1-8 全滅の世界
「ああ、どこもかしこも無人君ですねー」
「うん、傭兵・商業・鍛冶師・錬金術師・陶芸・薬師・医療・穀物生産・林業・畜産・魔導・魔法士・エトセトラエトセトラ、見事に全滅ですわー」
「もう、素材も加工も何もかも全滅です。
ギルドもNPCも完全に機能を停止しているような状態でしょう」
「他のクランなんかも、うちと同じで戦力低下が否めなくて。
残念ですが、今回の魔王戦は見送るのが吉でしょうね」
だが、それらの可愛らしいメンバー達を見下ろしながら赤沢は言った。
「だが、はたして魔王が見逃してくれるものかな」
「え、それはどういう意味?」
可愛いウサギの副長が訊ねたが、彼も難しい顔をしていた。
「今、この時のように『ゲームの世界から逃げられない意識』である俺達が魔王軍に蹂躙されたなら、どういう結果になると思う?」
「え!」
彼らアニマルボディのメンバー以外も、冒険者ギルドにいた面子は眉を顰めた。
「あの世行き?」
空気を読まない遊び人が、そのような皆が口にする事すら憚る発言をあっさりと放った。
「おい、そこの立て板に水女!」
空気を読みなさいよ、と言わんばかりに親友を窘める美美。
「だってさあ、あたし達このタイミングで、どう頑張ったって逃げられないじゃん。
まあ、あたしなんか元から戦闘要員じゃない訳なんだけどさ」
だが勇者様はその戯言は一顧だにせず、顔をお顰めになられてその場にいる面子の点呼を始めなされた。
『戦えるジョブの人間の数を把握するために』
あちこちのクランの人間が駆け回り、その結果は。
「たった六十人か……」
「純粋に戦闘を中心にした冒険者は、ログインのデフォが戦闘ジョブだしね。
当然そいつらは別ジョブになってしまっていて全員碌に戦えないはず。
イーグルみたいな変わり者は例外中の例外だし。
まあ妥当な結果かな。
まだ残った方じゃない?
こりゃ冒険者も99%は脱落だわね」
ただの白ウサギ(最強クラン・サブマス)にすら匙を投げられる今の冒険者達の厳しい現状。
「傭兵や騎士・王国軍その他に入ったプレイヤーは?」
「彼らは誰もいないわ。
何故だか知らないけど、そういう『純粋な軍勢』みたいな勢力のプレイヤーは全員が何らかの要因でログインを拒否されたんじゃないかと。
だって、ただの一人もいませんもの」
心細そうなウサギの呟きにも似た説明に勇者も、その厳ついながらも整った顔の中で眉を寄せながら返す応えも、ややトーンが低い。
「そうか……」
だが、そこで話に割り込んだ者達がいた。
もちろん、お馴染みの面々である。
「あたし、本業は料理人だもん」
「あたしはオカマよ~」
「あたし、ただの遊び人(禿げズラ&鼻眼鏡)」
そして真っ白なウサギは伸びあがって、片足で交互にピョンピョンしながら憤慨した。
「やかましいわ!
そんな事を言ってられる場合か~。
特にそこの大火力のガンスリンガー!
いや、最後の遊び人はマジで要らないけど」
そして剣士のイーグルは難しい顔で言った。
「さすがに、この面子のみで魔王戦はキツイだろう。
あのイベをまともに攻略するにはワンレイド百人が五十ユニットは要るぞ。
いくらこの緩いゲームのイベとはいえ、戦闘イベントで年間最大のお祭りなんだからな。
まあ、面子の中に勇者がいるのが、まだ救いなのだが」
「それも本来は王国軍がメインとなる戦闘イベントでね」
またもや渋そうに顔を顰める白ウサギ。
「だが、やらんと踏み潰されるのではないか。
その時、俺達は本当に無事でいられるのか?」
「さ、さあそれはなあ」
「だから、俺は提案する。
おいそこのホワイトラビット。
止むをえん、あれをやるぞ」
「あのう、変な呼び方しないでくださいよ~。
やるって、まさかあれを⁇
あの有り得ないようなプランを?」
ざわめく、勇者のクラン。
そして勇者赤沢は宣言した。
「そうだ、俺達は魔王を暗殺する」