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1-6 ギルド探訪

「ひゃあ、いっぱい来てるね」

「みんな情報が欲しいんだよ」


 一応、美美やイーグル、爛ママさえもこの冒険者ギルドには登録してある。


 ユーザーが戦闘イベントに参加するには、他には王に仕官して軍や騎士団に入るか、傭兵団に入るか、あるいはコソ泥の戦場稼ぎになるなどの邪道な道も用意されている。


 まあ一番しがらみも少なく、緩く楽しくイベントで遊べる道が冒険者なので、大概の人は戦闘職のキャラを冒険者登録している。


 本式に冒険者をやる人はクランを作っていて、いろんなパーティやソロの人間を加盟させている。


 もちろん、それらには特段の強制力はなく「イベントで遊ぶぞ、集まれー」というクラン・リーダーの緩い掛け声で、その日暇な奴がゾロゾロと集まってくるだけだ。


 逆に人数が足りなければ、当日に冒険者ギルド内の掲示板で募集をかけたり、逆にソロ冒険者や少人数パーティなんかが自分からクランの大人数パーティに混ぜてもらうよう頼んだりする。


 レイドパーティは人数がいないと組めないので。


 そういうイベに参加しないと貰えない貴重な装備とかがあるのだ。


 まあ、他のプレイヤー同士での殺し合いまでやる殺伐としたゲームなどに比べたら、基本が日常ゲームであるここは非常にのんびりとしたものだ。


 メンバーに小学生を含むような家族ぐるみでレイドパーティに参加してくる人達も珍しくない。


 九十歳の御祖母ちゃんがリアルアバターで、レイド討伐に混ざっていた事さえある。


 皆が敬老精神で止めの一撃を彼女に譲ってあげて、御祖母ちゃんは立派な杖をいただいていたようだ。


 確かに杖という物体を持つのに一番相応しい人材ではあるのだが、その後その強力な武器であるイベント杖は、普通にそれをついて歩く用途以外には一切使われなかったという。


 その方が長くログインしないと「最近、あの御祖母ちゃんの事を見ないね。元気でやっているのかな」「本当、心配だよねー」とかいう内容が情報コーナーに書かれており、心配した人から運営に通報されたりしている。


 それで、わざわざ運営が本人の緊急連絡先へ安否確認を行ったという珍事さえあった。


 それくらい、これはのんびりしたゲームなのだった。


 美紅はネタキャラをたくさん作るのに熱中しているので、すでに二十個くらいジョブを作っていて、完全な器用貧乏ゲーマーである。


 更にその中にきちんと育てた戦闘キャラは一人もいないというくらい念の入った、完全に日常系遊び指向に極振りのゲーム生活だ。


 ある意味で、それはこのゲームのもっとも正しい遊び方なのであるが、さすがに度が過ぎる。


 もちろん冒険者登録は一つもしていない。


 バウンティハンター・ギルドには一応登録しているが、それもあまり意味をなしていないようだ。


 しかも、その中でも最も役立たずなジョブであると思われる遊び人を、今回は見事に引き当てていた。


 本人はそれで非常に本望らしいのだが、この異常な状況下でそれは如何なものだろうか。


 バウンティハンターとしての装備は所有しているのだが、ジョブの異なるアバターなので遊び人には当然装備できない。


 経験値などの増え方やレベルがジョブによって異なるため、一度ログアウトして切り替えてからでないとジョブチェンジして他のアバターに変更する事ができない仕様なのだ。


 あるいは、ジョブをコロコロ切り替えたりせず一日単位で、このゲームをいろんなジョブで思う存分楽しんでくださいね、という運営からのメッセージも含まれているのかもしれない。


「お、現在唯一存在している勇者が率いる、大規模クラン・ソルジャーアントじゃないか」


 皆で見ていたら、リーダーの勇者であるレッドアントがこちらに気がついた。


「よー、倉田。

 やっぱりお前もいたのか」


「おい、ゲーム内なのに本名で呼ぶなよ、赤沢」


 大人げなく、自分も言い返すイーグル倉田。



「あれ、イーグルって勇者と知り合いだったの?


 っていうか、あんた倉田っていうんだ。

 初めて知ったな」


「ん? 鷹、そのいかにも普通っぽい感じの格好をした子達は誰だ。


 可愛いな、紹介しろよ」


 倉田鷹、鷹なのに何故イーグルかというと、単に「鷲は鷹科の大きい種類を言うからな。どうせなら大きい方がいいだろ」なのであった。


 もっとも女子二人だって、結構安直な名前なのであったが。


「あー、あたしですよー。


 いつぞやのイベントでは一緒にパレードにご一緒したミミでっす」



「お、なんだ。


 お前が三十ミリ砲持ちのバインバインなガンスリンガー、あのミミの本体だったのか。


 そうやって知り合いの女性プレイヤーに、お洒落な普段着を着て本当の姿でゲーム内にいられると、もう違和感ありありだな!」



「仕方がないんですよ。

 あれはサイズがちょっとね。


 さすがに見栄を張り過ぎました。


 あと、胸元ぶかぶかなんで、早くサイズ調整をしないと大変な事に~」



「はっはっは、まあ今のスタイルでも十分なだけ胸はありそうだからいいじゃないか。


 美人なんだし、十分立派なプロポーションだと思うぞ」



「ありがとう。


 というか、勇者さんは前より体格が滅茶苦茶に良くなってません!?


 もう完全に別人ですわ」


 自分のあれこれ盛り過ぎに関しては、思いっきり棚に上げている美美。



「ああ、俺はクランのリーダーをやりたかったから、俺のアバターがあまりにも厳つくっては何だったのでなあ。


 カスタマイズしてボディは実物よりも数段デチューンしておいたのさ。


 このゲームって子供の参加者もいるんだぞ。


 メンバーの入れ替わりも激しいし、臨時参加も多い。


 クランのマスターが泣き喚かれては敵わん。


 まあ今となってはそれも今更なのだが」


 実物の体格をデチューンしてさえゲーム内で勇者の地位に登り詰める漢。


 それがこの赤沢という、とびきりの勇者なのであった。


「あら、漢は逞しい方がいいのよー。

 久しぶりねー、赤沢ちゃん。


 たまにはリアルのお店の方にも飲みに来てちょうだいよー、うっふん~」


 どうやらリアルで勇者と知り合いだったらしいママが話に割り込んできた。


「おお、こうやってこのゲーム世界でリアルのあんたの姿に出会うと迫力があるなあ、二階堂」


「二階堂!?」


「ああ、そいつの本名は二階堂龍五郎だ」


「まさかの龍五郎!」


「ママ、本名が格好いい!」


「確かに、爛ママってそっちの名前の方が合っていそうな迫力はあるけどなあ」


 意外と人気の、本名二階堂龍五郎。


 しかし、背中に彫り物とかはないのであった。



「いやーん、もう赤沢ちゃんったらいけずねえ。


 爛ママって呼んでちょうだいな。


 それにあんただって、苗字の赤沢と母親の旧姓有馬でレッドアントじゃないの」



「みんな、意外と安直なネーミングよねえ」


「もう美美ったら他人事みたいに、あんたなんか単に本名のカタカナ読みじゃないのさ。


 女の子は登録ネームを工夫しないと駄目だよ」


「えー、美紅ってば酷いな。

 ミックンだって、そう違わないよ!?」


 意外と今のリアルなアバターと名前ネタで盛り上がったのであった。


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