとした態度を崩さないヨツキに、怒りが募る。


 今のあたしには、『予知夢サービス』なるものがリッカが死んだ原因である確信があった。


 なぜなら……


「リッカちゃん以外にも……あたし以外に『予知夢サービス』と契約した人、誰も学校に来てないっ!! 一体、何でなの!」


「だからぁ……みんな、ルール違反したの」


「ーーっ! じ、じゃあ、み、みんなは……」


「うん。死んだよ」


 軽い調子でそういうヨツキに対し、怒りより恐怖が湧いてくる。

 あたしは、掴んでいたヨツキの襟を思わず離した。


「ん、もう怒んないの?」


「な、なんで……」


「え?」


 首を傾げるヨツキに対し、必死で言葉を紡ぐ。


「なんで、そんな危険なもの、あたしたちの許可も得ずに勝手に契約したの?」


「だって()()()()()()()得点を伸ばした方法、知りたいって言ったでしょ?」


「それがなんだっていうの!?」


「? それだけだよ。だから()()()()()()()んだよ」


「だから、それが勝手だっ……て……」


 先ほどから、ヨツキの言動がおかしい。


 まるで、ヨツキじゃない誰かが、ヨツキのふりをしているようなーー


「あんた……誰?」


 あたしの言葉に対し、『ヨツキ』は……裂けるような、笑みを浮かべた。


【口が、滑ったかな?】


「……ぇ?」


【アカバヨツキも、とっくに違反している。君も気を付けることだね。じゃあ……サヨウナラ】


 このまま行かせてはいけない。


 そんな直感に従ってヨツキの姿をした()()に手を伸ばすが、何とあたしの手は()()の身体をすり抜けてしまう。


 見れば、()()の身体はどんどんと透けていた。


「ま、待って! あたし、ルール知らないーー」


【ちゃんと寝て、予知夢を見ること。それ以外にルールなんて無いよ】


 そう言い残しーー()()は、消えた。


 あたしは腰を抜かして、放課後になるまでその場から動くことができなかった。

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