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彼女の笑顔がボクを太らせる

作者: 日下部良介

 昼には少し早いが混みあう前に店に入る。大体いつもそうしている。今では行く店もほぼ決まっている。

「いらっしゃいませ」

 女性店員が笑顔で迎えてくれる。店内を見渡して空いている席に案内してくれる。時間が早いのでどの席も空いているのだけれど、いつも同じ席に通してくれる。ボクが席に着くと注文を確認する。注文を取るというよりは文字通り確認するのだ。

「お決まりですか?」

「ステーキ200グラムにランチサラダ…」

「ワカメをトッピングですね。ドレッシングはバルサミコで宜しかったですね」

 そう言ってにっこり笑う。言葉の末尾にクエスチョンマークはつかない。聞いているのではなくて確認なのだから。

「はい」

 ボクも笑顔で答える。


 この店は浅草の雷門通りにある。近くに会社があるわけではない。会社は神田なのだから、昼休みにランチを食べに来るのにはいささか遠いのだけれど、わざわざここまで足を運ぶ。ここに足を運ぶようになってから半年くらい経つだろうか…。チェーン展開しているこの店は神田にもあった。経営的上の問題なのか神田の店舗は閉店となった。


 浅草には仕事の関係も含めて個人的な用事でも来ることが多い。同じチェーンの店に入るのに、ためらいはなかった。そこで彼女に出会った。何度か通っているうちにボクがドアの前に立つと出迎えてくれるようになった。そうして対応してくれる彼女をボクは気に入った。


 注文するものは大体決まっている。ランチステーキ200グラム。ステーキは重さで選べる。そして、サラダを単品で。サラダの他にライスとスープも付くランチセットもあるのだけれど、炭水化物を控えているボクはサラダだけを注文する。そして、ライスの代わりにワカメをトッピングしてもらうのだ。ドレッシングはオニオン、ペッパー、バルサミコの三種類から選べるのだけれど、ボクはバルサミコが気に入っている。そして…。

「サービスドリンクは黒ウーロン茶ですね」

 この店の会員になっているとドリンク一杯の無料サービスが受けられる。ランクによってドリンクの種類が違ってくるのだけれど、ボクは最高ランクのダイヤモンドなので、アルコールを含むすべてのドリンクから選ぶことができる。しかし、ランチだ。ここは黒ウーロン茶しかあるまい。

「はい…」

 返事をしながら会員書を提示しようとすると彼女は「大丈夫ですよ」と、にっこり笑う。


 このチェーン店の魅力は食べた肉の量が重さで記録され、加算されるというところだ。その重さによって、ゴールド→プラチナ→ダイヤモンドとランクアップしていくのだ。ボクが持っているダイヤモンドに到達するのには100,000グラム、つまり100キログラムの肉を食べなければならない。そう考えると、よくぞそこまで食べたものだと我ながら感心する。ところが…。


 ある日ランキングのシステムが変わった。新しいシステムでは量ではなくて回数でランクがアップするのだ。そのシステムからすると、注文できる最低量150グラムをダイヤモンドであれば40回食べればいいわけだ。つまり、最低6キログラムでダイヤモンドを獲得できる。そして、そのランキングは一定期間で所定の回数に達しなければランクダウンするのだとか。

 バカにしている。

 100キログラムを食べてダイヤモンドを獲得した顧客と、たかが6キログラムしか食べていない顧客が同じダイヤモンドだとは…。しかも、ランクダウンって…。


 このシステム変更については常連の顧客たちの間で不満が爆発したのは言うまでもない。その結果、大量に肉を食べてきた多くの常連客が離れていった。そんなこともあって、新しいルールが追加された。回数に加えてグラムでのランクアップも認められ、グラムでプラチナ以上を獲得した顧客はランクダウンをしないというところに収まった。

 当然だ!


 今までは週に一度くらいの頻度で通っていたのだけれど、今では彼女の笑顔が見たくて週に三度は通っている。

 以前はランクアップするために一度に450グラムを食べていたのだけれど、今はグラム数を抑えて回数をこなすようにしている。回数をこなせば10回通うと無料で食べられるクーポンが貰えるからだ。それはそれでもちろん嬉しい。しかし、それもこれも彼女の笑顔が無ければ成り立たないのだ。


 そして、彼女の笑顔がボクを太らせるのだ。


判る人には判りますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きまで、美味しくいただきました。(日下部さんの作品は、食べ物ではないですねf(^_^;) でも、読ませていただいて、お腹が空きました! 私までその場にいるような錯覚を覚えさせてくれまし…
[一言] システム変更で問題になった奴ですね・・・(笑) それよりなによりステーキを週3食えるのがすごいです。 経済的にも胃袋的にも(笑)
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