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1―46 スリット

「ところで、スリットは見つかった?」

「いや、残念ながら」


「そんなあ。

 少しは期待していたのに」


「ああ、お前からの連絡を聞いて、うちの人間総動員で探しまくったのだが見つからん。


 そもそも、こっちでは人がいないからB地区のようなクエストは出ていないようなのだからな」


「そうかあ……」


 これには考え込む美美。

 かくなる上は。


「あたし、しばらくブリちゃんと美紅と組んで捜索していいかな」


「何か当てでもあるのか?」


「逆よ。

 何もないからこそ何か起こす可能性がある人間、また人間以上の捜索能力を持つ存在と、もしかしたらクエストが貰える可能性があるかもしれない、このあたしが組むの」


「そういう事か。

 こんな状態だが、俺はやっぱり一回A地区に戻って今後の協議をしてこようと思う」


「じゃあ、食糧調達委員はこっちに残るっていう感じで。


 もう狩猟場開放という一定の成果は出したんで、向こうのみんなもそれなりに納得してくれる状況じゃない?」


「まあな。

 だが、肉と野草だけではな。


 また量の問題もある。

 じゃあ、俺は昼から戻るから」


「あ、待って。

 自治会の人用に御土産に持って行って。

 肉やお料理を」


「わかった。

 転送してくれ。


 もう気の早い連中は、早速狩りに出かけているそうだ。


 斎藤さんとこが主力で行ってくれているようだな」


「さすが。

 ソルジャーアントばかりが頑張ってるとよくないもんね」


「ああ、あの人はそういう気配りを黙って自然にやってくれる人だからな。


 揉めるのは、これからだろう。

 皆、リアルに家族や仕事なんかを置いてきちまってるんだ。


 食い物が充足したあたりから、きっとあれこれと不満が噴き出すはずだし」


「頑張ってね、副議長さん。

 っていうか、食糧問題が片付いたら、あんたが議長に就任よ」


「そういや、そういう話だったな」


 今の雑事にかかりきりで、イーグルもそのことを失念していたらしく苦笑いを浮かべていた。


「あたしは、あちこちうろついてみようと思うの。


 今回は、もしかしたら地区の連中にではなく、あたしに直接クエストが届くかもしれない」


「なんで、そう思うんだ?」


「B地区では居住区や諸施設を除く広いエリア丸ごと閉鎖だったし、中を探索させるため一回ゲートで足を止めたと思うの。


 ああいう仕掛けがしてあったしね。


 今回は施設が個別封鎖だし、人もいないから。


 へたすると各か所の封印を解くためだけに、それぞれにクエストがあるかも」


「なるほどな」


 それから美美は声を細めて。


「ここの人もいないでしょ。

 へたすると、一緒に封印されていて、クエストで開放されるとか」


 彼もその話には顎に手を当てて眉を寄せた。


「その場合、そいつらは無事なのか?

 そもそも俺達って、今どういう状態なんだろうな。


 以前は、いくらVRMMOとはいえ、絶対にここまで人間っぽい感じでやっていなかった気がするのだが。


 なんというか、あれはアバターを演じるっていう雰囲気でもあった」


「そうなんだけどね。

 たぶん、もう何でもありなんじゃないの」


 美美と美紅は相変わらず、自分のバイタルやメンタルをチェックしていたが、それらは常に正常を示していたのだった。


 そして、イーグル倉田は一人A地区へ帰っていった。

 大山さんが送っていってくれるようだった。


「さて、じゃあ食料委員会は農場開放を目指して頑張りますかあ」


「おおーっ!」

「キャンっ!」


「じゃあ、あたしとイルマは別個でスリット捜索の旅に出るとするわ。

 クエストが出たら教えてちょうだいねー」


「はーい」


「それにしても、こっちに人がいないのはキツイわねー。


 明日までに見つからないようなら、赤沢さんに言って応援を貰いましょうか」


「それがいいね。

 とりあえず、あたし達も頑張るよー」


 そうして、全員で仕事にかかり、美美は久しぶりに悪友とタッグを組む事になった。


「という訳で、美紅なんかして」

「なんかといってもなあ」


「とりあえず、何かして遊ぼう。

 あんたのジョーカー機能に賭けるわ」


「うむ。

 遊び人の唯一の取り柄だしね。


 この特別商品の衣装は、それを無限大に増幅してくれるというわ」


「それはマジな話?」


「うん、あのジョーク好きの運営がそう言っているだけで、こと遊び人に関してはまったく当てにならないという、もっぱらの下馬評だけど。


 特に運営の趣味で作ったジョブだからな」


「そっかあ。

 あの運営じゃ、まあそんなもんだわね。


 でも、藁にもすがるような状況なんだから、試そう。


 第一、面白いじゃないの。

 ここんとこ、マジな展開ばっかりで飽きてきたわ」


 運営の緩さがまた、このオーディナル・エブリデイというゲームの魅力の一つでもあった。


 ユーザーの意見なんかはホイホイと取り入れてくれるので、割合と消費者の理想に近い形態になっているのだ。


 蔭では手抜き運営とか言われてもいたのだが。


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