1-9 無茶も道理の内
「なんか物騒な事を言っている勇者がいるね」
「そうねえ、このオカマのあたしには関係のない話だけど」
「あたしも料理で支援を頑張らなくっちゃあ。
ジョブスキルなんて全然ないんだけど~」
だが、つかつかと勇者はやってきて、その大きな掌で美美の頭頂を思いっきり掴んだ。
「へ?」
「ガンスリンガー、お前に魔王の狙撃を依頼する」
勇ましい勇者装束の総大将の男に頭をガシっと掴まれているという間抜けな体勢で、思わず目が点になる美美。
「ええっ?」
「このような状況の中で、魔王軍の大軍勢が攻めてくる。
しかも、主力となる王国の軍勢も各種ギルドの支援も無しという、俺達にとって有り得ないような絶望的なシチュエーションで。
あからさまに何かが異常だ。
まだ状況は読めんのだが、やれる事をやらずに招く危険を冒す愚は避けたい。
わかるな、ミミ」
しかし、大混乱しながらも言い返すミミ。
「そ、そんなの、無理~。
あたしは本職が料理人なんだよ。
これって冒険者だけでも五千人とか一万人とかでやる戦いなんでしょう?
本当は王国の数万にも及ぶ軍勢が主力で魔王軍とぶつかって、冒険者はその応援をするっていう感じのストーリーで」
「だからこそ、魔王の暗殺以外にこの無理なイベを俺達だけで終わらせる手段はないんだ。
こっちは六十人しかまともな戦力はないんだぞ。
やらなくて万が一街が魔王軍に蹂躙された場合、このゲームから出られない俺達が無事でいられる保証は何もない。
戦う力のないプレイヤーも含めてな」
通常であるならば、魔王軍が街に到達した時点でゲームオーバーなのだが、今回は果たしてそれで終了するものなのか。
あまりにも何もかもがリアル過ぎて、勇者といえども結果を測りかねていた。
「ぐはああっ」
いきなり振られた最悪の配役に呻く美紅。
リアルな感じだからこそやりたくないのだ。
「お前ならやれる。
お前、その三十ミリ砲を抽選でせしめた事からもわかるが、やたらと強運だろう。
あの時も『こいつは何かを持っている奴』という印象を持ったぞ。
本体のそういうスキルってゲームでも結構通用するもんだ」
「ええっ、そんな無茶なああ」
だが、もうクランはその勇者たるリーダーの指示によるプラン遂行のために忙しく動き出していた。